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順番待ち




医師の男は皆に向けて挨拶をし,その反応を伺っている。

笑みを崩さず一見優しく見えるが,何処か不気味にも感じられる表情だった。

暫くして,患者達から何の返答もない中,彼は何度か頷いた。


「そうか。大事がなくて何よりだ」


無表情なままの彼らを見渡して,男は満足そうにそう言った。

何を見て大事ないと判断しているのか,全く分からない。

監視室のカメラから,エレシス達はその異様な光景を見ることしか出来ない。

すると男は皆に向けて両手を広げた。


「それでは,問診を始めよう。先ずは一回ジャンプしなさい」


唐突にそんなことを言ったので,二人はお互いに顔を見合わせる。


「な,何を言っているんだ……アイツ……」

「意味があるとは思えないけれど……」


これが問診だとでも言うのか。

理由も意図も分からない,ただの命令でしかない。

わざわざ従う道理は一切ないように思えた。

だが次の瞬間,二人は言葉を失った。

集会室にいた全ての患者が,物言わずに一斉にジャンプをしたのだ。


「ではその場で一回転。次に右手を前に」


医師の言葉に彼らは忠実に従う。

その場で回転し,無意味に右手を突き出す。

文句どころか言葉一つ発さない。

まるで人形のようだとエレシスは感じた。

それから暫くして,男は一つの異変に気付いて歩き出す。

固まったまま動かない患者達の列を進み,一人の患者の元に辿り着く。

その患者は,指示に対して鈍った動きをする人物だった。


「君は,少し反応が遅れているね?」

「……」

「遅れているね?」


何の反応も示さないが,男は既に変化を読み取っていたらしい。

基本的に笑顔だったその表情が,少しだけ歪に形を変える。

そして一つ溜息をついた彼は,画面外の方へと視線を向けた。


「早急に手術をしよう。担架の用意を」


突如,看護師らしき者達がやって来て,その患者を運び出す。

手術という言葉に恐らく偽りはない。

ただ少しだけ動きが遅れていただけで,言うことを聞かないだけで,つま弾きにされてしまう。

これが彼の言う,問診とでも言うのか。

一部始終を見ていたエレシスは,得も言われぬもどかしい気持ちを抱く。

同時に画面の向こうにいた男が,ゆっくりと語り出す。


「分かるかい? 僕達はこうして黒化を抑えている。アレは精神の摩耗によって進行する。ならば統一された人格を施せば,僕達は僕達足りえるのさ」


一体誰に話しているのか。

男は背を向けたまま元いた場所へと歩いていく。


「ここで生き続けるには,自己を増殖・同化しなくてはならない。だから……」


そして突如,振り返った。

男の視線は監視カメラ,覗いていたエレシス達をジッと見つめる。

彼だけではない。

今まで指示以外の動きを見せなかった患者達が,二人に向かって一斉に振り返り,視線を送った。


「次は君達の番だ」


その瞬間,映像が途切れた。

壁一面にあった監視カメラ全てが停止し,暗闇と静寂だけを流し続ける。

危険すぎる。

クレイヴはこちらの存在がバレていることを理解し,エレシスの手を引いた。


「エレシス! ここにいたらマズい,急ごう……!」


突然のことに戸惑う彼女だったが,恐怖心を抑え込み力強く頷く。

監視室から飛び出し,地図を元に階段までの最短距離を移動する。

だが,その脱出を見逃す筈もない。

やがて遠くから得体の知れない者達の声が,次々に飛んでくる。


「まってええええぇぇぇ!?」

「マァァァァァ!」

「ああああああああ?」


物言わぬ患者達が狂乱しながら,二人を追いかけてくる。

未だ姿は見えないが,捕まればどうなるかは明白だ。

エレシスは可能な限り,全力で走り抜ける。

クレイヴは彼女の速度に合わせつつ,周囲を警戒し続けた。


「洗脳ってヤツか!? どいつもこいつも,正気を失ってるぞ!」

「きっと,さっきの医者がこの階層の看守なんだわ! 彼が手術で皆を操っている!」

「クソッ……! どうかしてる……!」


監視カメラでこちらの動きを把握しているなら,何処へ逃げても意味はない。

一刻も早く院内から脱出しなければ,命はない。

迷宮のように入り組んだ通路を進み,はやる気持ちが足を空回りさせるも,エレシスはどうにか体勢を崩さないように努める。

そうして何度目か分からない曲がり角を曲がると,二人の前に上階への白い階段が現れた。


「あったぞ! 中層への階段だ!」


このまま中層まで駆け抜ける。

そう思うエレシスだったが,前に立ち塞がるように白衣を着た男が現れる。

何処かに抜け道でもあったのだろうか。

男は紛れもなく,中央集会室の指揮を取っていた医師だった。


「駄目じゃないか。院内を走り回るのは厳禁なんだ」

「……!」

「こんにちは,お二人さん。僕の名前はサンクタス。下層の看守を勤めている者だよ」


サンクタスは,眼鏡を上げてにっこりと笑った。




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