騎士とハーレム
ヴルムド帝国には、最強の騎士がいる。
現皇帝に仕えるその騎士は、人の身とは思えぬ戦働きをして帝国の内乱を収めた。
しかし、最強騎士は強すぎた。
帝国を構成する5つの国は、彼との縁を確かなものとするため、姫との縁談を決定する。
彼の出自は平民のそれであったが、それでも最強騎士の影響力は大きすぎる。姫を差し出すことは彼らにとって当たり前のことだ。
この場合、騎士に否を述べる権利は無い。
ただ、騎士への配慮か、妥協点としていくつもの条件が付けられる。
騎士は5人もの妻を欲していなかったが、なぜ結婚しなければいけないかぐらいは分かっていたのだ。
とどのつまり、騎士の婚姻は政治でしかないのだ。
複数の妻をめとる事に忌避感を覚えない事も無かったが、帝国の為と思えば騎士も我慢する。
女性と付き合うといった経験が皆無の騎士には恋する相手もいなかったので、何とか心の許容範囲に収まった。
最強騎士は、戦が無くとも戦う場がある。
しかし帝国は強すぎた騎士がその力をみだりに振るわれることを良しとせず、力は鞘に収められることを望まれた。
婚姻を機に、帝国近くの町に封ぜられることとなる。
騎士自身、自らは戦いを望まぬ気質であったため、これを受け入れた。
“最強”は、ただ沈黙を守るのみ。
未婚の姫。
彼女たちは政治的な利用価値の高い駒でしかない。
そのほとんどがやはり婚約者を持っていたが、これを破談にして、姫たちは騎士との婚姻に臨む。
ある姫は、純粋に騎士を想う。
ある姫は、この婚姻を認めていなかった。
ある姫は、騎士の力をいかに取り込むかを考える。
ある姫は、騎士に深い恨みを抱く。
ある姫は、この婚姻に興味も何もなかった。
国を代表する5人の姫。
若く美しい彼女たちは、騎士に捧げる生贄か。
人外とまで言われる力を持つ騎士を人に留める鎖か。
それとも。
力で殺せぬ騎士を刺す、一振りの短剣なのか。
これはロズウェルという小さな町に封じられた、騎士と姫の物語。