囚われの令嬢
必ず会いに行くと,誰かが言った気がした。
全ての囚人を収容する大監獄ペルソナ。
その最下層に,一人の令嬢が囚われていた。
彼女の名はエレシス。
セミショートの茶髪が目に映える,14歳少女。
罪状は不明。
幼い頃より幽閉されており,一度も部屋の外から出たことがない。
陽の光すら,いつ浴びたのかも思い出せない程に長く身柄を拘束されている。
代わりにエレシスの監獄部屋は,他と一線を画していた。
令嬢らしい品のある内装,常に清潔感の行き届いた床や天井。
最早その部屋で一人暮らしが完結しそうなレベルである。
何故こんな扱いをされているのかは,彼女自身も理解し切れていなかった。
「また,描き終えちゃったわ」
そんな中,今日もエレシスは描き終えた風景画を見下ろし,溜息をついた。
既に部屋には,何十何百という作品が束ねられている。
することがない彼女に与えられた唯一の気晴らし。
時折運ばれてくる画用紙,筆と絵の具で出来ることは,これ位しかない。
だが,意味もなく描き続けるのには限界があった。
「もうずっと,誰も来ないな……」
エレシスは顔を上げて,監獄部屋の出口を見つめる。
かつては彼女の姉が,時々面会に来ていた。
妹の様子が気掛かりで,逐一容体を心配していた。
しかし何か不測の事態が起きたのか,最近では全く顔を見せない。
更に言えば彼女の両親は,一度も現れたことがなかった。
「いつになったら,出られるのかしら……」
何故,自分はこんな所にいるのか。
家族からも見捨てられてしまったのか。
堂々巡りの思考が続き,逃避しようとベッドに潜り込もうとする。
するとその直後,部屋全体が揺れ始める。
地震など今まで一度もなかったが,揺れは徐々に大きくなっていく。
流石に見過ごせなくなり,エレシスは辺りを見渡す。
何処かの机の下に隠れようかと思った瞬間,部屋の壁を突き破って一人の青年が現れた。
「!!!???」
意味が分からなさ過ぎて,思わずエレシスは飛び退く。
壁を突き破った赤髪の青年は,そのまま彼女を見ることなく倒れ込む。
身なりは平民が着る普通の衣装。
黒帽子を被り,背中には大きなシャベルを背負っている。
一体この男は何者だ。
配管工か何かなのか。
エレシスは,動かない青年に恐る恐る近づく。
「ちょっと……あの……」
「い……ってぇ~……」
突っ伏した青年が呻き声をあげる。
壁に突き破った際に頭を打ったようだ。
頭を押さえて起き上がり,そこでようやくエレシスの姿を見つける。
「ん? 誰だ,君?」
「それ,私のセリフなんだけど……。配管工事がしたかったなら,事故レベルの間違いよ……?」
「配管工事? ここは工事中だったのか?」
「いえ,今のは例えだから……。というか貴方,誰なの……?」
ここは大監獄の最下層。
壁の中から出現するには,物理的に無理があり過ぎる。
青年の正体が分からないエレシスは,警戒しながら問う。
すると彼は暫く考えた後で首を捻った。
「思い出せない……」
「え?」
「俺は,何でここにいるんだ? というか,ここは何処なんだ?」
素っ頓狂な声が室内に響いた。




