第七話 名状し難い希望①
忙しくて間が開きましたが、久しぶりに投稿します。話の流れがわからない人は前の話も読んで頂ければ(ステマ)
黒い巨体から発せられる威圧はさっき魔獣の比ではなかった。きっと親か何かだろう。ただ、言えることがひとつある。
「ねえ、さっきの魔獣もだけどこの黒い魔獣初めて見るんだけど…」
「残念だな、俺は二度目だ。ああ、アイツだアイツだ。こんなちっちゃい奴じゃなかったよ、今思えばな!…数十分ぶりだな、ヘンテコ魔獣!」
この魔獣もまた近付こうとしない。だが、さっきのとは様子が違うようだった。じっとマサキたちを見つめている、見ているのではない、見つめているのだ。
リーシャはあまりの迫力に目を逸らそうと目線を下げた。
「…っ!……ねぇマサキ、確か友達が危険とか言っていたわよね?」
「…ああ、そうだが?」
「私の予想ではあの血が付いている白い布は友人のではないの?」
魔獣の爪に引っかかっていたのは倫が着ていたと思われる赤く染みている元は白かった布の切れ端だった。マサキは今日の倫が着ていた服を思い出そうとした、そしてすぐに着ていた服が学校指定のカッターシャツだったことを思い出して、その場に崩れかけた。
…瞬間、頭が真っ白になった。何も考えられない、今まで一体自分は何をしていたのか、誰の為にこんなことをしているのか、自分のせいで友が死んだ、それだけで自分の存在意義が見い出せなくなりそうだった。
「嘘だろ?ははっ、どうせまたドッキリとかだろ?前にもこんな事あったよなぁ、なあどこかに隠れてるんだろ?出てこいよ、なぁ、なぁ、なあ…」
頬から涙が溢れてくる。
「何やってるのよマサキ!立ちなさい!」
パシッ!と乾いた音がして、マサキは上を見上げた。
さらにリーシャはマサキの襟を掴んだ。
「マサキ!しっかりしなさい、あなたはまだ死んてないのよ。あなたがここで死んだらあの二人の少女はどうするのよ、あの二人よりその友達の方を優先するつもり?ゲイなの?」
「なっ!違っ…」
「ならやることは分かってるでしょ、さぁ逃げましょ!」
いいのか?それでいいのか?確かにあいつが救ってくれた命だ、あいつの努力を無駄にするつもりは無い。だが本当にそれでいいのか?
「…俺は逃げない。」
「…え?」
マサキは奥歯を噛み締め、崩れそうになる膝を手で支え、ゆっくりと立ち、涙を拭って顔を上げた。
「俺の友達の名前は倫って言うんだよ、俺は二度あいつに救われた。一度目は学校で助けられた、二度目はここで。あいつは弱い、だけど仲間のためなら闘うんだ、たとえそれが理不尽な状況でもあいつは逃げない。な?凄いだろ?」
「そうね…私の知ってる限り、損得勘定や命令以外で命を捨てる聖人は知らないわ。」
「……そうだよ、あいつはイイヤツなんだよ、他人のために自分を犠牲に出来る…バカなヤツなんだよ!俺はそんなバカになりたかったんだ。」
二人は顔を眼前の魔獣に向けた。
「…そう、それは素晴らしい友人を持ったわね。」
そして同時に走り出した。
「勝てる見込みは?」
勝てる見込み…先程の戦いを参考にしたとしてもあの一撃が全力の火力なら親クラスに勝てる可能性はほぼ無いに等しい。
だが、勝てる見込みが無かったとしても…
「…絶対に負けられないから100%だ。」
「わかったわ、手伝って上げる。」
魔獣との距離があと数歩のところまで迫ってきた。しかし魔獣に動きは無く、じっと向かってくるマサキを見つめていた…まるで機を図るように。
「うおおぉぉおおおお!!」
魔獣が右脚を振り挙げた。それを見てマサキは懐に飛び込もうとした。リーシャは魔獣の動きが鈍重なので簡単に潜り込めるだろうと考えていたのだが…
魔獣の右脚が消えた、いや、見えなくなる程の速さで右手が振り降ろされた。真下には丁度マサキが潜り込んだ直後だった。そしてリーシャが気づいた時には地面に衝撃波が走って土煙が舞った。。
