コレットの娘④
赤ちゃんが魔法を使う。
これは人に限ってしまえば珍しい話だが、人に限らなければ珍しい話ではない。
モンスターであれば、魔法とは体の一部のようなものであり、生まれた時から本能で扱えたとしても不思議ではない。
それがどれぐらい扱いこなせるかは横に置き、なんとなく、ただ使うだけであればなんとかなるのだ。
人間の場合はそういった「なんとなく」ではなく理性と思考で魔法を扱うのだが、これは社会を作るうえで必要だからそうなったという話でしかない。
「魔法はいっぱい勉強すると使えるようになる」と言ったイメージを社会に浸透させ、「学んでないから使えない」と言う常識で一般人の魔法を抑制するようにしているのだ。
実際に学び出してみると、実は学習よりもイメージが大事であるのだが、それすら「学んだことでイメージがより具体的になり、魔法が強固になる」という事にして誤解を広げているのだ。
学びが無駄とは言わないが、学ばなくても意外と何とかなる。特に魔力がたくさんあれば。
それがこの世界の魔法だ。
クロエに関しては、リュカがある程度どうにかすることになった。
赤子の世話で母親が大変なのは、そのほとんどが夜泣きである。
お腹が空いた、漏らしてしまっておしめが不快だと、何かあるたびに泣いてそれを知らせる。
クロエの場合は、「母親が近くにいない」事に気が付くと余計に泣く。
泣く事で面倒を見てもらうようになっている。
多少は付き合ってもいいのだが、それを一日中となると、多くの母親はノイローゼになる。
朝昼晩と赤子に付き合えば自分の時間が取れないし、睡眠が不規則になるため体が持たない。
多くの場合は、母親ではない他の誰かの手を借り、母親から解放される時間を作って何とかする。
お金のある貴族や大商人などは乳母を雇うし、一般庶民は近所の誰かや年長の子供に世話を任せる。昼間だけでも助けてもらえれば、夜だけであれば母親を頑張れるのだ。
ディアーヌやコレットの場合は、夜を乳母に任せる。
それでジェラールやクロエが夜泣きをしてしまったときに起されるのを防ぐため、夜だけは別室で寝ていた。
そうやって睡眠時間を確保して、体と心を持たせているのだ。
リュカは、クロエとコレットを同じ部屋に寝かせるが、コレットに魔法で耳栓をして、起きないようにした。
母親が近くで寝ているからクロエは安心するし、コレットは夜泣きで起こされなければ何とかなるだろうと判断したのだが。
「明るいと、眠れない?」
コレットは、明るい部屋では眠れないと言い出した。
いや、声に出したわけではないが、そうやって眠れなかったと文字で報告をした。
コレットの境遇は一般的な母親よりは恵まれているが、それでも不都合があれば改善のために報告はする。
リュカは、目隠しのようなものでコレットが光を感じないようにもした。
耳栓、目隠しでようやくコレットは安眠できるようになったが。
「クロエが、コレットに構ってほしいとぐずついている?」
今度はクロエが不満そうだという報告が上がる。
「やれやれ。俺が対処するから。コレットは寝かしておいてくれ」
リュカの子育ては、魔法が使えても大変なようであった。




