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雪とワルツ  作者:
本編
1/17

プロローグ

 雪がほとほとと降る、静かな夜。

 お月様がとっても大きくて、積もっていく真っ白な雪をきらきら照らした。

 わたしはとにかく寒くて、お腹がすいて、目も見えなくて。見えないのになんでかお月様が大きいのも、雪がきれいなのもわかっていた。今思うと不思議だ。それはともかく、邸の外に積まれた薪の隙間にうずくまって、必死に鳴いていたちいさなわたし。

 お腹がすいたよう。寒いよう。このままだと死ぬんじゃ、なんてことに思い至るより、お腹がすいていることばかりが頭を占める。声もうまくでなかった。でも叫ぶことしかできなくて、ずっとずっとそうしていた。

 すると、冷たい空気になにかが混ざる。あたたかな、におい。なんだろう。ああでも、お腹が、すいた!


「どこだ? このへんだと思うが」

「……旦那様、声を落としてください。聞こえなくなります」


 ざくざく。雪を踏む音。あたたかい、かおり。

 ここ、ここ! ここに、いるの。見えないし、体が思うように動かなくて、わたしはただただ声を張り上げる。震えるそれは思ったよりも弱くて、ざくざく雪を固める音にまぎれてしまいそうだ。


「このあたりに……ああ、そこですね」

「いたか!」


 ぱっと花が咲いたような明るい声に、冷静に返した人がもうわたしのすぐそばにいた。


「お待ちください、今――」


 ぐっとにおいが強くなって、なにかがわたしの体を包む。大きななにかが覆いかぶさってきて、突然のことにわたしは驚いて今までとは違う叫びをあげた。なになに?! なにするの!


「おおー、ちっちぇえなあ!」


 見えないし、動けない! えーんえーん!


「まだ生まれたばかりでしょう。弱っているのですぐにあたためてやらなければ」

「早く! 走るぞ。死んじまう」

「……そこまで早くは死にません」


 呆れた声はそれでもわたしの体をしっかり包んで、コートの内側に引き込む。足早にふたつの影が、あたたかな暖炉の前へと急いだ。




 ミルクのにおい! 濃厚で、まったりした、知っているにおいは、記憶にあるものよりずっと強い。

 ほしいほしいと手を動かすのに、包まれてしまってままならない。窮屈だと文句を言うが、においが鼻先までくるとそれどころではなくなった。

 いつの間にかわたしの体はあたたかく、やわらかなもので包まれていた。鼻先に濃いミルクのにおいがして、わたしは無我夢中でそれにかぶりつく。ほんのりとあたたかなミルクを、味もわからないくらいの勢いで必死に飲み下した。

 ただただ飲んで、お腹がいっぱいになったと意識する間もなく瞼が落ちる。

 それからのことはよく覚えていない。


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