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1/1

プロローグ:モテたい。否、絶対にモテる

登場人物


沙耶野潤

普通の高校生。


フィルサーラ リィトレア

『精霊』さん。


中山礼奈

沙耶野潤の同級生。


メガネ

沙耶野潤の友人。

1


「好きです!付き合ってください‼︎」

「ちょ!私達女の子同士…?」


2


高校生になった。

対して変わらないというのが沙耶野潤の感想だった。

黒髪に特別太ってもゴツくも細くもない程の体つきが特徴のどこにでもいる平凡な高校生だ。

いつもの様に起きて自転車で学校に行き授業を受けてまた帰る。

部活は悩んでいる。恋愛は進展しない。させる気も無いのだろう。

潤は自分の席から右斜め前の方をみる。

視線の先にいるのは楽しそうに話している女子だった。

中山礼奈。

長い金髪をポニーテールでまとめ、平均身長より少々高めの身長、見事な比率の絶対領域を持った少女は三人グループの中央でクスクスと笑っていた。

綺麗だと思っている。

告白しようとは思えなかった。

相手からしたら自分の名前さえ知らないはずだ。爆死するような危険なことはしたくない。

その意識がきっと恋愛の進展を邪魔しているのだろうけど。


3


午後五時。

放課後を知らせるチャイムがなる。

結局今日も平和だった。

それに対する潤の感想はこうだった。

(いざ事件が起きたら平和を望むのかな?)

そんな思春期特有の外に出したくない悩みを抱えていたら背後から声がかかった。

「失礼。」

そこにいたのは、一人の女性…女の子だった。桜色の長い髪、漫画家が被ってそうな帽子…名前なんだっけ?まぁいいか。その同人誌作家臭満載の頭部と全く合わないスーツを着た少女だった。

「お話があるんですけど…いいですか?」

悪質な商売はお綺麗な顔面をたくみに使うというのを思い出した。

「ちなみに悪質な商法などではありません。」

「あれ?そんな顔してました?」

「はい、バリッバリしてましたよ。それよりどうですか?悪質な商談は一切しません!」

(どうだろうね?)

疑心暗鬼は晴れなかった。

「話を聞くだけで五万出しま

「行きましょう‼︎‼︎‼︎」

疑心?そんなものありはしなかった。わかった?


4


桜さん(仮)に連れられてきたのはお洒落なカフェだった。

他にも勉強イチャイチャしている学生カップル、やかましく…否仲良く話している反社会そうなお兄さん達がいた。

「チッ…殺意湧く客層じゃねぇか…前来た時は静かだったのに…」

もうキャラ変わっていた。

潤と桜さん(仮。潤がつけた。)は席に座り各自に注文する。

「カプチーノ」

「ミルクココアよろぴく」

指令座りしながら問いかけてくる。

「単刀直入に、悩みはある?できれば恋の」

「そんなことすんの社会人と暇な奴らだけです。」

「じゃ好きな子は?やっぱ綺麗な子が好きか?」

「ま、まぁ綺麗に越したことないですけど…」

「やっぱり現実見ちゃうか…その子とセックスしてる妄想したあとイケメソにデレッデレの姿見たら現実に戻っちゃう感じ?」

「何すかその恋は下心みたいな」

「恋ってやましいことをオシャレに言ってるだけだよ。好きです付き合ってはベッドの上まで付き合って欲しい人にいう言葉だろ…」

当然のこと言ってます口調で言った。

「ハァー、もういい、あと店員さんこの席行きたく無さそうに見てましたよ。アンタ何やらかしたの?あと下ネタやめれ」

「人間正直じゃねぇんだよなぁ?なんで素直に言わねぇのかな?あなたとセックスしたいって」

「やめろっつってんだろ!あと!んな事言えんの女の特権だから!男がそんな事言ったら絶対フラれるから‼︎」

潤は机を叩いてそう言った。

それと同時に店員さんがきた。潤は落ち着いて座る。店員も覚悟を決めたらしい。

「お待たせしました。こちらカプチーノ、こちらミルクココアです。」

店員さん、やや苦笑いだった。

「どもー」

店員さんはカウンターに帰っていった。

そこを狙ってこの女は言った。

「ねぇねぇ〜、今までセックスしてみたいって思った女の数は〜?」

無視という素晴らしい単語が脳裏をよぎった。

「あなたの名前を聞いていなかったよ」

気にしていないように桜さん(仮)は名乗った。

「フィルサーラ リィトレアでーす」

意外だった。日本人と思ったが外国人らしい。何よりすげぇ覚え辛そう。

「僕は…」

「言わんでええよ、沙耶野潤さん」

「なぜわかった⁉︎」

答えはすぐ帰ってきた。そして少しずつフィルなんとか、ニヤけてきやがった。

「実は下調べしたんだ〜あんた〜五人くらい告ってんじゃないの?」

「なんで知ってんだ‼︎」

「顔真っ赤だゼ☆」

フィルなんとかさんは、持っていた手提げからタブレットを取り出しながら続けた。

「にしてもぉ、告白した回数最低五回からぁ、まさかあんな言葉がねぇ〜初めて告ったのが五歳でぇ」

さっきからずっとニヤけて語尾が上がってイントネーションにイライラする。あとこいついろいろ調べてんな!

