表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/30

最下層の監獄事情




部屋を脱出したエレシス達は,真っ直ぐに伸びる石造の道を進む。

今の所,他の監獄部屋は見えない。

構造的には非常に長い一本道の先に,彼女の部屋があったということになる。

やはり異様な扱いをされていたことに違いはない,と二人は思うのだった。


監獄最下層ということもあって,陽の光は一切ない。

壁に取り付けられた蝋燭に僅かな火が灯っているだけだ。

薄暗く,通路も細部までは見通せない。

そんな中でエレシスは,配管工のクレイヴと並んで歩いていたが,次第に彼が背負うモノが気になり始める。

やたら大きなシャベル。

長身な彼の半分以上の高さがあり,鋼鉄の扉をこじ開けたこともあって相当丈夫である。

振り回すだけで十分な凶器になりえる。


「何だ? このシャベルが,そんなに気になるのか?」

「あまり,見ないから」

「へぇ。ありふれたモノだと思うけど,やっぱりお嬢様なんだな」


そう言ったクレイヴは一度立ち止まって,シャベルと片手で持ち上げる。


「俺も何でこれを持ってるのかは知らんけど,妙に手に馴染むんだよ」

「土でも掘っていたの?」

「さぁ? ま,シャベルは男の武器って感じするし,何かカッコいいよな!」


残念ながら,エレシスには共感出来なかった。

そもそも彼女はシャベルの類を手にしたことが殆どない。

幼少の頃も外ではなく,主に屋敷の中で遊んでいたからだ。

彼女が昔の記憶を思い出していると,その表情を見た彼が肩を竦める。


「そんな不機嫌そうな顔をしなくても」


怒ってはいない。

少しだけショックだった彼女は,取りあえず否定に入る。


「別に,怒ってないわ」

「そう?」

「ええ」

「ん~。だったら,もう少し表情に変化が欲しいな」

「そう言われても……」


そんなに酷い顔をしているのかと,頬を触って軽く動かす。

しかし,やはり動かし方がよく分からなかった。


「ここから脱獄できれば,その堅い表情も柔らかくなるのかね」


からかうように,クレイヴは少し笑う。

何だが恥ずかしくなったエレシスは,彼から視線を逸らした。

まだ互いに距離が測れない,ぎこちない雰囲気が続く。


そうして一本道を抜け,視界が開ける。

先に見えたのは,まさしく監獄のあるべき姿だった。

薄汚い鉄柵の牢屋が何室も並んでいる。

内部の有様を見たクレイヴは,思わず顔を顰めた。


「これは……酷いな……」


エレシスも表情こそ変えなかったが,両手を握りしめる。

牢屋の中には何人もの囚人が捕えられていたが,その光景は凄惨なものだった。

健常な者は誰一人いない。

全員が痣のような黒い跡を残し,手足に鉄球のついた鎖を巻かれながら,地べたを這いつくばっている。

二人がやって来たことに反応する者も少なく,生きているのかも疑わしい者までいる。

最早囚人とは呼べない。

理不尽な暴力を受けたことは疑いようもなかった。


「ここの連中は,本当に囚人なのか? まるで奴隷じゃないか」

「最近になって,看守がとても横暴になってきたって聞いたことがあるわ。視界に入った人を手当たり次第に傷つけていくとか」

「……エレシスは,何もされなかったのか?」

「……何も,なかったわよ」


かつて姉から聞いた情報を伝えつつ,エレシスは無傷な身体を見下ろした。

大監獄ペルソナの看守は,傍若無人の言葉を人にした者達だと聞いていた。

囚人相手とはいえ,容赦の一つもない。

人権を逸脱した暴力を振るい,逆らう者もいない。

だからこそ,何故自分だけがあれ程丁重に扱われていたのか,エレシスは常に疑問を抱いていた。

牢の中にいるボロボロの囚人に思わず近づく。

するとその瞬間,一人の囚人が彼女の足に掴みかかろうとして,クレイヴが背中で庇った。


「近づかない方が良い。どうも歓迎されてないみたいだ」

「……!」


半死半生の囚人たちはエレシスを見上げながら,譫言のように呟き始める。

そこには何も知らない彼女に対する恨みや怒りが,あるように感じられた。


「どうせ,逃げられない……」

「ヤツが来る……。あの看守が……全てを喰らう……」


直後,遠くから重い扉が開く音が聞こえる。

囚人の仕業ではない。

わざとかと思う程に大きな足音が,死の牢獄に響き渡った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