スポットライト
役所まで来た俺たちは、無人の役所に入った。
時間に余裕があれば、多少散策するのも有りだが、ちょっと時間が押している。
「やっぱりちょっと、時間に余裕がありません。 巻きで行きましょう。
真っすぐに、転送室までやってきた。ここの転送先は、みんなが待っているビル11階だ。
「早速行きますよ!」
「一瞬立ち眩みがしたと思えば・・・。ここはどこ?」
「ラナ。ここはハポネス帝国だよ。」
「おいおいタニサ、いくらなんでも、クレスト王国とハポネス帝国は遠すぎだろ?ハポネス帝国って言やぁ。 大陸の最西端だろ、それはないだろ。」
「タナーさんはギルマスだけあって、物知りですね?じゃあ、ここから東側、あーこっち側の窓から外を見てみてくださいよ。」
「あれって、あれか?誰も出入りが出来ないって噂の壁って言いたいのか?」
「というか、それが事実です。」
「まぁ、とにかく。 時間がないので皆さん移動しましょう。」
そう言って皆を地下2階に誘導する。
エレベーターを降りたその前では、ホムンクルスが数名待っていた。
「皆さま、お待ちしておりました。 どうぞこちらへ。」
エレベーターを降りた先は南国さながらの風景がある。 暖かいし風邪も潮の香がする。
後ろを振り返るとそこには今降りたエレベーターがある。
「なんか狐にでも摘ままれた感じね・・」
「ライラさん。俺も同意見だわ・・」
とにかく急ぎで部屋に案内する。 それぞれが部屋に入るとクローゼットの場所に案内される。
そのクローゼットには数着の衣服がある。
「それでは、そこで好きなものを選び、それを着てロビーに集合してください。必ずこの中から選んで着用をお願いいたします。 若干時間を取れそうなので、シャワーなら短時間で浴びることも可能でしょう。 シャワーはあちらです。 では、15時にロビーで集合です。 何かありましたらこちらのボタンでお呼びください。 お部屋を出る際には、こちらがお部屋のカギになりますので、集合の際はお持ちください。 部屋のドアは、閉まると自動で鍵がかかりますので外出の際は必ずお持ちください。」
ホムンクルス達は、それぞれ各部屋でいくつか簡単な説明をし、説明と同じ内容と若干の部屋の説明を記したパンフレットを部屋のテーブルに置き、その部屋を出る。
この日のために作っておいた動画を各部屋の画面では流している。国、ビル、ホテルの事をPRする動画ではあるが、説明する時間がないので、来客にはそうした対応をさせて貰った。
この時俺はラナの手を取りこう伝えた。
「ラナ。 君はこっちだ。部屋に着いたら軽い説明をしたら、直ぐにシャワーを浴びて、着替えて貰う。時間が思ったより掛かってしまったから、悪いが、頼む。」
部屋に着くなり
「他のみんなはメイン会場までは、部屋で着替えた服で来てもらう事になっている。 俺たちは、いったんこの服を着て、先にメイン会場の衣裳部屋に行き、そこで着替える手筈になっている。 ちょっとばかり忙しいが我慢してくれ。」
ラナがシャワーを浴び、脱衣場で着替えた。 それはその後に浴びて着替える。
「さて、早速だがもう行こう。 あ、その前に喉を潤しておこう。」
俺は冷蔵庫から、フルーツジュースを出しグラスに注ぎラナに手渡す。
「透明のコップに、冷たいジュース・・・何なのよこれは・・」
「シャワーを浴びたら冷たい物がうまいだろ?」
「そうだけど、そうじゃなくて・・。何をどう聞けばいいかわかんないわよ!」
「ああ。・・とにかく美味いから飲んでおけよ。 しばらく何も口にできないかも知れないからな。飲んだら行くぞ?」
「わ、分かったわ。」
そうして鍵を持ちロビーに行き、フロントに鍵を預ける。
「さ、行くぞ!」
俺たちはエレベーターで60階に行き、イベントホールの裏口から衣裳部屋まで来ていた。
「説明が遅くなって済まなかったな。 今日、ここで俺たちの結婚式をするんだ。 それをサプライズでやろうと思っていたんだ。 さぁ、みんなが集まってくる。 ライラさんとイファさんから貰った衣装を身に着けよう!」
この日のために数名のホムンクルス達に着付けや化粧や髪のセットの特訓をさせてきた。その甲斐も有り、俺もラナも瞬く間に着替えさせられてしまった。
タキシードとウエディングドレスに着替えた二人。
「なんだか驚くばかりで知らない内に着替えさせられたのね?」
「だな。 だが、驚く事はまだまだ用意してある。 楽しみにしておいてくれ。」
ホムンクルスの一人が持ってきた軽食を摂り、16:30まで待機だ。
その間にお客には会場まで来て貰える様に手筈は整っている。
16:00 会場内
全員が既に席に着いている。
「さて、ここにお集まりの皆さま。 今日はお集まりいただきありがとうございます・・・」
司会(真っ白なローブを着て、白い布で顔を覆ったミカド)が挨拶をし、続いて巨大スクリーンが各所に現れる。 そこに『ハポネス帝国』と『ノアズ国』の、姉妹国であるという関係や、その国の簡単な紹介が流れる。 そのおかげできっと来客者が全員、『ノアズ国』国王と『ハポネス帝国』始皇帝が同一人物であると理解できるだろう。
そしてこのイベントホールが、初めて使われる一大イベントが起きるという説明がある。
その瞬間、会場のすべてが暗転し、一瞬ざわざわとしたが、直ぐに静かになる。
「ご来場の皆さまの中に、今尚、状況が呑み込めない方が数名いらっしゃるはずです。 なぜなら、ある人物がその方達に届けたいサプライズがあるからなのです。」
ミカドの声だけが聞こえる。
数名にスポットライトがあたる。
ライラ・イファ・タナー・ケビンの4人。 最前列で、一つのテーブルの席に着いている4人だ。
当の本人たちは、事情が掴みきれずにいる。
「今までこの4名の方に隠し通すことができた故にこの方々は、事情を察しきれないでしょう。 ・・・では、こちらの方からご説明いただきましょう!」
盛大な拍手と歓声、音楽が響く。 どうしていいかわからない4名。
一際大きな音が鳴った。 次の瞬間、ステージには全てのスポットライトが向けられた。
音が消えた場内で、スポットライトを受けているその場所には、銀色に輝くローブと銀仮面を被った者が一人だけいる。
その者が話し出す。 仮面の内側にマイクを仕込み、スピーカーで全員に声が届くようにしてある。
「・・・・・私は、ハポネス帝国を作り、ノアズ国を作った者。 さてそちらにいらっしゃる4名様には、今少し事情が呑み込みにくいことでしょう・・・。」
「説明すると、ここで、ある一組の結婚式をすることになっている。と、お伝えしましょう。」
ライラ達は、
「結婚式!? 結婚式って、ラナ達の事かしら?」
「でも、国を2つ作った人とタニサ君は知り合いだったって事なのか!?」
「イファさん、タニサさんって、あんな偉い人と知り合いなんですか!? しかもその王様?皇帝?が説明までしてるって凄いです!!」
結婚式、終われなかった…




