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第一話 初日

 


「――死んじゃう……」


 初っ端から申し訳ないが、もうすぐ死にそうです。

 一応この世界はファンタジーらしく、魔物(っぽい動物)もいれば、勇者という人間もいるそうだ。

 俺はその勇者と呼ばれるヤツに一度でいいから会いたくて旅に出たのだけど、どこを探したらよいか全くわからん。

「男なら山でしょ!」と勝手な妄想から見知らぬ山に入ったら、さっき説明した魔物(っぽい動物)――「ノアーズウルフ」と呼ばれるウサギのような耳を生やし、白い体毛で覆われた狼(軽く凶暴。雑食――草から人まで美味しく召し上がります)に見つかり追いかけられ、持っていた保存食をばらまきながら半べそかいて逃げ回った。

 それから数日……以来、何も口にしていない。

 食べ物は全てばらまいた。お腹がすいたというレベルを超え、意識も薄らぎながら彷徨っていたところで、偶然城下町を発見。最後の力を振り絞り、街へと到着。すぐさま食事処まで駆け寄ったところで身体に電流が走った。

「俺…金持ってないよ!」

 ――そのまま力尽き、現在に至る。


 それにしても、この国の住人は冷たい。

 いや、缶コーヒーのCMの真似ではないよ。

  俺が迷い込んだのは道も壁も、建物までも全てが石造りの国らしいのだが、国民は敷き詰めてある石よりも冷たいようだ。

 なにせ、倒れてからかなり時間が経っていると思うのだけど…周りに数人いるにもかかわらず、誰も俺に声をかけてくれないのですよ。

 君達のすぐ傍で人が倒れているんですよ。国民の中に助けようとする方はいらっしゃいませんか?

 俺ってさ、実は主人公らしいからさ、ここはラノベっぽく綺麗なオネーチャンが「大丈夫ですか?」と声をかけてくれて、飯を御馳走してくれて、さらにはそれがキッカケで「好きです」とか言われちゃうムフフなフラグたたないのかよ。


 …あ…そろそろ本気でヤバい。

 妄想にふけっている場合ではない。必死に手を伸ばし、助けを懇願した。

 その時――

「うわ、動いた。きもちわるい」

 ……ん? 空耳?

「通報した?」

「したした。もうすぐ来るよ」

 なんだこの女の人たちは。何を云っているのか訳がわからん。

 やっぱり空耳か……俺の人生クソゲーだったな……もうバットエンドか…


「あっ、来た! 警備兵よ」

 かすかに聞こえた女性の声を最後に、俺は意識を失った……

「この騒ぎは何事だ! 事情を説明……いや、全てを把握した。国民の皆は危ないから下がって!」

 突然怒鳴ったのは馬車を引き連れた制服の男。どうやらこの国の警備兵らしいが、あなたの大声のお陰で意識を取り戻したよ。

 それにしても、危ないだのなんだの言っているがなんの騒ぎだ?

 どんな事件かは知らないけど、そんなものは人生を強くてニューゲームでやり直してリアルを充実されている方々に任せて、不憫な俺を助けて下さい。

「貴様、一体何者だ! というより何だ、その格好は!」

「……」

「返事をしろ!」

 警備兵が俺の目の前で怒鳴る。

「えっ……俺?」

「他に誰がいる!」

 俺は倒れていただけなのに?

 何? それじゃあ――警備兵が来たのは、もしかして俺のせい?

 と――いうことはだ、やはり誰も俺を助けようとしてくれなかったということだ。

 近付こうともしない上に通報するなんて……ここの国民達はマジで冷たいな。

 それにしても、怒鳴ることないだろ。俺が何をしたというのだ。

 空腹で倒れていただけだろう。

 いや待てよ……そうか! 死んでいると思ったのか。

 それならば、一連の行為もうなづける。

 あれこれ考えていると、また警備兵が怒鳴ってきた。


「お前、なんで覆面とパンツしか装備していないんだよ!」 





 ――何度見ても普通じゃなかった。

 真っ白の覆面を被り首から上は隠されているが、その下は隠す気配すらない。

 真っ赤に染まったパンツだけしかはいていなかった。

 九割以上全裸である男が白昼堂々と街中で倒れていれば国民の注目を集めるのは当然であり、周囲の反応は必然であった。

 何より存在自体が迷惑を通り越してもはや公害そのものだ。

 そんな怪しい男を国民が助けるわけがない.