「最後に告ったのが中三の頃だからぁ、お前さ、九年くらい暇だったの?」

「あ、ああの時は、ガ、ガキだったん、だろう」

潤は動揺しまくっていた。

フィルなんとかは適当に返す。

「まぁ文明作る生物は恋の期間が長いかヤリたいだけかどっちかに寄るからねぇ。オシャレか下品に寄るともとれるな。ぶっちゃけ誰と誰がくっつこうとそいつらに言う事はまぁ、リア充爆ぜろ‼︎くらいだね。さて、本題に入るかな」

(この下らない話の意味は?)

潤は心の中だけでツッコんだ。

フィルなんとかはタブレットを操作しながらミルクココアを飲み干したらしい。

タブレットで何かしながらこう呟いた。


「お前さ、よく女だと思われるだろ?」


沙耶野潤の肩が跳ねる様に動いた。

沙耶野潤のトラウマを掘り起こす。

フィルサーラは、きっとそのリアクションを予測していたのか、動揺はなかった。

「私から見たらお前はどう見ても男にしか見えないよ。なのになぜ、『お前が告った女共』は揃いも揃ってお前を『女』と間違えたのかな?」

「偶然だろ…理由なんてあるわけないだろ…」

潤の声は非常に弱々しいものになっていた。

「お前は信じられんかもしれんけど私にはこう見える」

ゆっくり、フィルサーラは息を吸う。

そして告げる。


「お前には『誰からも恋愛対象に見られない特殊な素質』がある」

「僕をたばかっているのか?」


潤はそのセリフが出た瞬間、思ったことを簡潔に即答した。

「お前は女やホモに告れば女に一瞬見えて男やレズに告れば普通に男として見られるんじゃないかと思う。お前は絶対に愛されない、たとえ私の能力チカラでお前を世界一イケメンにしてもお前にもっとも似た顔を持った奴がモテる、繰り返し言う、お前は一生独身確定だ‼︎‼︎」

フィルサーラは構わず真剣な顔つきで己の中の中二設定説明(と潤が思うもの)を続けていた。

「そうか、お前の中ではそうなのか?お前は他人ボクに中二設定を聞かせる為に呼び止めたのか?さっさと五万出せ‼︎中二病の脳内設定なんぞ興味無い。さぁ五万出せそして僕を帰らせろ‼︎‼︎」

「やっぱそうなるか〜。一応前に、日本で勧誘したけど同じ反応だったなー」

「当然だ!その手の話は幻想世界を信じてる奴らに言え‼︎」

「へーへー。どーでもいいけどちょっとスマホ出してもらえる?」

「なぜに?」

「連絡先交換的な?」

「迷惑と思ったら速攻断つから」潤はスマホを取り出しながら警告した。

「机の上に置いて、そうそう。」

次の瞬間フィルサーラは訳のわからない行動に出た。

「恋心と関係を司るフィルサーラ リィトレアの名において、汝に虎の威を貸し与える!」

フィルサーラは手を拳銃の形にして潤のスマホに向ける。人差し指からピンク色の光が出てスマホに直撃する。

指に何か仕込んでいるのか?

終わって真っ先に出たフィルサーラの第一声がこれだった。

「いやー日本語でも出来るんだなー」

「何したんだ⁉︎」

「ちょぉとSiriの機能いじっただけだ。容量に影響は無い。Siriに私の名前を叫んだら正義のヒーローが駆け付けて来るように設定しただけだ」

「本当だったらすげぇ大事だな!どうせお前の中二設定なんだろう‼︎」

「命の危険になったらそうしろ。その時に真偽はわかる。それとはい、五万円だ、受け取れ。」

フィルサーラは中二設定と言った事を無視して財布と封筒を取り出し財布の中にあった五万を封筒に移し変え、それを潤に投げつける。

「ありがとう、五万も受け取ったし、じゃあ僕はこれで…」

「待ぁて!」

幸せを感じながら帰ろうとしたら呼び止められた。

「私の名前、復唱してみろ」

「…フィルムカメラ……なぁ、下何だっけ?」

メニュー表投げつけられた。

「いった⁉︎何すんだ‼︎」

「人の名前を馬鹿にするなと教えられなかったのかぁあん⁉︎フィルサーラだ!復唱‼︎」

目に殺意的ななにかが宿っていたので潤は黙って従うことにする。

「フィルサーラ…」

「オゥケェだ。命の危険になったらSiriにその名を叫べ。いいな?」

そう言ってフィルサーラはレジに向かう。レジ打ちの女の子にからんで非常に嫌そうな顔をされているのは気のせいだろう。


5


二十一時。沙耶野家自室にて。

いつもならこの時間、潤はだらけているが今日は考え事があった。

(五万何に使おうかなぁ☆)

潤はフィルサーラから貰った封筒から五万を取り出す。本物だ!

そこで疑問に思う事があった。五万と一緒にA4の紙を三つ折りにしたものが入っていた。

そこにはこうあった。


『☆儲け話☆』


最近拉致や殺人のニュースをよく聞くよね♩あれ実は人間がやってる事じゃないんだ☆警察があてにならないから困ったよね!

また恋愛とか人間関係で生まれつきのそういう素質から来る悩みをもっているそこのあなた!

