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手を差し伸べる者




「はは,そろそろ暴れるかァ」


気晴らしにでも出かけるような言葉。

とても愉快な男の声が,その場にいた二人を振り向かせた。

エレシスは直ぐに,今の声が最下層を管理する看守のものだと理解した。

この階層の囚人の惨状も,全てあの男の仕業に違いない。

事態の悪化を悟った彼女は,クレイヴに声を掛ける。


「このままじゃ鉢合わせになるわ……! 逃げるわよ……!」

「確かに,マズそうだな……」


ここはまだ監獄の最下層。

看守に見つかってしまえば,上層の者達にも脱獄がバレてしまうかもしれない。

騒動は起こさないことに越したことはない。

二人は別の通路を見つけ出し,小走りで声の主から遠ざかっていく。


「あァ? 誰かいんのかァ?」


そんな僅かな気配に,看守の男は気付いてしまったようだ。

剣を鞘から抜くような,金属を擦り合わせる音が遠くから聞こえ,思わずエレシスは身体を震わせる。

逃げ切れるだろうか。

彼女は自室以外の構造は知らず,上階に行くための道のりも分からない。

行き止まりに突き当たれば,そこで終わり。

先導するクレイヴは,息が乱れつつあるエレシスを気に掛けるばかりだったが,元はただの配管工だ。

もし逃げ切れない場合は,自分が脅迫して同行させたと,彼だけでも逃がさなければならないだろう。

そう思う彼女に,聞き慣れない声が呼び止める。


「あなた達……こっちに来なさい……」


しわがれた老婆の声。

反射的にエレシスは立ち止まり,辺りを見渡す。

よく見ると石造の壁が,一部歪んでいるのが分かった。


「エレシス,どうした?」

「これ,隠し通路だわ……!」


そこに触れると,壁が開き戸の形で動き出す。

先に見えるのは,暗闇の通路。

看守との距離も近く,ここに逃げ込む以外に方法はないようだ。

クレイヴの手を引いて,彼女はその通路へ飛び込み,ゆっくりと壁を元に戻す。


暗闇に閉ざされた中で,狭い通路を壁伝いに歩いていく。

そうすると先の通路から光が見え始め,開けた室内が二人を迎え入れる。

箪笥ばかりが置かれている奇妙な一室。

そこに真新しい服を着た老婆が,木製の椅子に座っていた。


「大丈夫だよ。ヤツはまだ,最下層の構造を知らない。ここは見つからない」

「私達を助けてくれたんですか?」

「まぁ,そういうことになるね」


エレシスの問いに返答する彼女も,身体に黒い痣が幾つも残されていた。

しかし痛みを感じていないようで,二人を警戒する素振りもない。

ひょっとすると,これは痣ではないのかもしれない。


「助けて頂いて,ありがとうございます。私は……」

「いや,もう知っているよ。エレシス・ディー,最下層のご令嬢だろう?」


老婆は既にエレシスの正体を知っていた。

また,エレシスも老婆を何処かで見かけた気がしていた。

事情の分からないクレイヴは,二人は知り合いだったのかと目を丸くする。


「婆さん,彼女のことを知っているのか?」

「勿論。この階層は,元々私の管轄だったからね」


そして思い出す。

エレシスは,かつて彼女の顔を何度も見ていたのだ。

家族としてではなく,この牢獄を守護する管理人として。


「私は,この大監獄の元看守さ」


看守の老婆は,確かにそう言った。




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