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雪とワルツ  作者:
おまけ
16/17

あのねのね

 せんせい、あのね。

 ていうとってもなつかしいフレーズが思い浮かんだけど、日記は書けそうにないので、とりあえず今日の出来事を振り返ることだけしようと思います。


 今日もたくさん雪が降ったので、旦那様が「今日は俺も雪かきするぞ!」と宣言して、執事さんがなにかを言うより早くお外へ走っていってしまいました。

 執事さんはため息をひとつこぼすと、わたしに向かって「しょうがないですねえ」と笑いました。

 たぶん、旦那様のお仕事も雪のせいで新しいのが来ないんだと思います。昨日、手紙が来ないって言っていたから、結構いい読みのはずです。

 それに、呆れたように言っているけど、こういうときの執事さんはとっても優しいお顔だから、わたしもうれしくなっちゃうのでした。


 執事さんがおいでと呼ぶのについていくと、バルコニーへ出してくれました。

 ここから、真っ白なお庭と、雪かきをしているみんなが見えました。

 旦那様はもうそこに混ざっていて、大きな声でおしゃべりしながら、ざっくざっくスコップで雪をどかしています。


 「よぉし、競争だ!」という旦那様の声にわっと周りがわきました。

 わー! 競争なんて楽しそう! 旦那様がんばれー!

 わたしのテンションもただ上がりです。その声が聞こえたのか、いのししみたいにグアアア! て勢いで進んでいた旦那様は、こちらを振り返ってとってもいい笑顔で「おーいシア! 落ちるなよ~!」て手を振ってくれました。


 その間に、従僕さんたちが追い越して、旦那様がビリになっちゃったんだけど。

 なんだか悪いことしちゃったなあと、唖然としているわたしに執事さんが「あれは自業自得というのですよ」と丁寧に教えてくれました。


おわり









 せんせい、あのね。

 今日はお邸の探検をしました。普段は開いていない部屋のドアに、ちょっと隙間があったんです。

 そんなのを目にしたら、もちろん入るよね。入れってことですよね。

 てことで、お邪魔しました。

 手をうまく引っかけて隙間を広くして、さっと身を滑らせるんです。さっと。素早さ大事。


 そこは書斎みたいで、壁を覆うように本棚があって、びっしりと本が並んでいました。ちょっと埃っぽい。旦那様よりは、執事さんが似合いそうなお部屋ですね。

 わたしは誰もいないことをちゃんと確認してから、本棚の一段目に飛び乗ってみました。

 本がおさまっているから、ちょこっとしか木の板がないけれど、わたしはちいさいからなんとかなった。たまにはちいさいことも役立ちますね。


 そこからよじよじと、バランスを取りながらゆっくり上の段に手をかけて、梯子をのぼるみたいに……うーん、梯子のほうが簡単そうな気もするけど、とにかく、場所を選んで上へ上へといってみました。

 本棚の一番上に到達したときの達成感といったら!

 わー! 高い~! 気持いい~!! 大興奮です。猫っていいですね。


 窓からはお邸の玄関が見えました。いつもと違う風景にわくわくです。キツツキのねえさんの音が聞こえるなあと思っていたら、あっという間に寝てしまったのでした。

 気づかないうちに寝ちゃうのは、猫だからなんでしょうか。部屋の中が薄暗くなっていたから、たぶん二時間くらいは経ってたんじゃないかなあと思います。時間が経つのはとっても早いですよね。


 背中を伸ばしてあくびしてから、寝癖がついていないかチェックしながら毛づくろい。

 そうしたら、バンッて扉が開いて、怖い顔をした執事さんが来たのでびっくりしました。

 えっえっ、もしかしてわたし怒られる??

 目を真ん丸にして執事さんを見下ろしていたら、執事さんも目を真ん丸にしたからびっくりしました。


 そんな顔をするなんてめずらしいなあって思ったの。きょとんとしたわたしに、執事さんは困ったように笑って「こんなところにいたんですか」と言ったので、たぶん、探してくれていたのでしょう。

 おいでって伸ばしてくれた手におとなしくおりると、大好きな心地よい腕のなかでたっぷりなでてくれたので、そのまま寝てしまったのでした。


 ところで、わたしにとってここで先生と呼ぶような人がいないから、執事さんあのね、とかにした方がいいんでしょうか。旦那様あのね、は言いづらいし……


おわり









 執事さんあのね。

 昨日の晩は旦那様のベッドで一緒に寝ました。すごーくぬくぬくであったかかったです。執事さんと寝るのもあったかいけど、旦那様のほうがあったかい気がします。体が大きいからでしょうか。

