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剣とシャベルと鍵使い




一直線に迫る剣筋を,特大工具が寸前の所で捌いていく。

相手の実力は剣士のそれだったが,クレイヴも反射神経で何とか追い付いている。

一振りで終わらせる筈だった予定が狂い,看守のヘルターは少しだけ笑みを見せた。


「へへっ。てめぇ新入りのくせに,少しはやるみてぇじゃねぇかァ」

「そりゃ,どうも……!」

「でもなァ。ここは俺の部屋,絶対的な空間だァ。地の利がある以上はお前達に勝ち目はねぇよォ」


ただ,余裕の度合いは明らかにヘルターの方が上だった。

戦いを楽しむ彼と違い,クレイヴにそんな余地は残されていない。

素人目のエレシスから見ても,状況は芳しくないことが分かった。

そして武器同士を拮抗させながら,クレイヴは看守に問う。


「アンタ,エレシスに雇われたって言うなら,どうして囚人たちを奴隷のように扱った?」

「別に,ここの階層をどう扱おうと俺の勝手じゃねぇかァ。どいつもこいつも,偶然出てきた奴らばかりなんだからよォ」

「お前,よくそんな横暴さでクビにならなかったな」

「ここでは,それが許されるんだよォ。それに何処だろうが関係ないねェ。外に出ても,気に入らねぇ奴は,ぶっ飛ばしていったからなァ」

「看守とは思えないセリフだなっ!」


クレイヴが振るったシャベルは,そのまま空を切る。

彼の反撃は見切られ始め,徐々に防戦一方になっている。

このままでは押し切られるのも時間の問題だ。

人が死ぬ。

意味もなく死んでいく。

記憶にない筈の既視感が全身を包み込もうとして,エレシスは辺りを見回す。


「何か,私に出来ることは……」


このまま黙って見ている訳にはいかない。

何か手助け出来そうなものがないか探すと,頭上にぶら下がり続ける剣の群れが目に映る。

それら全てが不気味な気配を放っており,そこでエレシスは思い出す。

ヘルターは,この場所を絶対的な空間と言った。

剣の群れは,言わばあの男にとってシンボルのようなもの。


「剣が,ここの象徴なら……!」


何か変化が起きるかもしれない。

エレシスは,扉を開錠した時と同じ感覚で念じ,固い結び目を解くような思いを伝える。

すると繋いでいた鎖が千切れ,剣が一本一本音を立てて落ちてくる。

落下した剣は地面に当たると同時に,バラバラに砕け散った。

直後,周囲を覆っていた気配が揺らぎ,ヘルターもその変化に目を見開いて動きを鈍らせる。

明らかに効果がある。

彼女は突破口を見出した。


「開錠しただとォ!? まさかあの婆,まだ残っていやがったのかァ!?」

「貴方のことは知らない! でもここから通してもらうわよ! もう,こんな所は御免なんだから!」


そこから先の戦闘は長く続かなかった。

弱体化したヘルターの隙を突いたクレイヴが,彼の持つ剣を弾き飛ばしたのだ。

鈍い音を発したシャベルは,そのまま呆気に取られた看守を張り倒す。

致命傷でも何でもない一撃だったが,屈強な男に膝を付かせるには十分だった。

勝負が決し,息を吐いたクレイヴの元にエレシスは駆け寄る。

見た所,彼に傷らしい傷はなかった。


「今のは一体?」

「剣を砕けば,何かが起きるんじゃないかと思って」

「な,成程。よく分からんけど,助かったよ。カッコつけたは良いけど,正直危なかった」

「怪我はないの……?」

「勿論。お陰さまで,全くの無傷さ」


少し息は上がっているが,問題はなさそうだった。

大事ないことを知り,エレシスは安堵する。

一時はどうなるかと思ったが,何にせよこれで先へ進むことが出来る。

だが二人が上の階を目指そうとした時,膝を屈していたヘルターが動きを見せる。

彼はよろよろと立ち上がり,敵意を漲らせていた。


「ふざけるなよォ……。俺はまだ,物足りねぇんだァ……」


吊り下げられていた剣をもぎ取り,破れかぶれに振り回す。

その過程で接触した天井の剣が,鎖の音と共に大きく揺れ動く。

まだ戦いの意志を失わないヘルターに対し,クレイヴはエレシスに声を掛ける。


「エレシス! こっちに!」

「俺達を縛り付ける奴らが! 危険だとのたまう奴らが,沢山いるんだ! 俺はソイツらが,どうしても気に入らねぇんだよォ!」


力技で強引に押し切られるかもしれない。

接近するヘルターに,クレイヴがどうにか体勢を立て直そうとする。

だがその瞬間,天井の剣が嫌な音を発した。

それはエレシスが剣を開錠した時と同じ,鎖の千切れるものだった。

先程ヘルターが振るった剣の衝撃で,鎖が外れたのだろう。

一本の巨大な剣が,支えを失って真っ逆さまに落ちてくる。

異変を感じたヘルターは真上を見上げるが,既に手遅れだった。

落下してきた剣が,彼の胴体に突き刺さった。


「ガハッ!?」


クレイヴが思わずエレシスの目を覆う。

彼女も視界こそ遮られたが,何が起きたのかは理解でき,身体を震わせる。

どう足掻いても致命傷。

一瞬の静寂が,この場を支配する。

するとその後,ヘルターの胴体はあの老婆と同じく,黒い闇に包まれていった。


「黒化が……」


クレイヴがそう呟くと同時に,ヘルターは突然笑い出す。

それは死を間近にした男の,自嘲気味な感情の吐露だった。


「お前達は……どの道,ここからは出られねェ……。あの看守が……ゴーズがいる限りはなァ……」

「ゴーズ……。確か上層の看守……」

「ケケケ。せいぜい,期待しておくんだなァ……。自分の末路って奴をよォ……」


ヘルターなりの助言だったのかは分からない。

ただ,死と黒化の末期は同じだったのだろう。

死と同時に黒化に取り込まれた彼は,二人の前から灰のように崩れ落ち消滅した。




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