呪いの錆びた短剣で魔王討伐
前後編の短編にしました。
2019.12.03追記。
RTAというものが流行っているらしいのですが、この小説もRTAなのでは?
この物語は、フィクションであり、実在する人物・団体とは関係ありません。
◇◇◇ 1話「魔王に挑みキャラロスト」 ◇◇◇
俺は、世間で流行っているVRMMOで遊んでいた。
VRMMOの名前は、『魔王アンドリュー クエスト』
ダンジョンにある宝を求めてモンスターや魔王を倒すアクションRPGだ。
俺の装備は、ムラマサや最高級の装備を整えていて、キャラ育成も1年みっちり
遊んで育てた自分でも誇らしい強キャラだ。
俺は、魔王討伐するためのパーティーに参加していた。
俺の他にも、同じくらいのレベルの連中が6人いる。
前衛3人、後衛3人。バランスの良いパーティーだ。
俺達のパーティーは、魔王の部屋の前まで来ている。
部屋のドアには、『魔王アンドリューいます』と木の札で
滞在を示す札が掛けられていた。
ふざけた演出だ。
俺は、そう思ったが口には出さなかった。
戦闘前の緊張感が失われるからだ。
パーティーリーダーが部屋へと突っ込む。
「いくぞっ!」
「おう」
「はい」
「OK]
「よろしく」
「よろ」
俺達は、部屋へと入り戦闘になる。
敵は、魔王アンドリューただ一人だ。
前衛が魔王に近接物理攻撃をしかける。
「どりゃー」
スカ、当たらない。
「おりゃー」
スカ、当たらない。
俺もムラマサで切りかかる。
「とお!」
8回攻撃、1回ヒット、20ダメージ!
「攻撃が当たらないだとー?」
前衛の物理攻撃はことごとく当たらずダメージが与えられない。
魔王の呪文詠唱が終わる。
「核爆発 エクスプロージョン!!!」
魔王の最高級魔法が詠唱される。
俺達は瀕死になるが、回復役が魔法で回復してくれた。
魔王には、沈黙させる魔法も眠りの魔法も効かなかった。
そんな状況が続くうちに回復役の魔法が枯渇した。
俺達パーティーは、全滅し、死亡したキャラは、
それぞれの復活ポイントまで戻された。
このゲームは課金有りで、死亡したキャラを復活するには、1万円かかる。
1週間内に復活させなければ、キャラはロストする仕様だ。
俺は、無課金プレイヤーであったので、元から課金するつもりがない。
キャラはロスト、削除されることになる。
俺は、キャラがロストする事ではなく、
あまりの魔王の強さに愕然としていた。
復活させても勝てる気がしない……。
俺は、残された装備やアイテムで何ができるかを考える。
キャラが生き返っても持っていた装備は戻ってこない。
自慢のムラマサも失ってしまった。
装備を取り出して、もうこのゲームも終わりかと
一つ一つしみじみと見ていく。
『錆びた短剣』が出てきた。
何だったっけ? この装備。
記憶をたどり思い出す。
そうそう、呪いの装備だった。
装備すると、その呪われた装備が外れなくなって
呪いを解くと装備も消えて
呪い解除のお金までかかるという、プレイヤーへの嫌がらせ装備だ。
ただ、攻撃力だけは、普通の武器並みにあって
攻撃回数もスキルさえ上げれば増えていくし、
試し切りでモンスターを倒した時は、攻撃が必中していたので
もしかしたら強力なモンスター相手に使えるかもしれないと
残しておいたものだ。売っても大した金額にならないし。
必中!?