 助けない人を責めるなんて到底出来ないだろう。

 むしろ助ければ「コイツ……マジパネェ!」と思われるのは間違いなかっただろう。 

 ――バランタイン王国 警備報告日誌より抜粋――




 ――いやいや、そんなもの抜粋している場合ではないですから。


 俺は警備兵の声を無視して懇願する。

「あの……食べ物を恵んで下さい。腹がへって死にそうなんです……というか、さっきの『危ない』ってヒドくない?」

「ヒドくない! お前の格好のほうがよっぽどヒドいわ!」

 キレるなよ……

 だが、警備兵は急に冷静になる。倒れている俺の手を取り、改めて質問をした。

「まさか、追い剥ぎにでも出くわしたのか? それでこんなパンツ一丁で……」

「いや、これは俺の普段着だ」

 ガチャッ!

 答えたのと同時に、警備兵が掴んでいた俺の手に手錠をはめた。

「なっ、何故?」

「何故じゃねぇだろうが! パンツ一丁が普段着って時点で、俺の危険度指数メーターが振り切ったわ!」

 警備兵、再度キレる。発言も少し壊れてきた。


「待って、私も見たい」


 馬車の中から可愛らしい声が聞こえてきた。

 その声と同時に警備兵が、そこから倒れていた俺までとの間に人壁の道を作り、馬車のドアを開けた。

 ドアから出てきたのは声に負けずとも劣らぬ可愛らしい少女で、纏っている身なりもかなり高貴な物で固められていた。

 一目で身分が高い人種と予想ができる。

 その少女に対し、俺に手錠をはめた警備兵が進言する。

「ダメです王女、目が腐ります。只でさえ無理やり付いて来た上にこんな危険な男に近付いて何かあれば我々は国王に何と詫びればよいか」

 人間の目ってそんなに簡単に腐るのか……知らなかったぞオイ。

 俺のことを、謎の秘密結社が極秘裏に開発した凶悪な化学合成薬品か何かと勘違いしているのではないだろうか?

 ここまで危険視されている男――

 つまり俺を何者と思っているのだろう?

 警備兵の進言に対し、少女は肩ほどまである綺麗な黒髪を手で払い、微笑みながら答える。

「私はここバランタイン王国の次期女王ですよ。民の問題を直に見るのも私の務めです」

 その容姿――いや、幼さからは想像もつかないほどにしっかりとした発言。       

 よほど教育が良いのか、もしくは厳しいのであろう。

 まぁ、一国の王女様となれば当然か

 そう思ったのも束の間、今度は見た目通りの幼い行動にでる。

「ねぇ、おじちゃん。なんでヘンテコなお面をつけてるの?」

 俺に近付き、そう問いかけながらマスクを指で突付いてきた。

 この行為を目の当たりにした警備兵が悶絶・絶叫する。

「いけません王女! こんな汚らしいものをツンツンされては、指まで腐ってしまうではありませんか! この事が国王の耳に入れば、私は切腹です!」

 オイオイ……目の次に指まで腐って、危険の次は汚らしいときたか。               

 それに切腹って……俺に触れさせただけでそんなに重罪になるのかよ。

 そろそろ我慢の限界が近づいて来た。

 この怒りを行動に移そうとした時、王女がムッっと怒った顔をして警備兵に突っかかった。

「そんな事言っちゃダメ! 人を見た目で判断しちゃいけないんだよ! それよりこのおじちゃん、さっきからズットここに倒れているじゃない。もしかして、おなかがすいて動けないんじゃないかなぁ」

 天使だ……今、俺の目の前に天使がいる。

 待ちに待ったこの言葉に俺は声にすることができず、目の前にいる天使に涙を流しながら無言で何度も首を縦に振った。

「ホラ、やっぱり!」

 王女の台詞に、警備兵は少々不満そうに従う。

「……わかりました。ですが王女、どちらにしてもこの男は逮捕し、一時的にでも城にある牢屋に入れておく必要があります。食事もその時に与えられますので、後の事は我々に任せて馬車にお戻り下さい」

 警備兵の言うことをしぶしぶ聞き入れた俺の天使が馬車へと戻っていってしまった。

「連行しろ」

 両脇を二人の警備兵に無理やり抱えられた瞬間、遂に俺の怒りが爆発した。

「ふざけるなよ! メシを食わせてくれるのはありがたいが、逮捕はないだろう! ビキニをはいていただけじゃないか!」

 叫び散らした俺に向かって警備兵が吠えた。


「ビキニだけしかはいてねぇからだろうがっ!」 


 警備兵の即答に周囲の者達は無言のまま頷き、その場を後にした。



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