この二つをぉ、なんと同時に解決できちゃう仕事があるんだ☆

仕事の内容はぁ♩与えられた武器で拉致犯をぶっ殺してそいつらから落ちる玉を五千個集めればぁぁぁ、なんと!生まれつき持っていた素質を打ち消せるよ!

一万個集めれば夢のタイムリープ!人生を一からやり直せるけど誰もやんないから忘れててもいいかも!

殺すことに抵抗があっても大丈夫☆あいつら人間じゃないし人間を襲って来るから防衛意識的な感じですぐに慣れるよ!

月給三十万円でこの仕事、やってみない?



いろいろ突っ込みどころある内容だが、これを読んで潤が率直に思った感想がこれだ。

(あいつ…どんだけ残虐な設定思いつくんだろう…)

これ以上奴の中二設定ハンドの上で踊らされるのはごめんだ。

そう思いながら潤はその紙をクシャクシャに丸めて捨てた。

見らずに投げたが見事に入った。その確認をしたために反対側を向けていた身体を元に戻す。

机の上には

さっき捨てた筈の

紙が

置いてあった。

「………………」

潤は無言でそれを丸めもう一度捨て、向き戻る。

またさっき捨てた筈の紙が置いてある。

素早くそれを丸めアクロバティックにゴミ箱に入れる。三たび机の上に捨てた紙が…

落ち着いてみよう。紙はゴミ箱に捨てたら戻ってくる。これはどういうことか?潤は部屋の隅にあるゴミ箱の中を覗く。三回捨てた筈の紙がない。

次に紙を調べてみよう。

答えは紙の裏に書いてあった。

『ちなみにこの紙はゴミ箱に捨てたり持ち主と300メートル以上離れたりすると持ち主のどこに転移するか自己判断して転移するよ☆

中二病患者と思われたく無いなら肌身離さず持っておこうネ☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆』

「ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぞあのクソ女ぁぁ‼︎‼︎‼︎」

潤はそれをビリビリに破いた。どちらにしろ他の奴らにバレれば中二認定確定じゃねぇか!

何故か紙の感触が消え、何故か机の上に元の状態で戻っていた。

『紙を破ったり濡らしたりなどしても同じ効果が発動するナリ☆綺麗な状態に戻るから安心ぜよ(キリッ)ちなみに折るだけなら効果は発動しないモロ♫』

あの紙の上ですらキャラがブレッブレの女は無駄にハイテクで、これがあれば通信教育の勧誘などが嫌がらせに進化しそうなものをもっているらしい。

とりあえず明日は四六時中これを限界まで折り曲げたものを携帯しておこう。

そう決めて宿題にとりかかった。


6


午後十三時。学校。

沙耶野潤は昼食を取り終わって読書をしていた。

比較的上にいそうな集団がこう話していた。

「また行方不明になったらしいぜ!」

「最近多いよねー。不安だわー」

「大丈夫って、お前に需要ないっしょ」

「それは私がBUSUだって言いたいのかな?」

「痛い痛い痛い‼︎」

(バカバカしい)

それは彼らに向けたのではなくあのもうちょっと頭捻れなかったのかなーというあの紙のことを思ってのことだ。

考え事をしていたら後ろから声がかかった。

「何考えこんでんだ?」

話しかけてきたのはメガネが本体の友人♂だった。

「別に」

シンプルに答えた。

「いやーなんか悩んでそうだったからさー」

「メガネはそこまで見えんのか?」

「メガネカンケーねーし」

一泊おいて告げた。

「「お前が女の子だったらねー」」

ハモってしまった。

「あわせんなよ」

「俺だってハモるなら女の子とやってクスクス笑い合うっていうシチュが欲しいの!」

「ギャルゲかよ…」

「ギャルゲしたいなー。なぁ三次元で出来るギャルゲって最高じゃね⁉︎」

「その発言を聞いてお前をいいかもと思っている子はどういう反応すんのかね?」

潤はメガネから視線を外した。そこには恥ずかしそうにこちらを向いていた女子がいた。名前覚えてないが。

「いんのか⁉︎」

「お前が信じていればそのうち現れるんじゃね?」

「ウエスト細くて顔も可愛ええ子が告ってきたとか想像するだけで…もう…」

(多分あの子ストライクだな)

適当に考えていた。

「まぁ、あんま意識すんなよー。ありのまま過ぎてもアウトだけど飾り過ぎれば自分を見失うし、カップリングした時幻滅されっからなー」

「カップリングって…何腐ってるような言葉使ってんだ」

「腐ってねーよ」

そう言って潤は本の中の空想世界に戻っていった。


7


午後十九時。

今日は興味のあった部活を見学し、テニスで有名な方の下位互換みたいな先輩から絡まれたり、ポエマーな顧問のポエムを聞かされたりしたため遅くなってしまった。

「「さぁ、帰るかな」」

声がハモった。今度はメガネでは無い。メガネは先に帰っている。

横を向く。

隣には中山礼奈がいた。

心臓が跳ね上がる。

「今帰りなの?」

潤は話しかける。

その動作だけで本番前の重圧の様な感覚に襲われる。

「うん」

中山は自転車を持っていない。という事は歩きなのだろうか?話しながら帰れるのか?

