主人の同僚と私
また、あの男だ。
私と主人が散歩していると必ず出くわすその男は、いつも嘗め回すような視線で私を見る。
主人の同僚なので無視はできないが、正直近寄りたくない。
親しげに談笑している間にも、こちらが気になるらしく不躾な視線をちらちらと私に向ける。
私のことを何度も可愛いと褒めちぎるので、主人もまんざらでもない様子だが、私は言われるたびに虫酸が走る思いだ。
あ、主人の携帯に着信が入った。
会社からの緊急の連絡のようだ。
通話に夢中なことをいいことに、男が無神経に私へ近づいてくる。
そして、あろうことか私の身体に触れようとしてくるなんて。
驚いて離れ、男を睨みつけてやったが、動じる気配も無い。
なんて厚顔無恥な男なんだろう。
しかも男は懲りずにまた手を伸ばしてくる。
助けて! と叫びそうになった時、主人の通話が終わり、男に声をかけた。
「お待たせ。こんな時間にもクレーム対応の電話だよ……ん、どうした?」
「いや、どうも俺は嫌われてるみたいでさ」
「ああ、ごめん。うちのは人見知りする性質なんだよ」
そうなんだと納得した男は私を見下ろした。
「それにしても、お前んちの犬って、ホント可愛いよな」
「そうだろ」
自慢げに私の頭を撫でる主人に、私はぱたぱたと尻尾を振った。
短編集「つかの間の息抜きに」より抜粋。