俺は、思いついた。
新しくキャラを作って、この武器で魔王を
討伐に行く事を。
◇◇◇ 最終話「魔王討伐」 ◇◇◇
必中。
それは、必ず命中すること。
『錆びた短剣』に隠された能力。
それは、攻撃が必中すること。
呪われた装備で、強さは普通。
誰も目を向けないプレイヤーへの嫌がらせのためのアイテムだ。
この必中の能力がバグなのか仕様なのかわからないが、
利用する事にした。
新しくキャラを作ろうかとも思ったが、セカンドキャラを途中まで
育てていた事を思い出した。
そのセカンドキャラで試し切りに強いモンスターと戦う事にする。
セカンドキャラのスキルを短剣の攻撃回数にできるだけ振る。
残りのスキルを軽装備を活かした行動回数が増えるように振る。
盾も持ち、生き残れる防御力も増やす。
みかけは、錆びた短剣を持った盗賊といった感じになった。
こんな装備で仲間に入れてくれるパーティーがあるか若干不安になるが、
上手くいけばかなり強いはずだ。仲間に入って強さを証明できれば問題ないはず。
前衛を募集しているパーティーに潜り込む事ができた。
しかし、敵が弱すぎて普通の武器と呪われた武器の違いが出ず、
必中の効果が薄い。
「おまえのその装備、『錆びた短剣』って何だよ。やる気あるのか?」
「呪われた装備そのまま使って戦うって、解呪するお金ないの?」
「前衛なのに装備弱すぎ」
パーティーメンバーに色々言われる。
「呪いの武器には必中の効果があるかもしれないんだ。
試させて強さを証明させてくれ」
頼んでみたが、他所でやってという事で、パーティーを追放される事になった。
◇
パーティーを追放された俺は、地道にライトなパーティーに入って
レベルを上げ、仲間にも呪われた装備の説明をして信頼を得ていった。
呪いの武器は、実際に必中だった。
強くて本来は攻撃が当たらない敵にも普通に当たる。
攻撃が当たらない強い敵ほどその必中の効果の恩恵を得られる。
俺達パーティーはメキメキと力をつけていった。
◇
だいぶ強くなったある日、いよいよ魔王討伐へ行く事になった。
魔王の部屋に入ると、既に先客がいるらしく戦闘になっている。
このゲームのシステムでは、助太刀システムがあり、
既に戦闘が行なわれているパーティーに許可があれば共闘で参加できる。
既に戦闘しているパーティーに、俺は見覚えがあった。
前に『呪われた武器はいらない』と俺を追放したパーティーだ。
やはり、魔王に前衛の攻撃が当たらなくて苦戦している。
「負けそうじゃないか? 錆びた短剣の装備しか持ってないけど助けようか?」
ちょっと追放された恨みが入った助太刀の要請を聞いてみる。
「ぐっ、背に腹はかえられん。頼む、助けてくれ」
「わかった、了解した。錆びた短剣の錆びにしてくれる!」
よくわからない前口上を言って戦闘に参加する。
「くらえ、錆びた短剣の連続突き!」
『10回攻撃、10ヒット! 120ダメージ!』
「おまえ強いな。呪われた武器がダメだって言って悪かった。
強化の魔法をかけよう」
俺の武器や体に強化の魔法を、
以前に追放したパーティーのメンバーがかけてくれた。
『10回攻撃、10ヒット! 240ダメージ!』
俺のパーティーのメンバーの前衛にも強化の魔法がかかっていく。
俺達の攻撃が、どんどん魔王の体力を削っていく。
◇
「ぐわあああああぁぁ!!!」
魔王を倒す事ができた。
「やったー!」
「やったな」
「おめ」
「おめでとう」
「ありがとう」
「ありり」
「おつかれ」
「おつ」
「おつつ」
「魔王倒せた」
「魔王よええ」
「魔王は、錆びた剣の錆びになりました」
最後のセリフに笑いのコメントがあふれる。
おまえら、ありがとう。
俺は魔王を倒す事ができた。
でも、このゲームの呪われた武器の仕様おかしくね?
今更ながら、ゲームの仕様について一考する俺達だった。
おしまい。
呪いの剣が必中という設定ですが、ウィザードリィ外伝のどれか(忘れました)で使えた技です。
ググってもその情報は探せませんでしたけど。
「事実は小説より奇なり」ってこの場合も使っていいんでしょうか。(笑)
2019.12.05追記。
ジャンルが間違っていたので、ハイファンタジーからVRゲームへ変更しました。
今度は合っているよね?