「そうじゃ、じゃあねー」

潤は小走りに学校の敷地を出る。

緊張に耐えかねて逃げ出した、という方が正しいだろうが。

「うーん、もうちょっと話したかったけどまぁいいか」

その行為は中山の意には反していた事にも気づかずに。


8


(あーもぉぉぉぉぉ‼︎)

何故自分は逃げたのか?もう少し話せたのではないのか?その後悔が潤の頭の中を埋め尽くす。

おそらく、彼女と話す事などもうほとんどないだろう。自分は貴重な一回を棒に振ったのではないか⁉︎

(今から忘れ物したって戻るか?いやなんかキモいな)

「結局、カッコ悪いな…俺」

思ったことが口から漏らしてしまった。


それとは別に潤にはさっきから気になる事があった。


何やら甘い香りがする。


その匂いはすぐかき消されそうなほど微かだ。だが匂う。女性の化粧やおっさんの加齢臭とも違う。果物や化粧やシャンプーの匂いじゃない微かだが無性に気になってしまう匂いだ。

横断歩道を渡って匂いのする方向へ向かう。


9


中山礼奈はボヤけた意識の中で確認をとった。

自分は何故ビルの屋上らしき所にいるのだろう?

確か友達と話しながら帰り別れ、一人で鼻歌を歌いながら帰っていた。


そこで記憶が途切れている。


疑問は山ほどある。

何故私はビルの屋上にいるのだ?

気絶したにしても屋上にいる意味と理由がわからない。

何故私は両手を後ろで繋がれているのか?

何故ビルの屋上なんてところに自分と同じ様に二桁ほどの人が両手を後ろで繋がれているのか?

答えは返ってきた。


「よぉし全員起きたな!貴様らに伝える事は一つ‼︎これから貴様らは大切な商品だ‼︎」


意味が、わからない

中山の頭はパニック状態だった。

まず、発言した男やその周りの奴らの格好からおかしかった。

何故この現代日本でファンタジー臭満載な格好をしているのか?

それに取り巻きの肌の色がおかしい。赤色や青色の肌を持つ二足歩行生物。コウモリの羽根の様なものを背中から生やしているものもいる。中山にはなんとなくあれは塗っていたり、飾り物には見えなかった。

何故屋上の周りを紫色の壁が覆っているのか?

コスプレイヤーがアニメのシーン再現の為に集めたのか?

コスプレイヤーは常時あんな化け物スタイルではないはずだ。

思考を巡らせていた所で隣の三十代程の男性が立ち上がった。

「ふざけるな‼︎今すぐ我々を解放し

最後までいう事が出来ず男性の足にナイフが刺さる。

「あっ、ぁぁぁあ‼︎‼︎」

「こちらは武装しており、そちらは両手を縛られている状態。どちらが有利かなどガキでもわかるとおもうが?」

誰かが甲高い声で叫んだ。

そこから一気に全員が慌て逃げようとする中、中山は声さえ出なかった。

パンッッッッ‼︎‼︎‼︎、耳を塞ぎたくなるようなとてつもなく大きな音がする。

その音でその場にいた全員が黙る。

「因みにここでどれほど大きな声で叫ぼうと外には全く漏れはせん。救援の可能性はほぼゼロだろうな」

先程の大きな音が指パッチンで鳴らした音であるという事が中山には信じられなかった。

リーダー格の男は続ける。

「さて、お前たちはこれから奴隷となって生涯コキ使われ続けられるだろう」

最早一人も声を出せなかった。

「そこで、だ。オレが気に入った奴のみ解放してやる。オレに媚びろ、それが自由を掴む最もの近道だ」

一瞬の静寂の後

誰かが言った。

「何でも差し上げます!お願いですから解放してください」

その言葉には、焦りの色しかなかった。

だがその言葉は皆に火をつけるには十分だった。

「私、マ、マッサージ師の免許を持っています!あなたを最高の快楽へ導いて…」「子供がいるんです‼︎どうか解放してください‼︎‼︎」「ふざけないでそれなら俺にだっているぞ‼︎」

必死に頼み続けるもの、ヘラヘラ笑いながら条件を持ちかけるもの、他人の発言に難癖をつけるものいろいろいた。そしてどれほどたってからか、一組のカップルが言った。

「僕達、結婚するんです。め、めでたいでしょうだからどうかおお、お助けを…‼︎」

リーダー格の男の目つきが変わった。

男はカップルの女の方に手をかざす。

次の瞬間、カップルの女は男のかざした手に吸い寄せられる。

男は引き寄せた女の腹を腰を入れて殴る。

五十キロはあるだろう体が冗談の様に宙を舞い紫色の壁(?)に激突し鮮血を撒き散らす。

「結婚する事がそんなに偉いか⁉︎女がいるからと図に乗りおって‼︎‼︎」

再度悲鳴が上がる。

パニックで失神したり、嘔吐する者もいた。

結婚を自慢した男は魂が抜けた様に動けない。

リーダー格の男はそいつの肩を叩き言う。

「良かったなぁ、これでお前も晴れて独り身だ。おめでとう、セカンド童貞ライフがお前を待っているぞ!」

中山は、先ほどの一連の流れがずっと引っかかっていた。

(ありえないありえないありえない‼︎‼︎あの女の人の体をどうやって浮かせたの⁉︎あの規格外な腕力は⁉︎腕はどう見ても太い方じゃない、な、なのに、どうして⁉︎)

