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思い出の可能性

「魔法……?」

「そ、魔法」


 答えながらリヴさんを先頭に私達はそれに続いていく。

 予想外の答えだったせいか、カイルさんの表情から険しさは消えていた。


「魔法って魔術の原型になったってやつだろ?」


 今私達が使う魔術は魔法を模して生まれたものである。センスの感知もそうだ。

 何が違うか?

 例えば私達は魔術で火を出せるが、元からある火をどうこうすることは出来ない。

 これは魔術によって出た火が自身の魔力で練り上げられたものであるためだ。魔術で出した火しか制御下に置けず、また持続力も低い。

 変わって、魔法は魔術で出した火どころか、そこらの焚火まで使い手が意識できる全ての火のコントロールが可能で、火力から形まで自由自在だったそうだ。

 これは火を使うという人間の原初の奇跡が魔法として現れたものだとして伝えられている。


 魔術を学ぶ時に必ずというほど出てくるので魔術を使う者は全員この話を知ってるといってもいい。 

 だが、魔法がどういうものなのか見たものはほとんどいないだろう。

 なぜなら魔法は魔術の基になったという歴史以上のことが伝えられていないからだ。

 何をもって魔法だと私達にはもう知る術はない。


「そう。人の思い、技術、夢、願い、偶然、それらが形になった一つの奇跡。それらを魔法と呼び、それらを模した魔術となって今でもその存在が伝えられている……私はその魔法を探すシーカーなの」


 だというのに。リヴさんはまるで魔法がどういうものなのか知っているように語った。

 魔法を探すシーカーというだけあって何か手掛かりを得ているのだろうか。


「夢はあるけど、魔法が今もあるなんて話聞いたことないな……それに探すなら魔法使いなんじゃないのか?」

「いいや、魔法よ。魔法使いも探すけどね」

「使い手には興味ないってこと?」

「意味が違うってこと」


 それを聞いてカイルさんはアメリさんに耳打ちする。


「どう違うんだ?」

「私が知るわけないでしょ。……まぁ、こだわりなんじゃない? 変なこだわりを持つなんてシーカーなら珍しくないでしょ」

「確かに」


 アメリさんの言葉にカイルさんは納得する。

 シーカーは自分の追い求めるものを探す人達だ。元から自分の欲を満たす為に動いている言うなればエゴの塊のようなもの。

 リヴさんのエゴの形が私達には今理解できなかった。それだけのことだ。


 ――けれど。

 少しだけ気になることが一つ。


「ん?」


 最後尾の私と並ぶようにして歩いているユウトさんをばれないようにちらっと見ると、すぐに気付かれる。

 周りをきょろきょろ見ていたので気付かないと思ったのだが、するどい人なのかもしれない。


「どうした?」

「あ、い、いえ、なんでもありません」

 

 私の視線を気にする様子も無く、ユウトさんは再び周りを見始める。


 ……リヴさんは「私は」と言った。

 ならば、こちらのユウトさんは?

 違う目的を持っているのに同行してるなんて事があるのだろうか?


