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第十一話 七日目②

 

 摩周――今はどこを旅している?

 嫁さんは見つかったか?

 俺の探していた人物は見つかりそうだぞ。

 旅の目的が――


 俺が最初に迷った森付近まで行くと、そこで話し声が聞こえた。

「ねぇ、なにもこんな夜中に城を出なくても、もう一泊させてもらえばよかったじゃない」

「バカだなぁ。一日も早い世界平和のため、こんな夜中にでも出発すると思わせるんだよ。金持ち国家に好印象を与えておくと、次また来た時に色々と都合がいいからな」

「なるほど! 頭いい!」 


 ――――見つけた。


 俺は勇者達の前に立ち塞がる。

 勇者達も俺に気付いた。

「ん? お前は地下牢にいた変態野郎。どうしてここにいる? まさか、脱走したのか?」

「そんなことより、是非とも武勇伝を聞かせてはくれないか? どれだけの相手を殺してきたかを」 

 俺の質問に戦士が得意気に話す。

「俺達の武勇伝を聞くために来たのか。まぁ、俺達のような有名人の話を聞きたくなるのも無理はない。なぁ勇者よ」

「フッ、殺してきたヤツらなど数えきれんな。この俺様は数多くの、そして様々な怪物や化け物と戦ってきたのだからな」

「そうそう。その中でも一番の武勇伝と言えば、あの悪魔ね」

 僧侶が誇らしげに言う。

「だな。まさか、この世界に本物の悪魔がいようとは驚きだったぜ」 

「……強かった……か?」 

「俺様の敵ではなかったな。まぁ、この俺様に恐れをなして逃げ回ってばかりだったが――結局最後は正義の鉄槌を喰らわせてやったがな!」

「悪魔――どんな?」

「まぁ、見た事がないのは当然だ。特別に教えてやろう。黒き翼

 を持った異形の『女悪魔』だ!」

「そうそう。傑作だったのがその女悪魔、生意気にも指輪なんかしちゃってさ。かなりの値打ち物だから戦利品としてもらっちゃった」

 そう言って手にはめた指輪を見せる。

「だな。そして、この指輪こそが伝説の悪魔を俺達が討ち滅ぼした証拠になる」

 確信した。 

 心臓の鼓動がやたらとうるさい。

 無理もないか。

 間違いなく――本物に。 

「それに、さっきのノアーズウルフも楽な仕事だったな。王女にまとわりついていた化け物を殺したお陰で王は俺に感謝し、褒美として金品だけでなく、バランタイン王国公認の『英雄』という称号まで頂いた。全く、あんな所にノアーズウルフの子供がいたなんてツイていたぜ」 

「……ようやく見つけた。ククク……」 

 旅の目的をようやく見つけた興奮か、はたまた喜びなのか、笑いが止まらない。

 もう、どれくらい歩いただろう。

 ただ、ひたすらに探し歩いてきた。

 そして、ようやく会えたのだから。

 全ては…。

 全ては……この瞬間のために!

「何を笑っているんだお前は。他にもう用がなければさっさとここから立ち去れ! 俺様は忙しいんだ。お前のような変人にこれ以上構っている時間はない」

「用……か。そうだな――」


「誓いを果たすため――『俺は……過去への自分に、ケリをつけに来た』」


「はぁ? 何だコイツ、見た目だけじゃなくて頭もおかしいときてる」 

「それにな、お前らが殺したノアーズウルフは化け物なんかではない。王女の……ミルと俺の大切な友達だったんだ!」

 勇者が笑う。

「そうか、化け物同士仇討ちということか。これはいい! 脱走した罪人のお前をここで殺せば、更なる名誉が俺様の下へ転がり込んでくるわけだ」

 しかし――僧侶が勇者を止める。

「違うわよ。私達に先を越されたから言いがかりをつけているのよ。それより、さっきから気になっていたんだけど……アイツの仮面、どっかで見たことない?」

「仮面……?」

「思い出した! 宝具リストだよ!」

 戦士が叫ぶ。

「宝具リスト――世界に存在するかどうかもわからないS級クラスの宝が載ってあるリストにあの仮面が?」

「そうだよ! 特にあの仮面は古代神話に出てきた『罪を犯した神を罰として人間以下の存在にいてしまう拘束具』として、そのリストでも入手難易度はトップクラス。今では『幻の宝具』とされ、頭に超が三つは付くプレミア品のはずだ」