 太い腕と、体の隙間にもぞもぞポジショニングすると、くすぐってえ。と旦那様が笑うのがなんだかうれしいです。自然と咽喉も鳴っちゃいますよねえ。


 旦那様はいびきをごうごうかきそうなのに、思いのほかすやすや静かに眠ります。これにはわたしもびっくりでした。

 寝相が悪いこともないです、たぶん。……わたしもぐっすり寝ちゃうから、その間のことはよくわからないんだもの。

 ふって気づくと、旦那様の手がわたしを撫でてくれたりして、またすぐ寝ちゃうのを繰り返しちゃったし。旦那様はちゃんと眠れたのかなあ。

 でも、すごーくあったかくて気持ちよかったから、寒い間は誰かのところで寝る癖がついちゃいそうなのでした。


おわり



つけたし

 今日も旦那様のところにいたんだけど、明け方目が覚めたので執事さんのところにも行ってきました。

 執事さんもとっても静かに寝てましたよ。お布団をぎゅってしてたから、わたしも隙間を探して一緒にぎゅってしてもらいました。

 わたしが潜り込んだのに気づいたっぽかった執事さんが、腕を緩めてくれたのでポカポカなお布団が気持ちよかったです。


おわりのおわり









 執事さんあのね。

 憎たらしい黒猫にいろいろ言われて、なにも言い返せなかった自分がふがいないです。たしかに、正論なんですよね、あの猫の言うことは。なんだかもにょもにょするけど。

 そして言われていたのに、うっかりカラスに襲われるだなんて、本当に馬鹿だ。怖かったけど、なにより落ち込みます。


 ヤっさんに会うのも気まずいけど、このまますっきりしないのはもっと嫌だったから、意を決して、日暮れの時間に居間の窓に張り付いてみました。

 もうヤっさんがきてくれなかったらどうしようかと思っていたけど、いつもの時間に、ヤっさんは門のところに来てくれたんです!


 ヤっさん! ヤっさん! さっきはごめんなさい! って謝ったら、相変わらずの目つきの悪さと素っ気なさで、いい勉強になっただろって言われました。

 あと、黒猫が言っていることは正しいから、もうちょっと気をつけろって言われました。おまえは親がいないから、ほかの猫からいろいろ教われだって。……わかったよう、そうします。


 執事さんや旦那様たちだと、猫の視点とちがうものね。そりゃあ、そうだよなあ。今回のことで、ちょこっと反省したのでした。

 人間のつもりになっちゃうときがあるけど、今のわたしは猫だしね。猫には猫のルールがあるし、実際の動物生活は人間目線で思っていたのとは違うことだってあるしね。

 今日も勉強になりました。


 ところで、執事さんが夕ご飯に出してくれたお魚、とってもおいしかったです! あれ、毎日毎食でも飽きないんじゃないかと思うので、ぜひ検討お願いします、ぜひ!

 おいしいおいしいってアピールはしたから、そのへんの要望が通じてたらいいな~。執事さんの鋭さに期待です。


おわり









 執事さんあのね。

 最近黒猫が勝手に入ってきてるんだけど、なんでか従僕さんもメイドさんも追い払わないんですよ! おかげで猫パンチが上達しそうです。

 威嚇してパンチを繰り出すのに、ペイッて黒猫は簡単にわたしを転ばすから腹立たしいなあ。そこからは抵抗してるのにもぐもぐ噛まれたり、顔を舐められたりします。


 今日は階段の下でメイドさんの運ぶシーツの先を追いかけてて、いつの間にか玄関で寝てました。

 そしたらふって黒猫のにおいがしたから目が覚めたんだけど、すんすんにおいを嗅がれて、ぺろんぺろん舐められて、最後は首を咥えられたんですよ。

 階段を軽快に上っていった黒猫は、一番上まで行って手すりと壁の隙間にわたしを下ろすと「いい子で飯食って寝てろ」なんて捨て台詞を残して行っちゃうし。

 まったく何がしたいんだかわからないなあ。それを見ていたメイドさんなんて「あらあら仲良しねえ」って笑ってたし。ぜんぜん仲良しじゃないと思うのにおかしいなあ。


 そもそも、旦那様はよその猫が簡単に出入りして嫌じゃないんでしょうか。

 うーん、旦那様だもんなあ……まあいいかって言いそうですよね。

 執事さんも黒猫の観察が好きみたいだから、わたしはしばらくパンチとカミカミの威力が上がるように練習しながら、みんなの様子を見ようと思います。


おわり


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