最終回
名前の通り最終回にします。
今までお読みくださった皆さんありがとうございました!
イベントも終わり、落ち着きを取り戻した頃。俺はある決意をした。
「さて、デビットよ。 俺は今後、この世界を楽しむためにあることを考えた。 何だと思う?」
「はて、何でしょうな? 人間や獣人の駆逐ですか? それとも世界の掌握でしょうか?」
「いやいやいや。 そんなことをしても一時的なもので一瞬にして楽しみなんて消えてしまうだろう?」
「では、何をでしょうか・・、考えが及びませぬ。」
実はな・・・
「ごにょごにょ・・」
「な!なんと!?」
「いいか?絶対誰にもこの計画を漏らすなよ?」
「・・・はっ・・」
「それでは、他の者には研鑽を続けよ。 とだけ、伝えておいてくれ。」
デビットにこう言って、俺はその場から立ち去った。
色々と準備を終えた俺は、デビットを呼び出した。
「この計画は極秘裏に進めてきた。 だが頃合いだ。 明後日の朝、全軍団長たちを集めておいてくれ。 そこで、計画の発表をする。 デビット・・・頼んだぞ・・」
俺も大分この世界に親しみ、配下や仲間にも愛着を感じていると。 この時初めて悟った。
「ラナに対してだけじゃなかったんだな・・・愛情、愛着って気持ちは・・。」
俺の計画。楽しむための計画のはずだが、違う感情のほうが今は大きい。
発表当日。各軍団長たちがそこに揃っていた。
そこは俺のダンジョンの核、ダンジョンコアが設置されている・・いや。だった部屋だ。
「皆の者。このスクリーンを観よタニサ様からの指示があるそうだ。」
そう言ってデビットも、他の軍団長と同じように席に着いた。
「みんな、揃っているかい? 今君たちは、コア部屋に居るはずだ。そうデビットに言っておいたからな。 まずは今は計画の真っ只中であることを伝えておくよ。
計画の詳細はまぁ、、、20年か30年くらい経ったら伝えることにするよ。まだ計画の途中だった場合、デビットから伝えさせるから、それまでは今まで同様に人間や獣人と距離をとっておいてくれ。 まぁ、攻められたら防衛する分には構わないよ。
そうそう、コアもそこに無いけど、計画の一環だから気にしないでくれ。
じゃあ、少し長いけど、またな。」
スクリーンに映し出された俺の映像はそこで終わった。
デビットが口を開く。
「みな。タニサ様の言葉を忠実に守って行こうじゃないか。」
軍団長たちから、デビットに今回の件に対して質問があった。
デビットは何も知らない。この場でこの時間に皆が集まったら全員で観ろ。とだけ言われた。
としか言わない。
この計画はどう転ぶかわからない。なのでデビットだけには30年経っても俺から連絡がない場合。この映像を皆で見る様に。と先ほどの映像と一緒に、もう一つの映像データを渡している。
一度見たらデータは消えるので、先に観ておくと考えないようにと言い聞かせてある。
計画は、まず体内にダンジョンコアを取り込む事。 ちょっと違うな。俺と言う存在を保ったままコアの機能を劣化することなく完全に吸収する。 これはなかなか難しいと思う。
そして、俺の核の一部を移植した分身スライムを生み出す。その際に、能力の引継ぎは多少でも、いや、まったく無い状態でもいっそ構わないが、その時点での知識・意識・記憶は全部完全にコピーしておかなければならない。
上記の2つのいずれも、命の、というか俺と言う存在自体が消える可能性だってある。故に、遺書代わりの映像データなのだ。 ダンジョンコアさえ無事なら、俺達は死んでも生き返れるが、コアが壊れたらこの計画自体に支障をきたすどころか、計画は頓挫する。
なので、計画に集中するためにも、雑念を捨てるためにも配下たちにも何も言っていないのだ。
死ぬ気で取り組むのだ。
色々考えた結果。 まずは助手として、邪魔にはならないであろう分身を一体生み出す。計画の精度を高めるためにも一度試しておきたいので、知識・意識・記憶のコピーも試した。
その結果は、現段階では出来た。 スライムならではなのだろう。さすがにレベルは1だった。
まぁ、その分身には俺の準備が整うまで、せっせと死体漁りをさせスキルを身につけさせておくことにしたのだ。 意識は共有しているため、これはやりやすかった。
ああそうだ。ラナには、俺がモンスターでありダンジョンマスターであることを既に伝えている。裏切りの可能性が有りそうならば、その時には、記憶を消去・改ざんしてしまうつもりだ。
正体を明かし、今回の計画の一部を除いた全容をも伝えている。 そうすることで、ラナには計画の不安は残ったとしても、俺の行動に対する不信感は無いはず、と考えたからだ。
ラナは、俺に対し、文句を言うでもなく。「無事に帰って来て!」とだけ言ってくれた。
ラナとの関係に安心を覚えた俺は、再度計画の完遂を心に決めたのである。
分身の育成もそこそこになってきたので、俺はコアを取り込む作業に入った。
実験のために、普通のスライムを召喚し、疑似コアをDPで作り出し、吸収させてみた。
結果としては意識を失ったが成功した。 このスライムは今後継承スライムと呼ぶことにした。
この継承スライムは分身スライムの眷属にしておいた。
さてこの2体のスライムを助手として俺のダンジョンコア吸収の番だな。