「ほう。『人間以下』とはお似合いだな。お前がそれをどこで手に入れたかは知らないが、それだけのプレミア品となれば、かなりの高額で取引されるはずだ。それに犯罪者の生首付きとなれば、価

 値は更に跳ね上がるだろう」                 

 鞘から剣を引き抜く勇者。

「やはりお前は殺しておこう。残念だったな。俺様と同じ勇者になれなくて」

「勇者? この俺が?」

「お前も名誉が欲しかったのだろう。だが、安心しろ。俺様はもう勇者ではない。『英雄』だ。そしてお前は英雄の為に死ねるのだ。充分過ぎる名誉だぞ」


 名誉か―― 


 真の英雄は死んだ後にその名を歴史に刻む。

 お前を本物の英雄にしてやるよ。

 偽りだらけの名誉を抱えたままな!


 マスクを下半分めくり、口を晒す。 


「偽りだと? 俺様が殺してきたのは、害のある生き物どもだ」

「神にでもなったつもりか? お前らに善悪を決める権利などない」

 それにな、一つだけ教えておいてやる。自ら己を『正義』と名乗る奴ほどくだらないものはないんだよ!」

「それが遺言か! 死ね!」

 勇者が剣を振りかざし、俺に襲ってきた。

 次の瞬間――

 勇者の首から上が消え去った。

 声を上げる間もなく、死亡が確認される。

 その首は、俺の口の中へ飲み込まれたのだから。

 その光景――いや、変わり果てた勇者の姿に、僧侶が悲鳴を上げた。

「ばっ、化け物だ! 人を喰うなんて」

 戦士も勇者の死に動揺する。

「バカな! そいつは勇者なんだぞ……伝説の悪魔をも討ち取った英雄なんだぞ!」 

「悪魔……それは違うな。アイツは悪魔なんかじゃない」

「何だと?」

「アイツは……俺の生涯で唯一、そして最も愛した女性だ!」

「お前、いったい何者だ」


「俺の名はビキニマン――只の変態だよ」


 錯乱しかけていた僧侶が、勇者の遺体に異変があることに気付いた。

「ちょっと待って……おかしいよ……」

「どうした?」

 戦士が聞き返す。

「見て……勇者から血が流れていない」

「本当だ……お前、どんなトリックを使った!」

「あぁ、喰ったのはそいつの『身体』ではない。『存在』そのものだ」

「存在? 訳がわかんねぇよ」 


 あと二人。

「さて、次はお前の番だ」

 戦士を指さし、宣言する。

「冗談じゃねぇ! 殺されてたまるか!」

 戦士は鋼鉄製のこん棒を振りかざし、殴りつけた。

「やった! 仕留めたぞ!」

 確かに、頭部にこん棒を叩きつけてはいた。

 だが――

「今……何かしたか?」

 何事もなかったかの如く吐き捨てる。

「ヒィ!」

 仕留めたと思った瞬間から一転し、あり得ない状況に恐怖する戦士。

 戦士の手に持っていたこん棒は柄の部分だけを残し、既にこの世に存在していなかった。

「俺はお前らを殺すために今日まで生きてきたんだ。こんなもので死ぬわけないだろう」

 そして、恐怖にひきつった戦士の首も存在を消す。


 ――残るは一人。

「女、お前は特別に最後にしてやると決めていた。その手にしている指輪を見たときからな」

「ゆっ、指輪? 返す! 指輪は返しますから! だから命だけは……」

「指輪は返せても命は返せないだろう? 思い出もな」 

 僧侶が後ろを向き、逃げ出す。

 だが、距離は一向に離れることはない。

「どうして? なんで逃げれないのよ!」

「俺に喰えないものはない。お前との間になる空間も喰っているんだよ――化け物相手に逃げられるとでも思っていたのか?」

 俺の目の前まで引きずられた僧侶がへたりこむ。


「やめて、近付かないで!」

 無視して肩を掴む。

「助けて……」

