表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

第四話 二日目

 

「パンツのおじちゃん、ご飯だよ」

 そう言って、昨日に続き地下牢まで食事を持ってきてくれるお姫さん。

 待ってました!

 ――と言いたいところだったが、俺は思わず絶句した。

 お姫さんのお腹が膨れている。

 まさか……十歳なのに妊し……

 いやいやいやいや、そんなことあるわけがない。落ち着け俺の脳細胞。

 よく見ると、服の中で何かが動いている。

 何かを隠して持ってきたようだ。

「お姫さん、服の中に何を入れてきた?」

「おじちゃん、このことは内緒だよ」

 そう言うと同時に服をめくる。

「パンツのおじちゃんにごあいさつできるかな?」

 服の中から出てきたのは、銀色の長い体毛に覆われた子犬のような動物だった。

「キャン」

「いい子でしょ。私のお友達で『ノア』っていうの」

 お姫さんの笑顔とは裏腹に、俺は凍りついていた。

 何故なら、この動物には見覚えがあったからだ。

「お前、コイツはノアーズウルフの子供じゃないか!」

「そうそう、アードベックと一緒に見つけた時にそんな名前言っていたの。だからノアって名前にしたんだよ」


 一緒に……だと? 


 床に拳を叩きつけた。

「どうしたの? おじちゃん……なんだか怖い」

「いいか、お姫さん。ノアーズウルフってのはな、子供のときは大人しいかもしれないが、大人になるとお姫さんの何倍にも大きく育つんだ。そうなると人を襲いだし、下手をすれば喰い殺してしまうことだってある『危険な生き物』なんだぞ!」

 お姫さんはキョトンとした目で俺を見ている。

「嘘……」

「嘘じゃない!」 

 思わず怒鳴ってしまう。

 俺は完全に頭にきて、その怒りをブチ撒けた。 

「それよりお姫さんよ、君の教育係って奴はどうかしている!」

「……え?」

「この生き物がどんなに危険かは大人なら誰だって知っている。それでもなお、こんな『危険な生き物』をお姫さんの傍にいさせるなんて『普通じゃない』――ハッキリ言って教育係失格だ! そいつはお姫さんの事を何も考えていない……いや、どうなってもいいとでも思っているんじゃないのか!」

 すると――

「アードベックのこと、悪く言わないで!」 

 俺に言葉に、お姫さんが目を……いや、顔を真っ赤にして反論してきた。

 瞳に涙を溜めながら、頬を膨らませて震えている。

「スマン、言い過ぎた。だがな、悪いことは言わないからノアーズウルフは手放しな」

「ヤダ! 絶対ヤダ!」

「わがままを言うんじゃない。お姫さんよ、君は王女だろ?」

「王女だから何? お友達を作っちゃいけないの?」

「そうは言っていない。只、王女として大勢の『人』に囲まれて過ごしている君が『人』ではないそいつと一緒にいるのはおかしいだろ」

「お城の人達なんて、私のことを『姫』や『王女』って呼ぶだけでお友達じゃない!」

 お姫さんが今までで一番大きな声で叫んだ。 

「おじちゃんの言うとおり、ノアは『人』じゃないよ。でも父様や母様はいつもいない……そんなとき時、ずっと私の傍にいてくれるたった一人の大事なお友達なんだもん」

「教育係がいるだろう?」 

「アードベックはいつも私の傍にいてくれる……とてもいい人だよ。でも……お友達じゃない」 


 友達……か 


「ノアのお父さんやお母さんは危ないかもしれないけど、ノアは違うもん! 絶対……ぜーったい人なんて食べないもん!」 

「…………」

「ノアと、ズット一緒にいたいの……『手放せ』なんて言わないで……」

「……………………」

 俺は黙ってお姫さんの言葉を聞いていた。 

「もう……独りぼっちはイヤだよ……」

 そう言うと、お姫さんは泣き出してしまった。

 その姿をノアーズウルフの子供は心配そうに見ている。

 コイツもお姫さんを友達と思っているのだろうか。

 それにしても、また泣かせてしまったな。

 いや、今回は違う。

 少女が俺に本音を教えてくれたのだ。

 すぐ傍で泣いている少女が。


「そうか……お姫さんよ、一つだけいいかい?」

「……何?」

 瞳に涙を溜めながら顔を上げる少女に問いかけた。

「今の言葉、大人になってお姫さんから女王になっても……いや一生忘れないと俺に約束できるかい?」

「できる!」

「それじゃ、俺と指きりしようか」

「うん!」

 鉄格子をはさんで、俺はお姫さんと指きりをした。


 それにしても――

 いくら驚いていたからといって、この俺が『普通じゃない』とか言ってしまうとは……これだけは言ってはいけない台詞だったな。

 それに、『危険な生き物』だってよ。いくらここに来るときに追い回されていたからって。

 アイツに聞かれたら、怒られてしまうな……


「おじちゃん、何か言った?」

「いや、何も……それより、ノアを触らせてくれないか?」

「うん。いいよ」

 ノアの頭をなでる。

「ノア、ゴメンな。おじちゃん、お前さんにひどい事を言ってしまった。許してくれ」

「キャン」

「ノアが許してあげるだって」

 お姫さんが笑う。

「そうか、ありがとな」


 雰囲気が和やかになった時、突然お姫さんが両手をバタつかせ、深呼吸をし始める。

「どうした、急に?」

「あのね――私、指きりしたの初めてなの。少しだけドキドキしちゃった」

 なかなか可愛いことを言う。

「約束は守らなくちゃ! ねぇ、おじちゃんは約束破ったことってある?」

 約束……か。

「あるよ。昔、一度だけね」

「あー、いけないんだ」

「そうだな。でも、もう絶対に破らない。絶対に……」

「本当?」

「本当だとも! もし破ったら、その時はこのビキニを差し出そう」

「……そんなものいらない!」



 傷付くわ……






 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