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第九話 六日目

 

「おじちゃん、今日はスゴイことがあったんだよ!」

「何なに? 今日のご飯は豪華肉料理フルコースか?」

「夢見てんじゃねぇよ! 肉の代わりにパンツの中に入っている棒と玉をナイフで切り分けられたい?」

 怖っ!

 今、少女が言ってはいけない言葉が飛び出た。

「スミマセンでした……どうか切り分けないで。それで、スゴイことって何だ?」

「今ね、お城に勇者さま達が来ているの!」

「――勇者さま?」

「そうだよ。勇者さまだよ! スゴイなー、もしかして呪文とかつかえるのかな?」

 俺は思わず爆笑してしまった。

 ミルはそんな俺に問いかける。 

「何がおかしいの?」

 夢見がちな少女の問いかけが、また笑いを誘う。

「だって、勇者さまだってよ。ミルこそ夢見ているんじゃないのか? 今時勇者って――もしかして、伝説の剣とか探す旅とかしてるのか?」

 腹を抱えながら更に続ける。

「そんでもってよ、魔王と勝手に名付けた大きいトカゲに向かって『俺の最強呪文を受けてみよ! メ●ミ!』とか言っちゃたりなんかするのか! せめてメ●ゾーマくらい覚えろよ! 呪文とかあるわけないだろう」


 言い終わった瞬間、冷気が俺の周りを包み込む。

 身体が震える。寒気が止まらない。

 俺の近くで黒い影がうごめいている。

 恐る恐る顔を上げると、ドSモード全開へと変貌した女王様が俺を見下していた。

 今から飽きた玩具を壊そうとする……そんな目だ。

 俺のバカ!  

 人生のリセットボタンを自らの手で押してどうすんのよ!

 しかし――どんなに後悔しても、すでに手遅れだった。

「私も――呪文使えるよ」

 ミルが穏やかに、笑顔で優しく言う。

 笑顔が……怖い……

「あの……回復呪文だと……おじちゃんとても嬉しいな」

 お願い! この話題、これで終わって。

「ううん、おじちゃんを十字架に縛り付けてはりつけの刑にしてあげるから、その時に火の呪文を使ってあげるね」

「え? 磔決定?」

 ミルの口から出た一言で、話題ではなく俺の人生が終わった。

 しかし、ミルの恐怖宣告は終わらない。

「でも安心して。死なない程度にお面とパンツ、どちらかしか燃やさないから」

 何その究極の二択!

 それ以前に、どちらでも死ぬ。

 例え生きてても、俺にとってマスクは命。

 マスクを燃やされ素顔を晒しては生きていけない。

 残りはビキニか……

 公衆の面前で「磔にされたまま丸出し」って、少女がそんなプレイをしていいの?

 プロの女王様だって、そんな放置プレイはしません!

 本当に子供ですか?


「呪文は――『メ●ガイアー』――でね」


 まもなくー全身黒焦げー。巨大な火柱で全身くまなく黒焦げに焼き尽くされまーす。

 ……死亡確定じゃねぇか!

「一番牢屋のお客様に最上位呪文のご注文が入りましたー。ありがとうございます!」 

 恐怖のあまり、訳のわからん客引きの幻聴まで聞こえてしまう。

 何が「死なない程度」だ。死ぬって!

 それどころか、俺のHP(命のバロメーター)じゃ即死じゃ!

 貧弱ナメんなよ!

 もう……せめて「火あぶり」と言って下さい。

 その方がまだ心に優しいわ。


 こうなっては仕方が無い。

 最終手段だ!

「そんなの、そんなのいやだー!」

 俺は牢屋の中で精一杯駄々をこねた(不思議な踊りではありません)

 ビキニを履いたマスクマン(成人)が少女を目の前に半ベソかきながら命乞いをし、転げまわる様は四次元の世界でもお目にかかれないだろう。

 この光景を目の当たりにすれば、そこいらの少女なら恐怖し逃げるか泣き出すところだ。

 だが、この国の次期女王は器が違う。

「駄々のこね方が甘いんじゃないの?」

 グハッ! 流石はドS。

 やはり鞭使いの女王様が少女の着ぐるみを着ているに違いない。

 最終手段も呆気なくスルーされ、あとはひたすら謝るしかなかった。

「すみませんでした」

「ダメ」

「ごめんなさい」 

「ダメ」

「命だけは……」

「ダメ」

 聞いてくれない。

 目が本気だ。

 死ぬ……このままでは死んじゃう。


「ホラホラ、俺達友達だよね? ここはお茶目な冗談として水に流して欲しいな」

 そうお願いすると、ミルは冷めきった目で俺を見る。

「あー、いるいる。困った時にだけ友達を強調する人。まさかおじちゃんもそんな人達と同じじゃないよね?」

 少女のくせに痛い所を。

「磔にされるの、いつがいい?」

 苦し紛れに言った台詞が火に油をそそいでしまい、止めを刺されてしまった。

 もう泣きながら、ひたすら土下座をしている俺。

「どうしたら許してくれるの?」

 そう聞くと、ミルは近付いてくると手を伸ばして、牢屋越しに俺のビキニを掴んだ。

「それじゃ友情の証として、お面かパンツのどちらか脱いで!」

 この子ったら、なんてこというのかしら!

 だから、その二択は無理ですってば。

 それに掴んでいるのはビキニ。

 これを少女の目の前で脱げと?

 それはもう完璧に犯罪だ。いや、でも脱がされそうな訳だし不可抗力……うーん、両成敗?

 いやいや、そんな訳がない。

 それに相手は一国の王女。

 王女の御前で丸出しにしたら間違いなく歴史的事件となり、将来『使えない無駄な雑学・知識』に俺の名が刻まれてしまう。

 どうしよう……いや、どうにかして諦めてもらう他は無い。

「それだけはご勘弁を……他のことなら何でも……」

「嫌ならいいよ。別に私はいいのよ。私はね」

 もはや選択の余地はないようです。

「さて、そろそろ磔の用意をしないと……」

 もうダメだ。


 こうなったら最終手段その二!

「あの……」

「何?」

「どちらか一つの半分ではどうでしょう?」

「半分? どういうこと?」

「ビキニを半分だけ脱ぐということで」

 少女となんて交渉をしているんだ俺は。

 だが、今の俺にはもう打つ手がない。

「うーん、どうしようかなー」

 おぉ! 悩みだしたぞ。

 ここでもう一押しだ。  

「一発芸もつけますから!」

 この押しにミルがようやく応じてくれた。

「まぁいいわ。やってごらんなさい」

「ありがとうございます!」


 約束通りにビキニを少しズリ下げ、半ケツになりながら膝で食事用お盆を挟む。

 そして「ヒャオッ! オーイェイ!」と奇声を連呼しながら腰を振りまくった。


 これで俺も立派な犯罪者だよ……

 でもね、命には代えられないのよ!


 渾身の一発芸に、ミルの反応はどうだ?

 横目でみると――

「フーン」

 とか言っちゃってるよ!

 完全に呆れてる!

「何やってんだコイツは?」

 そう言わんばかりの目つきで、既に肘を突いて寝そべっているではないか。

 ――終わっちゃった……さよなら、俺の人生。

 皆さん、今まで同じ空気を吸っていてスミマセンでした。

 諦めていたその時――

「キャンキャン!」

 ノアが尻尾を振って喜んでいるじゃないか。

 心の……友よー! 

「まぁ、ノアが喜んでいるから許してあげる」

「ありがとう。ありがとう!」

「全く……もっと、芸を磨きなさいよ」

「スミマセン……」


 汚れちゃった……

 責任取ってよね! 

 



 

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