 口を開ける。

「何でも言うことを聞きますから……だから殺さないで!」

「お前らはこれまで、そうやって命乞いをした者達をどれだけ殺してきた――どれだけ罪の無い命を奪ってきた!」

 そして、僧侶の首もこの世から消え去った。 



「終わったよ……」

 ようやく誓いを果たすことができた。

 あの時の誓いを――




 数年前


 

 生まれた時から、俺は変だったらしい。

 最初の異変は、哺乳瓶がよくなくなることだったそうだ。

 それからしばらくして、俺が物心がついた頃に家で飼っていた猫が病気になってしまった。

 もう治せないと知った俺は、悲しみの余り思わず猫の病気を喰ったことが全ての始まりだった。

 その光景を見ていた両親は、驚くどころか人間にも効果があるかどうか試すために病人を連れてきた。

 人助けとしか思っていなかった俺は、その人の病気を喰った。

 裕福ではなかった両親は、その瞬間から人が変わってしまった。

 俺の病気を喰う力を利用して、商売を始めたのだ。

 どんな医者も治せない不治の病を、一瞬で、そして確実に治療する商売を。

 評判は瞬く間に広がり、世界各地から富豪や資産家。果ては政財界の重鎮や国の王族が助けを求めに連日訪れ、その度に大金や財宝が舞い込んだ。

 幻の宝具と呼ばれたマスクも、この時の貢物だった。

 だが――病は喰えても「怪我」を喰うことは出来なかった。

 俺が食うことの出来るのは『存在する』ものであり、『失った』

 ものを元に戻すわけではない。

 細菌やウイルス、腫瘍などは『存在』し、それを喰うことで、それら原因とした病は治せる。

 だが――裂傷や骨折、切断に破裂といった『失った』ものは喰う以前の問題だったからだ。 

 そして、自分自身の病気も喰えなかった。

 手や足といった「口」が届く箇所なら喰えるのだろうが、頭や胸は届かない。

 だから、病気で寝込んでしまったら回復を待つ他なかった。

 しかし――両親は違った。

 病気で倒れても心配するどころか、構うことなく俺に無理やり他人の治療をさせた。

 もう――愛情などない。

 金を呼び込む道具としか見ていなかったのだ。

 そんな生活に嫌気がさし、今まで両親が吸い上げた財産の中から生活できる分だけ持って、家を飛び出した。


 それから、あてのない旅が続く。

 そして――偶然、名も知らない山の奥深くに入った時、初めて彼女に出会った。


「見つけたぞ、悪魔め!」

「やめて! 来ないで!」

 誰かが襲われていると思い駆けつけると、数人の男が一人の女性をとり囲んでいた。

 その女性をよく見ると、黒く長い耳と、黒い翼をもっている。

 そして――美しい。

「やめろ!」

 俺は思わず男達の前に立ちはだかる。

「なんだ、このガキ」と襲いかかってきたが、持っていた武器を喰うと驚愕し「化け物」と捨て台詞を吐き捨てながら逃げて行った。

 逃げていく男達を見ながら、俺は彼女になんて声をかければよいか悩んでいた。

「大丈夫?」

 そんな台詞を言うのも恥ずかしい。

 ――すると、後ろにいた彼女の方から声をかけてきた。

「……何で助けた?」

「一目惚れしました!」

 そんなこと言えません。

「いや、女性が襲われていたから、助けるのは当然だと思いまして……」

 なんともありきたりな台詞だ。

 でも、話しかけれたぞ!


「不思議な男だ……お前、私が怖くないのか?」

「何で?」

「私は悪魔なんだぞ!」

「だから?」 

「だからって……なんだお前は」 

 そう云いながら彼女は震えている。

 襲われたばかりだからな。当然だ。

 ……まさか、俺は怖くないよね?

