コレットの娘③
コレットの娘、クロエもジェラール同様、乳母が中心になって育てる。
コレット本人は育児そのものにはあまり手を出さず、乳母のいう事を聞き、一緒に居る事とお乳を上げること。それぐらいしかしない。
ただ、娘の方はコレットが母親だときちんと理解しているらしく、コレットが近くにいないと泣きだす様であった。
リュカはその反応を見ると、しばらく仕事を入れないようにして、できるだけ屋敷に残るようにしていた。
事件が起きたのは、クロエが生後十日になったばかりの、朝の事だった。
「あらあら。クロエ様、おしめですか?」
ジェラールとクロエは別室に預けられており、それぞれ乳母が二名、常に傍に付いている。
その時コレットは隣の部屋で寝ており、その部屋には居なかった。
クロエは夜中に乳を飲んで満腹になってから眠っていたのだが、朝になり目を覚ますと突然泣き出した。
赤子であるクロエの食事の周期は短いが、まだお腹が空いているとは言えない時間帯。
乳母は、泣き出した理由を「おしめ」か「コレット」であると判断し、まずおしめの確認をしようとした。
ここまで、乳母の行動に問題はない。
乳母はクロエが不安がらないように、基本笑顔だ。
この時も笑顔でクロエに話しかけ、おしめを脱がそうとしたのだが。乳母が笑顔でいられたのは、そこまでである。
突然、乳母に向かって「何か」が飛んできた。
「へ? え?」
キン、と甲高い音を立て、乳母の目の前に金属の破片が現れた。
現れた、と言うのは正確ではなく、飛んできた金属片がリュカの魔法により停止させられたのだ。リュカの魔法は壁を作るように乳母を守っていたので、金属片がぶつかった時に音を立てたという訳だ。
周囲を見れば、壁に飾ってあった飾りの一つが破損しており、その一部が飛んできた事が分かる。
乳母は何が起きたのか理解して脱力し、思わずその場にへたり込んでしまった。
「クロエ。落ち着きなさい」
ほどなくして、リュカが現れる。
クロエはまだ生まれたばかりで言葉を理解できるわけなどないが、それでもリュカは普通に語りかけ、クロエを泣き止ませようとする。
リュカがクロエの頭を優しくなでると、泣いていたクロエは徐々に落ち着きを取り戻し、リュカの指をくわえようとした。
リュカはされるがままになっていているが、クロエが落ち着いたので自身も気を抜き、ほっとした表情になる。
「すまないな。驚かせた」
「リュカ様。まさか、これは……」
クロエに手を貸しつつ、リュカは座り込んでしまった乳母に向けて謝意を示した。
乳母はリュカが来てくれたことで落ち着きを取り戻し、それでも早鐘を打つ胸に手を当てながら、何が起きたのかを考える。
考えられることは一つだ。
クロエだ。
先ほどのは、クロエが本能的に魔法を使い、乳母を攻撃した。
リュカの謝罪からも、そう考えるのが自然である。
「ああ。この子は、もう魔法が使えるみたいだね」
苦り切った顔で、リュカは我が娘の才能を認めた。