ダンジョンコアは疑似コアよりも機能も多く有しており、吸収するのには10日ほどかかった。 もし俺と意識を共有している分身やその眷属の継承スライムを助手にしていなければ、もっと日数がかかり、あまつさえ魂すら消えていた可能性が有った。 それほどきつかったのだ。
さて、次の実験だが、継承スライムには核のごく一部。目にも見えない大きさの核を分身として分離させる実験だ。
この結果は、知性のない本能のみの存在が生まれたのだ。仕方がないのでまた分身の眷属にさせておいた。
再度同様の実験をさせる。違いは継承スライムの分身スライムとして、知識・意識・記憶をコピーしつつ同じようなサイズで生み出させるのだ。 これにより、本能だけで生きる存在ではなく、知的な行動が照れる存在かを確認するのだ。
結果は何とか成功した。継承スライムの完コピ極小サイズとでも言えよう。これも眷属にさせた。というか継承スライムの分身だから元より眷属として生まれたのだ。
こうして俺はコアを吸収したうえで極小サイズの分身を生み出すことに成功した。数十体生み出しておいた。
俺はこの結果をもとに極小分身体には、更に小さく分身を生み出させることにした。しっぱする個体も多かったが、なんとか予定の数は作り上げることができた。 知識・意識・記憶は完コピできたがスキルはランダムで覚えている。
その中でも俺の計画の最終目標にうってつけと思われるスキルがいくつかある。
まぁ、こうして、目標に達したダンジョンコア入り極小分身体を俺の体(スライムの中なので衝撃にも耐えられる)で保護しつつ、ラナの待つ居城へと戻る。
ラナにも覚悟が出来ているかを聞いた。 ラナは、勿論!と答えた。
今回の計画の全ては、俺達夫婦の将来の「子を成す」事を考えての計画だったのだ。
ラナの卵子と結合できるサイズであり、俺の完コピであり、突撃や酸耐性などのスキルを持った分身体である事で、この計画はうまくいってくれるのだと思っている。
その日。この夫婦は久しぶりに一つのベットで朝を迎えるのであった。
分身体なので意識も共有しているため、全個体が一丸となって目標の達成のために行動することができたのだ。
朝までの間に数回に渡りコア入り極小分身体たちは旅をした。
ラナの体内で新しい生命となるべく過酷な旅を続け、目標を達成したのだった。
朝を迎える頃には、ラナはグッタリとした様子ではあるが、満足げな表情を浮かべ、スヤスヤと寝息を立てている。
俺もこの日はかなりの数の個体の意識を共有し、且つ行動していたことで精神的に疲労しており、ラナの隣で眠りについたのだ。
その十月十日後。
ラナは俺たち夫婦の子でもあり、俺のスキル以外の完コピでもある子を産んだのだ。
これから数十年程度は、俺は人としてラナの夫として、子供の親として、生きることができる。
そのあとの事は、その時に考えよう。
あれから数年が経ち、俺達の子供は5人。7人家族になった。
子供たちは、十代後半くらいまで成長すると、その後の老化はゆっくりになる。
俺は年を取らないので、自分でゆっくりと老化しているように見せかけている。
ラナは人間なので、その老化も寿命も、努力で改善するしかないのだが、俺にとっては最高の女で最高の妻なのだ。
幾度か配下モンスター達に連絡をしていた。 子供たちが独り立ちして、ラナが亡くなるまで、俺は人生を、この世界を楽しむのだ。 それを伝えておいた。邪魔は許さないつもりだ。
国を盛り立て、家族を愛し育み生きていく。 何て素敵な日々だろう。
それから数十年がたったころ、俺達家族は城の、とある一室にいた。 孫たちも居る。
その俺たちの中心にいるのはラナだ。
「ねぇタニサ・・私は、・・あなたと出会えて・・・幸せ・・だったわ・・」
「ああ。俺もだよ。 ラナ、俺は君のおかげでこれ以上ない人生が送れたよ。」
「そう言って・・・もらえると、・・ちょっとだけ、・・無理やりにでも・・結婚できてよか・・ったわ・・・。 後の事・・・・お願いね・・・」
「ああ。 任せろ・・」
ラナは、子供たち孫たちを見てこう言った
「あらあら、・・・あなたたち・・は・・もう子供じゃ・・ないのよ? 泣くなん・・て変よ?・・」
「そうだな・・。 お前たち、ラナを・・ラナを笑顔で送ってやってくれ!」
「タニ・・サ・・・。 あな・・たが・・・一番・・涙が流れて・・るわよ? 笑顔で・・送っ・・てくれ・・るんでしょう?」
「済まないな。最後まで心配かけちまって、悪い旦那だな! ああ、もちろん笑顔で送ってやるさ!」
そう無理やり笑顔を作ると、握り合っていたラナの手から、力が抜けた・・。
ラナは死んだのだ。
葬儀の準備などは、城の者達に任せた。 俺たちは、特に俺は何の役にも立たなかった。
国を挙げての荘厳な葬儀となった。
「ラナ。お前は愛されているな・・。」
と、つぶやいた。
その数年後には、俺は帝王を引退した。
時期帝王は、家族会議で決めていた、最初の俺たちの子の長男が引き継ぐこととなった。
子供たちは、俺の正体を知っている。
俺はすべて話している。
俺は、ラナの死から10年後には、人間を引退することも告げていた。
こうして俺の人生は終了した。子孫が繁栄するのを楽しみにしつつ、ダンジョンコアの能力を持つスライムとして生き続けよう。
モンスターとしての今後の事は、また別のお話・・
最終回だけに、少し長くなりました。
次回作も何か書き始めたら、ぜひ読んでください。
ご愛読。ありがとうございました。