男は取り巻きの二人に指令を出した。その言葉は日本語ではない、何か得体のしれない言葉で取り巻きに命令している。取り巻きは紫の壁を超えビルから躊躇無く飛ぶ。

男の目が確実に中山の方を向いた。

それだけで心臓が跳ね上がり、止まりそうになる。

「この女、個人的に我が好みではあるな…」

ザラザラした手で中山の頬を挟まれる。

手が超臭い。

恐怖で膝が震え、意識が遠のいていく。そこで中山の意識は落ちた。

「気絶する上に失禁するとはまるで小動物系だな」

リーダー格の男は取り巻きに話しかける。その言葉は日本語ではない。意図は

「この女は特別枠だ。あとさっき殺した女の替えをとってこい‼︎若い方が好ましい、いいな!」

取り巻き達は威勢良く返事をする。

(そろそろ『拠点』に移動させるか…)

拉致した人間を拠点まで空間移動で運ぶ。それが拉致のやり口だ。

考え事をしていたからか、いやおそらく全神経を集中させても気付けなかっただろう。


後ろから迫る何かに。


10


沙耶野潤は甘い香りを追った結果、7回建てほどのビルに辿り着いた。

香りの発生源に近づくにつれてその匂いに何というか、異物感が出てくる。

それに屋上が紫色に輝いている正方形はどういう事だ?

考え事をしていたら何かが見えた。

それは正方形から出てきた。

人か?それにしては身のこなしが軽い。つーかなんか背中から生えてね?

潤にはなんとなく、そいつらに見つかったらヤバそうな感覚がし、ビルとビルの間、ていうか路地裏に入る。そして相手の様子を伺おうとした。

「kfnjirjjjtollgcn.lvvgjaejえgll.」

「ijnmvgd.あんあlr.」

何だろう、日本語どころか英語ですらないため、奴らの言っている事の意味がわからない。

物騒なレイヤーさんか?

そして怪しい奴らは潤の隠れた路地裏とは反対の方向に歩き出した。

潤は安堵の吐息を漏らす。

再度そいつらを見る。


片方の

赤色の

蛇の様に細い目と

合ってしまった。


雲が月を隠しているため暗い闇夜がさらに暗く感じる。

奴らは武器を取り出し追って来た。

恐怖が、

己の足を動かす。

この足がもつか、相手の方が速いのでは無いのか?

全て知ったことでは無い。

潤は出来るだけ角を曲がり相手をまこうと務める。だが、追っ手の方が速い。

『命の危険になったらSiriを開いて私の名前を叫べヒーローが迎えに来る』

中二と小馬鹿にしていた内容が脳裏をよぎった。

そんなものにすがらなければならない程、潤の心の余裕はなくなっていた。

潤は公園に逃げ込みドーム状の滑り台の下に隠れる。

おそらく稼げる時間など二桁もないだろう。

その間にスマホのロックを外す。緊張で指が、足が、身体が震える。

「Siri!」

潤は叫ぶ。

二つの足音が確実に近づいてくる。

「フィルサーラぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎」

ドーム状に覆われているため完全の暗闇だった滑り台の中をまばゆい光が照らした。

スマホはこんな環境でスマホしてたら目悪くするんだろうなー位の光は目を開けていられない程眩しい光に変わっていた。

悲鳴と肉が裂け骨が砕ける音がした後、入り口から見知った顔が覗きこんできた。

「公園にこもるって、インテリちゃんかよ…」

そこにいたのは昼間のスーツ姿ではなく、ヘソが出ているゴスロリ服を着た少女、フィルサーラだった。

「ぅるせーッ、命の危険だったんだぞ!プライド持ち出してたら完全に死んでたよ。それよりあいつらは?」

「『魔族』な、片付けたヨン♩あっちの方も殺った方がいいんかね?」

フィルサーラが指し示したのは紫の立方体があるビルの屋上だ。

「死体がないが?分子レベルまで分解したとかか?」

「あいつら死んだら黒い粉になるから死体は残んねーの」

じゃ、行ってくる。その程度の気軽さでフィルサーラは大地を蹴り、ビルを伝って目的地へ行く。

潤にはその様な脚力は無いので歩いて向かう事になる。


11


フィルサーラは地面を蹴り、ビルをつたい速攻で目的地に着く。

擬似的な人間砲弾を受けてびくともしなかった紫の壁をフィルサーラはいとも簡単に蹴り、ぶち抜いた。

そして告げる。

死の宣告を

「ハロォォォォ‼︎処刑の時間だゾ☆おとなしく私に命を差し出しなサイ♪」

大半はフィルサーラの言っている事(正確には日本語)を理解できずポカンとなっていた。意識を保っていた日本人にも困惑の表情をしている。

リーダー格の男は動揺を隠せなかったらしい。

「何故『精霊』が動ける⁉︎『この世界』では貴様らは力が強すぎて動けない筈では…」

「何事にも例外はあるってことなんじゃないカナァ?よぉ知らんけど」

フィルサーラは手のひらに意識を集中させる。

そこに虚ろなトゲが現れ、それを掴む。

リーダー格の男が叫ぶ。

「かかれ!」とでも言ったのだろうか?

