今後の為に
「うーむ・・。」
ここ「始まりの街」のギルドマスターのタナーは、少し考え・・・・。
「3日だ。 それ以上は待てん。 それと念の為、ラナを付ける。」
ギルマスが言うには、ギルドに登録してある俺を信用してはいるが、どのくらいの腕かわからない。
それに、ここ「始まりの街」のギルドは、設備は整っていはいるものの、職員の数が少ないため人を出すことは難しい。
ラナは2年と言う実績もあり、ポーターとしても、冒険者としてもそれなりの腕。 それに今回の盗賊の件では当事者なのだから、新たに口止めを必要する冒険者を出すこともない。
期日が3日なのは、その洞穴にまで追いかけて来た盗賊が拠点に戻らないことで、盗賊達が警戒を強めるだろう。と言う事だそうだ。
「話は纏まったな。流石にGランクに指名依頼は出せないが、その代わりに、もし俺が満足出来る結果になったら、それなりの報酬をだそう。」
「ありがとうございます。」
タナーが懐から紙を取り出し、普通の依頼書を手書きで書き込む。そこにポケットから出したギルマスの証人印を捺印する。
依頼ではない状態で、他人に危害を与えると、相手が悪人でも、自分自身の賞罰に影響しカードにも履歴が残るのだそうだ。
通常、喧嘩だとかの場合には領主館で裁きを受け、然るべき判決を受け、被害者側には正当防衛の太鼓判が押され、賞罰から「危害を加えた」事が消える。その場合、裁判代金や賞罰の書き換え手数料が必要となる。が、通常加害者側に請求されるのだ。
だが、今回の様な場合、もし依頼を受けずに勝手に討伐に乗り出すと、その討伐した人数に応じ、罰がつくのでその分手数料が高くなるのだ。後日、正当性が認められればそこから支払えるが、もし、証拠が出せなかったりした場合は、自腹で手数料を支払う事になる。
「ひとつ聞いていいですか?ギルマス。」
「なんだ?」
「俺の報酬は決まったが、ラナの分はどうするんです?」
「ああ。金貨2枚をだそうと思っていた。」
「ギルマス。いえ、タナーさん。今回襲われた冒険者は幼馴染なんです。だから、お金じゃなく、取り返した仲間たちの遺品を譲ってください!お願いします!」
「遺品を譲ってくれ、ってのはいいが・・。分かった。いいだろう。」
「では改めて詳細を詰めよう。」
・3日以内に、盗賊の件を処理し、ギルドに報告する。処理出来た場合は、それぞれに報酬を渡す。4日目以降は失敗とみなし、今後は俺には手出しさせない。
・盗賊のアジトの物品は、ラナの幼馴染の物以外には、手をつけない。
・盗賊の生死に関しては問わない。
「ま、こんなところですね。」
「ああ。そうだな。」
「ラナ、しばらく、と言っても3日間だが、これからパ-ティーを組むんだ。 少しでも体力を回復させ、装備も整えて欲しい。 今日は帰って、明日の朝、ギルドのロビーで落ち合おう。」
「タニサはどうするの?」
「俺は、もう少しだけ、ギルマスにこの件に関して話したいことがあるんだ。だから、もう少しだけ残るよ。」
「わかったわ。じゃあタニサ、また明日ね。」
ラナはドアを開けて出て行った。 扉が完全に閉まり、足音が聞こえなくなった。
「さて、と。」
俺は口調を変えて話すことにした。
「ギルマス。 これから話すことをしっかりと聞いて欲しい。」
「なんだ?いきなり話し方が変わったな。」
と笑う。
ギルマスを見る、俺の真っ直ぐな視線に、タナーは真顔になり返事をした。
「わかった。いいだろう。話せ。」
「ああ。これから話すことは、ちょっと信じられないことかも知れないが、嘘偽りは言わない。」
俺は、息を一息吸い、吐き出す。
この世界にいる人間はノンプレイヤーキャラとプレイヤーキャラが居り、元々この世界に住む者はNPCで、数日前に増えだした人間は別の世界の人間でPCである。 またPCは、教会で復活することが出来る。 だから、盗賊たちはPCの可能性が高く討伐されることを恐れないで、復活の可能性すらも有り得る。 と伝えた。
「・・・・。なるほど。信じられないことだが、ここ数日で急に見覚えのない人間が街にあふれ、冒険者に登録する奴も急増した。 そういうことなら頷ける。 だが、証拠はあるのか?」
「そんなものはない。だが、俺は、さっきも言ったとおり嘘は付いていない。 だから、この3日間の間に、もしもの復活に備えておくことを勧める。 俺からの要件はこれだけだ。 じゃあ、3日後に会おう。」
俺はそれだけ言うと、俺は会議室を出た。
街を歩き何か無いかと探す。DPの少ない今は、金で必要なものを揃えたい。
盗賊を誘い出すため、俺は小綺麗な服を一式買う。そして一度拠点であるダンジョンに向かう。
初日に<特典>で出た宝箱。今は空の状態なので、それに銅の剣を入れ、中ボス部屋に置く。見えるところに宝箱があると、この部屋まで来た冒険者の中には、ミノタウロスに挑戦しようとする奴もいるはずだ。
他のインベントリにある物は、薬品関係を除き、コア部屋に置いておく。おっと、さっき買った服はインベントリに入れておかなきゃな。 あ、マントをラナから回収するのを忘れてた。まぁいいか。また明日会うのだから。
俺はスライムに戻り、今度は「始まりの街」の方向へ向かった。 もちろん人間を避けながらだ。
街から見て、ダンジョン方面は東側だ。俺はまだ行ったことのない西側へと足を向けた。 スライムだから足はないけどな。
しばらく、人気のない辺りでの野良モンスター狩りをしていた。
レベルも少し上がり、今はLV24だ。このくらいあれば盗賊にやられることは簡単にはないだろう。配下達もいるしな。
倒した敵は吸収しておく。ダンジョンではないのでDPは増えないがこの街の西側には東側に居ないモンスターもいる。 既存のスキルも僅かに上がり、新たな擬態先とスキルもいくつか得た。 蜂モンスターから<針>と<毒針>、その嬢王蜂からは<麻痺針>。 芋虫からは何も得られなかった、糸を吐くタイプではない様だ。
新たな敵は支配下に置きたいのだが、生粋のテイマーではない俺にはむりなのだ。まぁ、DPが貯まればいずれは召喚できるだろう。
今後に期待しつつ、夕方まで狩り続けた。 空が暗くなってきたので、ダンジョンに戻ることにした。
ダンジョンに戻った俺は、ダンジョンの領域から少し外れた東側の方に居た。 土竜に擬態し穴を掘る。高さ2メートル幅1.5メートルの通路を10メートル程を徐々に下るように掘り進む。そして、その奥には通路の3倍ほどの幅を掘った、高さも通路の2倍ほどある。
DPの節約のために自分で掘ったのだ。配下の土竜を使わないのも、回収してくる野良モンスターが減ることを嫌ったのだ。
そしてダンジョンへと戻り、配下によって集められた野良モンスター産のDPで、先程作った洞窟を含めた森全体をダンジョン領域にした。
今後、野良モンスターの住み着くための場所を、前もって作っておいたのだ。何もしなくてもDPが稼げるようにな。 あまり洞窟が大きすぎると対処できないモンスターが住み着くと厄介だから、この大きさにとどめておいた。 それに、ダンジョンの自動修復機能があるため、いくら奥の部屋を大きくしようと頑張っても無駄なのだ。 安全第一だな。




