第二話 初日 取り調べにて
俺は今、初めて足を踏み入れた城の地下にいる。
目の前に「取調室」と書かれた部屋があり、扉の前で相変わらず警備兵に両脇を抱えられた状態で立たされていた。
勿論、手錠はそのままだ。
俺の横には何かの犯罪をやらかしたと思われる容疑者の方々が並んでいるのだが、皆が俺のことを見るなり顔を背け、それ以上俺と視線を合わせようとしない。
なんでこんなことに……なぜ俺が容疑者連中と一緒にいなければならないのだ。
そんな時だった――
「オラオラ! どけよテメェら!」
警備兵に連れられて、いかにも凶悪そうな男が連行されてきた。
「おい。アイツは指名手配中の連続強盗犯の……」
「あぁ、間違いない」
他の容疑者の会話を聞いて納得だ。
もう、見た目がいかにも凶悪犯だよ。
警備兵に腕を掴まれながらも抵抗を止めない。
目が合った他の容疑者に蹴りを入れる始末。
あんな風にだけはなりたくないな。うわ、もうすぐ俺の所に来ちゃうよ……
その凶悪犯が俺の傍に近付いた途端、膝から崩れ落ちた。
「負けたぜ……」
何を言い出の?
「警備兵さん。俺、まだ甘かったです」
「そうだぞ。君ならまだやり直しがきく。こんな風になるんじゃないぞ」
「はい……罪を償って、まじめに暮らします」
いやいや、負けていませんから。
突然、短編ドラマやってんじゃないよ!
それ以前に、俺は無実だ。
……まぁ、取調べが始まれば誤解は解けて和やかな雰囲気に包まれながら、ささやかでも食べ物を頂けるに違いない。
それまでの辛抱だ。
――大人しく待っていると、警備兵の制服を着た女性が歩いてきた。
「これから番号札を配ります。順番が来ましたら呼びますので、取調室に入るように」
そう言い、並んでいる者達に札を配り始める。
その女性が俺の前まで来る。
すると――
何故か女性は立ちつくしたまま硬直し、手に持っていた札を落としてしまう。
「どうかしましたか?」
俺が声をかけた途端、突然女性は絶叫し、その場から走り去ってしまった。
何故逃げる?
しかし、俺を抱えていた警備兵が落ちていた札を拾う。
そして――
「女性がこんな凶悪犯を見れば逃げ出すのは当然だな」
とか言い出しちゃったよ。
遂に凶悪犯扱い?
だから無実だってば!
その後、放送で番号順に容疑者が呼ばれ、次々に取調室に入っていく。
そろそろ俺の順番だ。
数十分後――
「番号札五番の、プッ……ギリギリ人間。直ちに取調室に入りなさい」
――と、放送された。
ギリギリかよ!
何? その素敵な呼び名!
しかも笑うの堪えながら言いやがったな、あの女。
つーか、こんな放送を許しちゃっていいの?
「ホラ、グズグズするな……ククッ」
お前らも笑ってんじゃねぇよ!
だが、訴える間もなく俺は取調室に連れて行かれた。
部屋に入ると、いかにも偉そうな取調官が座っていた。
そいつの前に机が一つ、その上に筆と紙が置いてある。
そして俺が机の前に立たされると同時に取調べが開始された。
取調官の第一声。
「名前は? あぁ、ギリギリ……」
言い終える前に突っ込む。
「待て! 俺の名前はそんなのではない!」
「では、本名は?」
「ビキニマンです」
「……本名は?」
「だから、ビキニ――」
「もういい!」
今度は逆に突っ込まれた。
取調官が深いため息をつく。
数秒の静寂の後、取調べが再開された。
「それでは、この領地に足を踏み入れた理由は?」
「迷子です」
「こんな変態丸出しな『子』はいねぇ! 迷い変態だな」
「ちょっと、変態はヒドくない?」
「次、所持品は?」
「無視ですか?」
「それで、所持品は!」
「このマスクとビキニです」
「覆面とパンツね」
「違います! マスクとビキニ!」
「パンツだろうがビキニだろうが、そんなのどっちだっていいんだよ!」
この発言は見逃せない。
早急に撤回を要求した。
「そんな、これは俺のトレードマークなんだ! 言い直してください!」
「もっとまともなトレードマークはなかったのかよ!」
要求は認められない上に、また怒られた。
この国の警備兵達はよく怒る。
さっきから怒られてばかりだ。
そして、取調べはなおも続く。
「身体検査……は必要ないか。中に不審な物は入っていないだろうね?」
「ぬっ、脱げと? このスケベ!」
「そんなわけねぇだろうが! 本当に処刑するぞ?」
確かに目が本気だ。
「ホラ、薬物とかだよ」
そんな風に俺を見ていたのか……
今こそ身の潔白を証明する時。
「フッ、夢と希望なら詰まってますぜ! やはりこのビキニを脱いで確かてもらおうか」
「すでにほぼ丸出しじゃねぇか! もういい、有罪だ! コイツを牢屋にブチ込んどけ!」
この取調べの結果に対する不服申し立ては却下され、俺は投獄された。