男の取り巻きがフィルサーラを斬殺しようと剣を振るう。

フィルサーラはそいつらの剣の動きを完全に見切り、正確に心臓にトゲを刺す。

胸部をたゆんたゆんさせる♀の取り巻き(魔族)に関しては心臓だけでなくその両胸にトゲを突き立てた。

「チッ!無駄に大きな乳しやがって‼︎」

「う、動くなぁぁあ!」

その声が聞こえた方を見る。

リーダーっぽい奴が意識のある女性を小物感全開で人質にとっている。

「この女がどうなってもいいのか⁉︎」

「助けてぇ‼︎‼︎」

文章ではわからないだろうが男は声が裏返って野ウサギ状態になっていた。可愛くねぇ。

フィルサーラは無言でその距離を詰めて手刀で女性の首に刃を突き立てていた男の腕を切り落とす。

自由を手にした女性を抱き寄せ、

男の顔に軽く拳を当てる。

その動作だけで男の首が吹き飛び、向かいのビルをえぐった。


争いはたった一人の『精霊』と呼ばれた少女のチカラで終結した。


12


「まぁお前とこの状況には色々ツッコミどころあるよね」

潤は公園からビルまで戻りフィルサーラに抱き抱えてもらい屋上まできた。

「何でしょう?」

「何故みんな寝てんの?」

「ああそれはね、SEI☆REI☆OU様から貰ったスペシャルアイテム、記憶処理の煙の力でみんな意識を失っているんだよ」

「でお前は何をやっているの?」

「みんなが吐いたゲロとか失禁したものとか遺体とかを処理してんの。これもSEI☆REI☆OU様からいただいた万能の布巾と遺体処理セットの力だね〜」

「隣のビルがエグれてんのはなんで?」

「いやー私は半分しか力が出せない状態から更に加減したんだよ。要するに、私のコブシに耐えれなかったあのビルとコンクリが悪い、もっと言えば世界が悪い」

「暴論すぎ…いやもういい。なんで中山さんだけ隔離してんの?」

「いやー記憶処理の煙吸ったら〜明日の八時くらいまでグッスリだから、明日学校のあるその子に吸わせたらちょっと不味いし、お前と同じ学校の制服だったからお前が家まで運んであげて誤魔化せば…」

「何故…」

「こんな綺麗な子と話せんだよ!いい経験じゃねぇか⁉︎」

「確かにそうだけれども‼︎…」

「何が不満なの?」

「意識の無い人間が何キロするか知ってんのか⁉︎女性で五十キロだぞ五十キロ‼︎んな重いもの運べると思ってんのか⁉︎」

「意識無いとはいえ女の子に重いとかゆうなし!」

そう言いつつフィルサーラは呪文と共に指からピンクのビームを出す。

「介護もちしてみろ」

「介護もちってなんだよ…?」

「お姫様抱っこの事だ」

「いやッ、無理だから…」

やってみた。

「あ、なんか軽い」

「そうそうその調子、さぁ!その子の家まで運べぇぇい‼︎!」

「家どこ?あと中山さんなんか濡れてない?あとどうやって下まで行くんだ‼︎そしてお前の人外脚力と瞬間移動の仕組みは?」

「一気に聞くな、私はSEITOKUTAISHIとやらではない。後ろ二つはお前が広告のとうり私のもとで働くなら残り二十五万と一緒に教えてやる。家は第九学区総合学生寮の二◯三号室、濡れてんのは勇気を持って『魔族』と戦った証だ多少臭くても我慢せい、下までは私が階段を作る」

「聖徳太子な、あとそんな派手な事したら大事になるくね?」

「あいつら『人払い』とか言うのしてたし、大丈夫だろ」

そう言えば逃げてる時も妙に人がいなかった気がする。

「要するにそれはないんだな、ならよかった」

「多分」

「確証持って欲しかったかな」

「おっぱいとか太もも触りながらいくなよー」

あ、その発想はなかった。


13


中山はボヤけた意識の中で考えていた。

自分はどうなってしまったのか。

あのよくわからん男に頬を持たれてアゴクイされて自分の意識は途切れた。

今自分はあの(手がとても臭かった)男に運ばれているのか?

いや、そうではないないと断言できる。あの侵略者らしい者たちなら自分がこんな丁重におぶられている理由がわからない。

何より手の感触が違う。

あのザラザラした感触ではない。

大きく暖かい男性の手…

ちょっとまて?

意識がはっきりしてきた。

中山は一度冷静になってみる。つまりは誰かよう分からん男性が自分の太ももを触っているのか。

腕で首を絞めることは出来る。

しかしこの人は意識のない自分を恥を凌いで運んでくれたのでは?てかこの人私の家が何処にあるか分かるのか?

顔が赤くなるのを感じる。

恩を仇で返すのは個人的に嫌だ。

どうやって今自分の意識が戻った事を伝えるか…?

恥ずかしいが耳元で囁いてみようか?