 よし、ここは一ついいところを見せて――と。

「ジッとしててね」

 彼女の顔に近付く。

「何をする!」

「いいから。目をつむって」

「……………………」

「よし! これで、もう怖くないだろ?」

「なんだ? 今、何をした?」

「恐怖を吸い取った!」 

「何をバカな……でも、確かにさっきまでの嫌な感じがなくなっている」

「だろ?」

「お前すごいな! いきなり顔を近付けるから驚いたぞ」

「顔を……近付ける……」

 しまったー!

 まさか、キッ……キスすると思われたのか!

 確かに絶好のタイミングであったかもしれない。

 だが、初対面の女性にいきなりキスはないですとも!


 それに――

「目をつむってといったでしょ! つむっててよー!」 

 あたふたしだす俺を見て、彼女が笑う。

「本当におかしなヤツだなお前。変な力を持っているし、私を見て怖がらないヤツは初めてだよ」

 その笑顔を見て、俺は本当におかしくなりそうだった。

 ハイ。完全に惚れました!


 それから、俺は押しかけ女房の如く、彼女の傍に居続けた。

 俺は人生で初めて充実した日々を送っていた。

 惚れた女性と、すぐ傍にいられる。

 語リ合い、笑い合い、時を共に過ごしていった。

 それで知ったのだが、彼女は今まで「悪魔退治」の名目で、正義の味方と自称する者達に何度も襲われていたらしい。

 その度に、なんとか逃げ続けてきたが、襲われた数だけ心に傷を負っていた。

 俺が傍にいるようになってからも、それは変わらない。

 だけど、これからは俺が彼女を守る。

 襲われる度にそいつらを追い払い、彼女に植え付けられた恐怖を喰う。

 そんな日々が続いた。


 ある日のこと――

 ふと目を離した隙に、彼女が襲われていた。

「貴様ら!」

「マズイ! またアイツだ。逃げろ!」

 彼女は軽傷だったが、怪我をしていた。

「大丈夫か?」

「大丈夫なはずないでしょ!」

 差し出した手を、彼女は振り払った。

「もうイヤ! 耳が違う。黒い翼が生えている。みんなと少しでも違っていたら、それは罪なの?」

「また、恐怖を喰うから……」

「もうやめて! 襲われた恐怖を取ってもらっても、心の傷は消えない! ズット胸が痛いの――張り裂けそうなのよ!」

 そう言うと、彼女は両手で顔を覆い隠す。

 そして――

「死にたい……こんな身体で生まれてくるなら、いっそ生まれてきたくなかった」

「そんなことを言うな! お前のことを必要に……大切に思っている奴だっているんだぞ」

「そんな人、どこにもいない!」

「め……めっ、目の前にいるじゃないか!」

「え……」

「――一生分の勇気を使ったつもりだぜ」

 そう言って、彼女の左手をとり、指輪をはめた。

「何? コレ?」

「あの……俺と、その……ズット一緒に――これからも、俺とズット一緒にいて下さい!」

「な……なっ、な……」

「お願いします!」

「何を言っているのよ! 私は悪魔なのよ! 一緒にいれるわけないじゃない!」

「そんなことはない! お前は悪魔じゃない! ここが嫌なら、どこか遠くで二人で暮らそう」

「私、羽が生えているのよ」

「構わん」

「耳だって」

「むしろ萌える!」

「それに……」

「悪魔だろうが天使だろうが関係ない! 俺はお前が好きだ!

 その羽も耳も、顔も性格も、それにその大きなオッパイもみんな大好きだー!」

「こっ、このバカーっ!」

 グーで殴られ、思いっきり吹っ飛ばされた。

「もう、本当にバカなんだから」

 一目惚れして以来、彼女が一番涙を流している。

 そして、一番の笑顔を見せてくれた。

「バカ……」

 涙と一緒にクシャクシャになった笑顔を――


 

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