表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

変わったシーカー

「いやー! ごめんね、二人して見苦しいもの見せちゃって!」

「いや、いいもの見れ……あだだだ!」


 アメリさんは無言でカイルさんの耳を引っ張った。

 

「私はリヴ。あなた達もシーカーでしょ?」


 そんな二人を気にする素振りも無く、女性が自己紹介をする。

 当然、服は着てだ。

 さっき半裸の状態で会った時も変だと思っていたが、服を着てもその感想は変わらなかった。

 というのも、彼女の服装は黒いトンガリ帽子に黒いローブとお話の中の魔女をそのまま出したような格好で今時見かけるようなものではない。

 ローブは武器や持ち物を隠すのに便利なので見かけるが、トンガリ帽子はまず無いのだ。

 本人は顔立ちも整っていて、スタイルもよいだけに特に目を引く。


「ああ、カイルだ。よろしく」

「アメリよ」

「あ、ソフィです。私はセンスですけど……」


 こちらも揃って自己紹介をすると、センスと聞いてリヴさんは目を輝かせた。


「いいなー、センス! ねー、ユウト!」

「あー……そうな」


 リヴさんが後ろに声をかけると水浴びをしていた男性が着替えを終わらせたのか、黒い布を持って陰から出てきた。

 名前はユウトというらしい。

 こちらも服装が別の意味で変だ。

 白いシャツに黒いズボンでどこかキッチリした印象を受ける。

 手に持っている布はマントだったようで、陰から出てきながら羽織り、首から膝辺りまでを覆った。


「どっちかがセンスなんじゃないの?」


 不思議そうにアメリさんが聞く。

 探索にはセンスを連れていくか、センスと同等の能力を持つシーカーがいるのが常識である。

 単純に危険を察知できないので探索のリスクが上がるためだ。

 名のあるシーカーのグループは大体後者のセンスと同等の能力を持つシーカーがが一人はいる。

 センスが一部から見下されているのはそのせいもあり、探索能力の低いセンスはそういったシーカーからすると単純な下位互換だからだ。

 駆け出し用と馬鹿にされる事も珍しくないが、逆に言えば駆け出しの人には必要な存在なので職として台頭したのだ。

 慎重なシーカーが二人目として情報の確実性を上げる為に雇う事も少なくないので、なんだかんだセンスの需要は高い。


「いや、どっちもないない! ユウトに至っては魔力も低いから自分の魔力がわかってるかも怪しいし!」

「おい、さりげなく馬鹿にするなよ」

「さりげなくじゃないよ? 普通に馬鹿にしてる」

「なおさら悪いんだよ!」


 なので、どちらも感知能力が無いシーカーのコンビは珍しい。

 普通はどちらかが感知能力を持っているか、どちらかがセンスかなのだが……。


「何でセンスを雇わないんです?」


 つい聞いてしまった。

 センスとしては雇わない理由に興味がある。


「お金無い!」

「あ、そうなんですね……」


 最も世知辛い理由だった。

 センスを雇うのはあまり高くないのだが……よほどお金が無いのだろう。

 少し同情してしまう。


「だからここまでの路銀も節約してやっと最近ここに辿り着いたの。いやー、大変だった」

「ほんとにな」

「まさか、馬車使わないで来たのか?」

「いや、流石にこの森までは馬車使ったけど、そこまでは節約の精神できたわ」


 どこから出発したのかはわからないが、ギルドから最寄りの村まではかなりの距離がある。

 途中観光地で足踏みしたとはいえ、馬車を乗り継いで来た私達も七日かかっているというのに、この二人は一体どれぐらいかけてここに来たのだろうか。


「……もしかして」


 そして、アメリさんがある事に気付く。


「帰還報告の無いシーカーって……この二人の事じゃ……?」

「あー……なるほどな……」

「探索日数をいつにしてたんですか?」


 帰還報告は出立報告の際におおまかな探索日数を決めてギルドに申告する義務がある。

 ある程度帰ってくる日程を定めておかないとギルドからの依頼の斡旋などが滞ってしまったり、亡くなったかどうかの判断がつかない。

 主に後者が理由だ。 

 次のシーカーの為に、探索日数をある程度決めるのは探索先が危険な場所だという情報を出す為でもある。

 そういった情報を加味してシーカーは探索をしているのだから、ずっと探索中では悪戯に発展途上のシーカーが命を落とす原因にもなってしまう。

 この森は申告されていた探索日数から十日以上過ぎていたので、ギルドが危険度の高い場所としていた。


「私何日で帰るって言ってきたっけ?」

「五日」

「「無理だろ(よ)!」」


 あまりの無計画さにアメリさんとカイルさんが声を揃えてつっこむ。

 確実に無理だ。どれだけ急いで来ても四日か五日はかかる。帰る分が全く計算に入ってない。

 私もつい乾いた笑いが零れてしまう。


「ここに来るまでで終わっちまうわ!」

「いやー、思ったより遠かった」

「そりゃそうでしょうよ……」


 まさか、探索日数をてきとうに言っているシーカーがいるとは思わなかった。

 ギルドや他のシーカーからの評判が気にならないタイプなのだろうか?