「そっちは?」


 リヴさんは歩きながら自分がされた質問を今度は私達に返してくる。

 カイルさんが質問した時と違って、その表情には何の思惑もなさそうでただ好奇心で聞いているようだった。


「俺達はトレジャーハンターだよ。金目のものなら何でもさ」

「お、いいねー」


 カイルさんが自嘲気味に答えると、リヴさんはそう言いながら楽しそうに笑う。

 その反応にアメリさんは不思議そうだ。


「珍しくもないと思うけど?」

「珍しくはないけど、夢があるじゃない。魔獣を倒しながら遺跡探したりしてさ」

「何も無い時は肩落として帰ったりな」

「あはは! それもまた冒険じゃない?」

「言えてる」

「無かったら無かったでそれもまた話の種になるし」

「飯の種にはならないのがなー……」

「それはもう一働きして手に入れないとね」


 リヴさんは時折後ろを向きながらお二人と雑談に花を咲かす。

 目的のものが被っていなかったからか先程よりも空気が和やかだ。


「三人とも?」

「私とカイルはそうだけど……」

「そういえばソフィちゃんって何か探してるものあるの?」


 不意に、私の話題になる。

 当然私に視線が集まった。


「あ、えっと……」


 元から話に割って入るタイプではないのだが、正直な所を言うとこの質問を振られたくなかったから最後尾にいたのである。

 言いたくないとか隠しているわけではないのだが、初めて雇われた時にこれを話して笑われたちょっと嫌な思い出が棘のように引っかかっている。


「その……子供の頃の思い出なんです」

「思い出?」


 そう、思い出。

 私が探しているのは記憶と呼ぶには不確かな、子供の頃の幻想だ。


「自分の知らない所に行くのが好きで、毎日行ったことない場所にふらっと遊びに行くような子供だったんです」

「うんうん」

「それで、ある時病気で熱が出て両親に寝てなさいと言われたのに、いつものように遊びに出かけたんです。町の外に出てそのまま倒れてしまって……熱で朦朧としてたせいかその時の記憶は曖昧なんですけどね」


 その場所がどこだったか、何をしていたのかも正直覚えていない。

 でも、あの時は何かを求めるように毎日遊びに行っていた。


「どうなったの?」

「顔も覚えていないのですが、旅の人が助けてくれたそうで事なきを得たそうです。治った後に両親に相当怒られたのを覚えています」

「だろうねぇ……」

「でも、それよりも覚えていることがあって……"火"を見たんです」

「ひ?」


 カイルさんが不思議そうに聞き返す。

 私は頷いた。


「誰かが担いで走ってくれた背中の上から私は空を見ていたんです。そしたら"火"が空を飛んでたんです」

「空を……? 太陽とかじゃなくて?」

「赤い鳥とかじゃないの?」


 カイルさんとアメリさんのどちらにも首を振る。

 私のその様子にどうして違うとわかるのかという言葉をお二人は飲み込んでいるようだった。

 逆の立場なら私もそう聞きたい。

 でも、私には不思議な確信があって。それは間違いなく太陽でも鳥でも無かった。


「その"空飛ぶ火"を私はずっと探してるんです。一目、もう一度見たいんです」


 四人とも黙っていた。

 ある意味リヴさんの魔法より突拍子がない。

 子供の頃の妄想と片付けられてもおかしくないのに何も言わないだけ、笑わないだけ、この人達はいい人だ。

 私でさえ、あれは熱で見た幻覚なんじゃないかと半分思っているのだから。

 少しして、リヴさんが口を開く。


「どう思うユウト?」

「話だけじゃ何とも。現実的に考えるなら誰かの魔術か魔獣、可能性は低いけど隕石ってのもあり得ない話じゃない」

「私達的に考えるなら?」

「火は一番神格化されるものだからどっかの神様の話から生まれてるかも。鳥は後世で火と関連付けられたのもかなりいるから、空飛んでてもおかしくない。個人の願いだったら意味わからん。火が飛ぶことで何が叶うかは俺の想像じゃ出てこないかな」

「うーん、それは私も。何かモチーフはありそう」


 私が皆さんを置いてけぼりにしたと思った今度はリヴさんとユウトさんが私達を置いてけぼりにしている。


「あ、あの……? どういう?」

「ん? わからない? ソフィちゃんが見たそれはもしかしたら魔法かもって話」

「え?」


 つまり、今の会話はお二人なりの考察?

 馬鹿にされないだけでもありがたいのに、まさか真剣に考えてくれるなんて私には初めての出来事だった。


「あー……みんな夢があるな、やっぱシーカーはこうじゃないとな」

「そ、そうね」


 カイルさんとアメリさんは信じていないといった感じの愛想笑いだ。

 こっちが当然の反応で安心する。むしろ私に気を遣ってくれるだけ優しい反応だ。


「ん、ストップ」


 リヴさんが急に足を止め、手を広げて止めるように促す。


「どうした?」

「やっぱあったよ」


 リヴさんが指差す先には成長した樹木で隠れた石材の階段とそして入口。

 自然に出来ることのない造形でその口を開けていた。

 探索場所が見つかったことに少し感謝する。

 珍しく自分の探しているものを信じてくれる人がいたというのに、妙な居心地な悪さが私にはあったから。

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