それとも手をシャツの中に…

「いやー、女子の太ももっていいなー。最初触るのには勇気がいったけどぉ、このプニプニした感触、ぁあ、やばい、最っ高」

太ももをさすられプニプニされる感触に襲われ、中山礼奈は耳まで真っ赤に染まった。

これは恩を仇ではない筈だ。

見知らぬの変態紳士の首を絞める。

「ぎゃぁぁああぁぁ‼︎‼︎ちょっ!死ぬぅ‼︎申し訳ございませんでしたぁぁぁ!でもクラス一の美人と噂の人の太ももだもん!下心出ない訳ないでしょう‼︎‼︎」

「開き直らないで‼︎というか何回触ったの⁉︎」

おんぶ状態は解除されたが、それでもまだ絞める。この確認次第では意識を落とす必要がある。

「四、五、六…覚えてる?」

「私に確認とらないで!」

周囲からは痴話喧嘩と思われているらしい。

「それより胸が当たって…」

「その程度の決まり文句で私が解放するとでも⁉︎もう一つ、その…胸触ってないでしょうね⁉︎」

「いやー持ちにくかったからおんぶにしたけど元々お姫様抱っこしてたんだ☆その時ちょっと、ね」

「おるらぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」

中山は絞めを解き、…そういや誰だっけこいつ?まぁいっか。の膝を思いっきり蹴り飛ばす。

「ひどいよ礼奈たん、膝蹴り飛ばすなんて…」

「礼奈たんって…そういえばあなたの名前知らないから教えて欲しいな」

「沙耶野潤デス☆」

「そう、ところで沙耶野君、私の股関節辺りが濡れているのはなんで?」

「あぁ、それ多分失禁」

中山は耳まで真っ赤になった後、顔から全ての感情が消えた。

「それ早く言えや」


沙耶野…やべぇ下の名前忘れてしまった!君は家まで送ってくれた。

「じゃあ沙耶野君、また明日」

「ちょっと待って!」

「何?」

返答にはしばらく間があった。

「その…家に…」

「家に?」

「家に入っていいですか⁉︎」

「ごめんなさい私の住居厳密には家じゃ無くて学生寮なのあなたを入れる家はないですそれじゃ」

「待ってぇぇぇぇ!あの怪しいコスプレ研究会の事も教えてあげるから!知ったかぶりだけど!出来る限りだけどおおお」

中山は潤の眼を真っ直ぐ見る。中山には眼を見るだけで相手がどんな人間かを当てる事はできないが彼に関してはなんとなく分かる。彼に『女性と付き合った経験』はない。それになんとなく部屋入れたんだからヤるの当然みたいなのは大丈夫な気がする。万一襲われても自分には『あれ』がある。

「わかった、散らかさないでね」

「いいの⁉︎」

「わかったっつったよね」

「お邪魔しまぁぁぁぁぁーす‼︎」

気合いの入ったお邪魔しますだ。

あの下心の割に靴の脱ぎ方は律儀だった。

「これが女の子の部屋かぁぁ!なんかいい匂いがする!」

「着替えるから覗かないでねー」

中山は替えの衣類を持って脱衣所に入る。好きでもない男にいろいろと見られたくないものを見られたが尿のついたままの服で話を聞くよりマシと割り切った。

服を全て浴場へ行き、シャワーを浴びる。

沙耶野は脱衣所兼洗面所の前にいるらしい。

『どんな感じー?』

「きもちいいー」

『話してもいいかなー?』

「うん」

『あいつらに詳しいやつはあのコスプレ集団を「魔族」って呼んでた』

「バカバカしいって笑えないな、あんなの見たら」

『そうだね、僕はあいつらに追われたけど陸上の世界記録並の速さはあったよ、怖かったよ』

「君も大変だったんだね」

思い出す。

自身を霊長と呼ぶ人間が自分を助けるために格上の生物に慈悲をこうあの光景を。

気に食わないというだけで殺されたカップルの片割れが血を撒き散らし死にゆく姿を。

「……ッ!」

『何を見たの?』

二重はあるドアとシャワーの音、声を遮る要素は多分にあったが確かに聞こえた。

『話したくないなら話さなくていいよ。ただ、気絶して失神してたらしいからちょっと気になっただけだから』

「怖かった」

中山は話すことにする。この人なら真摯に受け止めてくれるだろう。それに誰かに話す事で気が楽になるかもしれない。

「奴隷にするとか、売るとか、慈悲をこえとか…さ、笑い飛ばしたいけど笑い飛ばせない、相手はその言葉の意味を、重みを、わかって使ってる。嘘を言っているんじゃない、そんな声音だった。それに躊躇無く人を殺す所とかさ。血の臭いも、それを見て叫ぶ人達の表情、吐瀉物の臭い、全部夢であって欲しかった。あとさ、人を浮かせて引き寄せてた。そのギミックが分からなかった。五十キロ程のものを手をかざしただけで引き寄せてたんだ。あれはトリックとか私の知らない物理現象を使っているんじゃない。断言できる…あれはこの世界の法則に従ったものじゃなかった…住んでる世界が違ったんだあいつらは…」