 たまにそういう人はいるが、大体のシーカーは大雑把でも日数の申告や帰還方向はしっかりする。

 予想した日数内で探索を終わらせたり、探索先から帰ってくるというのはそれだけである程度能力があることの証明になるからだ。

 

「まぁ、帰ったら流石に帰還報告するよ」

「当たり前でしょうに」

「ここに来たのはどのくらい前なんだ?」

「二日前くらい?」


 確認するようにリヴさんが荷物を確認しているユウトさんのほうを見ると、ユウトさんは静かに頷く。


「これだけ大きな森な上に、来る前の村で不帰の森とか神様の庭とか言われてたからずっと警戒してたんだけどね、センスいないから二人で手分けして調べてたら時間かかっちゃって。魔獣がいないって気付いたのが昨日の夜」

「何もなかったのか?」

「いや、ユウトが石材っぽいの見つけたから何かあるにはあるってのが私達の見解」

「遺跡?」

「それは何とも。人が住んでた跡ってだけで、何もないかもしれないし」

「年代とかはわからないよな?」

「うん、私達はそういうの全く」


 カイルさんの質問に、リヴさんは嫌そうにするでもなく教えてくれる。

 何かあるというだけでも貴重な情報だというのに太っ腹だ。

 ただ森を彷徨うよりもずっといい。何かあると期待しすぎるのも疲れるが、何もないかもと思うのも精神的に辛いのだ。


「終わったぞ」


 荷物の確認が終わったのか、ユウトさんがリヴさんに声を掛けた。

 すると、予想外の質問がリヴさんから飛んでくる。


「ありがとユウト。私達は行くけど、あなた達は?」

「へ?」

「え?」


 カイルさんとアメリさんも予想外だったようで、面食らっている。

 私も含めここで別れて探索になるかと思っていたからだ。


「一緒に行ってもいいのかしら?」

「うん、別にいいよ?」


 リヴさんが独断で決めているようだが、ユウトさんのほうは特に口は出さない。

 話しているところだけ見ると対等な関係のように見えたが、探索に関しては意外にリーダーが絶対のコンビなのかもしれない。


「とりあえず森の中心を目指すけど、それでいい?」

「……ああ」


 リヴさんがそう聞くと、少し間を置いてカイルさんは頷く。

 少し怪しさも感じたようだが、こちらにとってはありがたい申し出だ。

 先にここを調べているシーカーに着いていけるのだから不意な危険はほとんど無くなる。そして単純に人数が増えることが頼もしい。


「いくつある?」

「二つ」

「じゃあ大丈夫そう?」

「ああ、とりあえずは大丈夫だと思う」

「ま、無理でも私がいるし?」

「なるべく頼らないようにするけど……まぁ、その時は」

「素直でよろしい」

「悪い」

「ふふ、いいのいいの」


 確認していた荷物をユウトさんがリヴさんに渡す。

 その間に交わされている会話を聞いてもユウトさんは不満そうにしている様子もなかった。

 これから出発しようというその時、


「そういえば、あんた達は何を探してるんだ?」

 

 カイルさんが二人に質問する。

 軽い質問のようだが、カイルさんの表情は険しい。

 その表情からある程度覚悟を決めた質問だということがわかる。

 何を探しているか、何を追い求めているか。

 それはシーカーにとって重要なことだ。

 カイルさんとアメリさんはトレジャーハンター。お金になるものなら大体が対象だ。

 お二人とも駆け出しで、早く名を上げる為に情報も少なく、危険度が高いとされるこの森を選んでいる。

 リヴさんとユウトさんが何を探しているシーカーなのかはわからないが、同じ場所に違うグループのシーカーがいるとなればそれは商売敵になる。

 リヴさんとユウトさんがトレジャーハンターで、ここにあるものを全て持ってかれてしまった場合、お二人は何も無かったと報告をせざるを得なくなる。

 危険度が高いとされる場所を探索した二つのシーカーのグループが片方何も無かったでは探索能力を疑われる可能性もあるので、これからの活動に支障をきたすだろう。


 そんなある意味宣戦布告になるかもしれない質問をされたリヴさんは振り向いてにこっと笑った。

 まるで、よくぞ聞いてくれましたと言うかのように。


「私はね、『魔法』を探してるの」


 そう答えて、彼女は歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