ラナとの出会い
「うぅ・・。」
「ここは・・?」
「おっと、まだ動かない方がいいよ。」
「っ!? 誰っ!? ぃったぁ・・」
「言わんこっちゃない。 俺はタニサ。冒険者だよ。 と言っても、登録仕立てのGランクだけどな。」
「こんなところに洞穴あるなんて知らなかったが、様子見で入ってみたらあんたが倒れてたわけだ。 で、初級ポーションがあったから表面の怪我だけは治しておいたのさ。とは言え全快とまではいかなかったみたいだけどな。 で?あんたは?」
「私は、ラナ。・・・ポーターをやってるわ。」
ポーターと言えば、冒険者と契約して荷物を運んだり、素材の剥ぎ取りを生業とする職業だな。
「ポーターって割には、一緒にいるはずの冒険者の姿は見えないが?」
「・・・・・。 私達は、森の地図作成の依頼を受けてここまで来たのよ。」
ラナというポーターの女が言うには、「始まりの街」の東側の森の地図をおおよそ書き終え、そこより更に東にある泉まで来ていて、野営準備をしていた。
薪を集めるため、自分は森の方まで来ており、雇い主の冒険者達は天幕の準備をしていたという。
そこに、一週間前まではいなかったはずの盗賊達が現れた。
数で勝る盗賊達には、ラナのいたパーティーでは敵わず蹂躙されつつあるところに、薪を担いで野営場所に戻ろうとしていたラナは、盗賊に見つかって、薪を捨てとにかく走って洞穴があったんで逃げ込んだ。そこにはゴブリンが三体居て、追いかけてきた盗賊の一人がここに来た。 盗賊が生き残ろうと、ゴブリンが生き残ろうと、「もう自分には後がない」と思った時に、ゴブリンの棍棒がラナを襲い、気を失った。 そして気づいたら盗賊もコブリンも居ない、代わりに俺が居た。 って話だ。
念話で配下に状況を聞くと、野良のゴブリンがダンジョンに入ってきていたが、そこにラナと言う女が傷だらけで入ってきた。
そのゴブリンの1体がラナを一撃で沈めた。すぐに盗賊と思われる男がやってきて、盗賊とゴブリンが戦闘開始。
ラナは気絶していた様なので、双方に処理を後回しにされ、盗賊がゴブリンを2体倒したが、最後はゴブリンが勝ったと言う。 だが生き残ったゴブリンも瀕死であり、すぐ死んでしまうだろうからDPのために処理した。 ただ、人間に手を出すことを禁止されていた配下はラナには手を出さず放置。
そこに俺がログインして来た。と言うわけだ。
今更だが、先に配下の報告を聞けば良かったのだが・・・。予想をしていなかったから考えもしなかったのだ。 結果的に全体像が把握できたので、良しとしよう・・。うん。
「なるほどな。とりあえず街へ戻ったほうが良さそうだな。今は周囲に敵は居ないみたいだけど、歩けそうか?」
「歩けるかも知れないけど、今外に出てもすぐに夜になるわ。夜の森は危険。 そんな森を行くより、ここで日が昇るまで待っていたほうがいいと思うわ。」
ラナは、ポーターとして「始まりの街」で2年ほど活動しているらしい。そのおかげで今の判断をした。と言う事だ。
ここは、俺のダンジョンだし、ここに野良モンスターを近づけなければ良いのだ。 配下たちに命じ、ラナに探知されない範囲で周辺の安全の確保をさせることにした。
「わかった。ちょっと待ってろ。」
俺は、ラナからは岩陰になるような場所に、こっそりリュックサックほどのバックをDPで召喚した。その中に干し肉と、この世界のポピュラーな水袋も。 そしてそれを持ちラナの傍まで来た。
「これでも食えよ。明日、町に戻るにしても腹が減ってたらきびしいだろ?」
「ありがとう。私のバックは盗賊から襲われた時には野営場所に置いてたままだから、きっともう奴らが持っていってるわ。何も持ってないのよ。助かったわ。 街に戻ったら借りは返させて貰うわ。」
彼女の所持品は、腰に差した剥ぎ取り用のナイフが1本だけ。後は布製の衣服と簡素な靴だけだ。
ラナはゆっくりと干し肉を咀嚼し、水で喉を潤した。 俺もラナの隣で同じように食事を取る。
「ところで、さっきの話で盗賊は先週まで居なかった、と言っていたが?」
「ええ。さっきも話したように、私は2年くらいここでポーターをやっているの。この辺りの事なら大体わかっていたつもりだったけど、盗賊が出るなんてことは、今までは無かった事なのよ。」
このゲームが始まってから、まだ1週間は経っていない。 という事は、このラナと言う人物はNPCで、盗賊はPCなのだろう。
いくら自由が売りのゲームでも、いきなり盗賊をやるプレイヤーが居る事に驚きを覚えていた。初期段階では確かに金になるだろう。 少し金を貯めて足を洗うつもりなのかな?と予測を立てていた。
まぁ、今の状況では確かめる術も、必要もない。
「そうか、俺はこの辺に詳しくもないし、冒険者にもなったばかりだ。 その盗賊の情報はありがたい。」
「あなたもソロで動いているなら、この森の東側には行かないほうがいいかもね。」
「ああ。そうさせて貰うとしよう。 で、明日は早くに街に戻る予定なんだし、少し寝たらどうだ?」
と、俺はバックからマントを2枚出し、1枚を渡す。
「寝てしまうと、危険よ。 寝ていてモンスターに襲われたら、逃げられないわ。ここは洞穴だし、入口は一つしかないのよ。」
ラナが、このダンジョン地下1階の落とし穴部屋を、「洞穴」だと言ったのは、彼女が気絶している間に、奥のフロアとのつなぎ目に壁と同じ見た目の扉を設置しておいた。 鍵をかけたり罠を仕掛けたりはしていないただの扉だから、DPはそれ程掛かっていない。 それに今、ここには「灯り」となる松明のようなものもないので、扉は壁と誤認しても不思議ではにのだ。
「警戒なら俺がする。幸い俺は、昼過ぎまで寝ていて、この当たりにはさっき来たばかりだ。問題ない。」
本当は昼間はバイトしていたのだが、安心させるためにそう言うことにした。 それに、ダンジョンマスターの俺は配下に命じ安全を確保している。 彼女には警戒しているように見えるようにして、うたた寝しても問題ないのだ。 ついでに、彼女をダンジョンのゲスト扱いにしておいて、罠が発動しないようにしておいた。
「何から何まで、甘えさせてもらって悪いわ。少し寝たら見張りは交代するわ。」
おもむろに彼女は立ち上がり、入口から出ようとしていた。
「ん?どこに行くんだ?」
「すぐ戻るわ!」
何故か彼女は顔を赤くしつつも周囲の警戒をしながら入口を出る。
「戻ったわ・・。」
ラナの布のズボンの腰紐の部分が、先ほどより少し高くなっている。 なるほど、トイレか・・。
しかし、ゲームなのに、NPCにすら、そいいう仕様があるんだな。と感心した。
「ああ。少しでも長く寝ておけ。 おやすみ。」
「ありがとう・・。おやすみ。」
そう言って、彼女はマントで身をくるみ、寝る姿勢を取った。