呼吸が速くなる。

絶叫が、血の色が臭いが、フラッシュバックする。

『大丈夫⁉︎』

「大丈夫…どさくさに紛れて入って来ないでね」

要するにね、と中山礼奈は付け加える。

自分の言いたい事を。

「怖かった…怖かったんだ‼︎言葉では表せないくらいッ‼︎私の知ってる世界の法則を、法律を、全てを嘲笑うあいつらが‼︎‼︎‼︎」

自分でも何が言いたいか分からなかった。

きっと怖かったと言いたいだけなのだろう。

『…強いんだね。自分ならきっとそんな体験話せなかった』

「私は強くなんかないよ」

『求めてる「強さ」って人によって違うんだろうね

。僕の求めている「強さ」を中山さんが持っていただけなのかもね』

「哲学者みたいな言葉だね」

『本物の哲学者はこんなチンケな言葉残す価値すら無いって笑っているんじゃ無いかな』

「そうかもね、…ありがとう。気が楽になった」

そう言ってシャワーを終える。

身体を拭き服を着るために掴む。

そこで見てしまった。

スライド式のドアから覗くスマホのカメラを

誰が?決まっている。さっきまでなんか良い事いった風に決めていたあの男以外に誰がいる⁉︎

中山は身体をバスタオルで包み、服に隠して持ってきたエアガンを取り出す。

いつでも撃てる状態になっていたため速攻で撃つ。

カメラのレンズにクリーンヒットだった。


14


「ひどいよー僕はただあなたの艶美な肢体を撮りたかっただけなのに」

「レンズにヒビが入ってるけど弁償しないよ。つかさぁなんで撮ろうとすんの⁉︎何かカッコいい事言ってたのにいろいろ台無しじゃねーか‼︎」

「ていうかあの射撃の腕は何?」

「教えない」

現在、中山さんは寝巻き姿のなって足を組み、ベッドに座っている。

寝巻きが綺麗なのではなく本人が綺麗だから何着ても綺麗なんだろうと潤は適当に結論づける。

ちなみに潤は正座で上から目線で罵倒を受けている。

思春期の男にとってはこれもご褒美なのだろう。

「好きな女の子の裸体を見たいと思うのは思春期の男児として当z……あっ……」

ヤベェ、なんかとてつもないこと言っちまった。

「………えっと…リアクションに困るんだけど…今の告白でいいの?」

恥ずかしさが体全体を震えさせる。

あのエルフ顔とか完璧美人とかで有名な中山様が悪そうにニヤける。

「へー、そーなのかー。ふーん、本当に?」

潤は開き直ることにした。

「愛してる」

「例え私がドSでも?」

「忠実な犬にでもなろうか?」

「例え私が変態な趣味を持っていたとしても?」

「はッ!限度はあるがその程度で好きの気持ちが歪む奴、自分は何処ぞのパーフェクトお嬢様と結婚出来ると勘違いしているやつか本当に結婚できるポテンシャルがある奴だけだ!そして前者は恋愛なんぞしない方がいい、要約するとフラれるかよっぽどの事がない限り僕の好きは歪まない!」

「すごい覚悟だなぁ〜、まぁ断るのが私だけど」

「断んの⁉︎あそこまで言わせといて?何で⁉︎」

「タイプじゃないから」

「ちなみに貴女の好きなタイプは?」

「働いてる姿がかっこいい人、要するに学生である時点でほぼアウトだね」

「oh…」

「まぁ、男女付き合いなんぞ社会人になって自分の給料でやった方がお小遣いの圧迫感少ないし。三十代までは焦るような事じゃないし」

それにさ、と付け加える

真剣な表情になる。

「沙耶野君たまに女の子に見えるんだ。男の娘っていう風に見えるんじゃなくて…何というか、その…私の中にあるあなたのプロフィールが女って書き換えられてる感じ…?まぁ要するにそういう目で見れない。友達でいた方がいいのかもね。その言葉は『男前』になったらまた言って欲しいかな」

「そうか…わかった。結論が出たよ。ありがとう」

「??まぁ、とりあえず今日の事は誰にも言わないでね」

「分かってる。じゃあまた明日」

「うん、さよなら〜」

その声を最後に、沙耶野潤は部屋を出る。


15


沙耶野潤は歩きながら電話をかける。

相手は決まっている。

数コールでその相手は出た。

『ハロー、イチャイチャしてたなクソ野郎』

「フラれたけどね。見てたのか?」

『まぁな、んで、何の用だ?』

「仕事、正式に受ける事にした」

『…何で?人助け趣味にでも目覚めたか?』

「何故そんな事をしなければならない?お前昼間に言ってたろ。お前は絶対にもてないって。真実な気がしてきたんだ。だから反則技オマエに頼ることにした」

『まぁ真実だよ。お前にはその「モテない素質」がある』

「その素質を消すにはあいつらを五千体殺せばいいんだな」

『まぁ最低でも三桁は殺さないと駄目だね。ここからは精神論になるけど一方的な殺しじゃ無くて殺し合いをする覚悟、相手の全てを否定して自分の望みを叶える覚悟が何より重要だ。現代人のお前にその覚悟があるのか?』

「上等だ、たとえ醜悪な望みと笑われようが敵は全て殺して三次元の嫁を得る。人命はある程度しか考えない、それが俺の方針だ。異論がある奴はどんな手を使ってでも地獄に落としてやる」

『気に入ったよ。実は今私が作った武器の中でナンバー2の武器が空いている。お前には残り二十五万とそれを渡すよ。生き残ってあの子のハートを撃ち抜いてこい‼︎』

「お前に言われるまでもない」

そう言って電話を切った。


覚悟を決める。


剣を持って未来の嫁のハートを、彼女がいる事で得られる性的快楽を、優越感を、全能感を、全てを手に入れる為に、


自ら修羅の道に突き進む。















書くのに結構かかりました。

感想は具体的にお願いします。

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