「う、嘘……マサキ!」
リーシャが叫ぶがマサキからの返事は無い。リーシャの顔は次第に青ざめていった。
「っ…」
土煙が晴れると、そこに立っていたのは黒い魔獣ただ一匹だった。
しかし、そこでリーシャは疑問に思う。マサキ声が聞こえなかったと。
「……リリーシャ様、お怪我は?」
魔獣から少し離れた地点に白髪の初老の男が気絶したマサキを肩に抱えて立っていた。
「間に合って良かったです。早くここを脱出しましょう、この魔獣が動き出す前に。」
「…まだだ、まだ終わってない。こんな所で終わってたまるかぁ!」
「マサキ…」
「なっ…待て!」
マサキは体を捻って初老の男の拘束から離れた。
「はああぁぁあぁぁあぁ!!」
その場から動かない魔獣の後ろに回って再度突撃した。
左斜め後ろから殴りにかかる、ちょうどギリギリ魔獣の視界に入らない角度で迫った。
しかし、魔獣は尻尾を振り払い、マサキを簡単に吹き飛ばした。そのままマサキは木にぶつかるまで飛ばされた。
「がぁ!!…ぐふぅ…はぁ…はぁ…あぁぁまだだァ!」
マサキは立ち上がり、よろよろと歩きだした。しかし身体が既にぼろぼろであり、数歩歩いたところで転けて倒れた。
「っ…マサキ!」
リーシャが倒れたマサキを介抱しようと走ってきた。しかし、初老の男が介抱するのを手で制した。
「マサキと言ったな、どうしてそこまでする、その行為は自分の命より優先すべきことなのか?」
初老の男が問う。
「…友達の為…だ…それ以外に理由は要らない…」
「貴様の友がそれを望んだ訳では無いのだろう?それは只の自己満足ではないのか?」
「自己満足だとしてもだ、何が悪い。」
「脳みそが腐っているんじゃないのか?その理由は貴様の友の為ではないではないか、それは友をいいように利用しているだけではないのか?」
「アイツがそんなこと望んでなくてもだ…俺はアレを倒す。」
初老の男はため息をついた。
「…さっきを言っていることが違うか?」
「違わねぇ、アイツがどう望んでいようが俺はアイツのために動く、それが友達ってものなんだよ、覚えとけじーさん。」
「……」
初老の男は思い出していた、かつての自分も同じ境遇に立っていたことを、同じ選択をしたことを…そして口を開いた。
「…後悔するぞ?友の望みも果たせず散ってゆくとしてもか?」
「俺は…後悔したくない、だから行くんだ。小さな可能性でもいいんだ…俺が皆を守るんだ!」
マサキはゆっくりと立ち上がる。そして一歩一歩進んでいく、身体はボロボロですぐに力尽きてもおかしくはない。しかしマサキは止まらない。
初老の男はマサキの眼を見た、そこにはかつての自分…それ以上の覚悟があるように感じた。そして初老の男も覚悟を決めた、いや、もう決まっていてマサキの覚悟を聞きたかっただけかもしれない。
「ほれ、これを使え。」
初老の男は二本のうちの一本の剣を放り投げた。
「ありがとう、大事に使わせてもらう。」
マサキは振り返らずに、右手で掴み取り鞘から抜いた。
…ああ、この感じだ。
…気持ちが昂ってくる。
…この感じだ、だんだん力が湧いてくるような感覚だ。
…今なら全てを守ることが出来そうな感じだ。
「待って!無理よ、死んじゃうわ!」
リーシャが後ろから声をかけてくる、しかしマサキは止まらない。マサキの手を引こうとするが、初老の男に止められた。
「リリーシャ様、大丈夫です。彼はもう負けないでしょう。私も付いています、ここで見守っていて下さい。」
リーシャは軽く頷き力を抜いた。
「では、行ってまいります。」
そう言って初老の男もマサキの後を追った。
チート?って思うでしょう?でもこれはチートです。
現在もう一つ書いてるけど、書き溜めしてから出したいですね。