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地下室のワイン樽

作者: 山通 雪グ

じめじめした地下室に並ぶワイン樽。

その中で1番近い樽の蛇口に手をのばす。

グラスに少量、鮮血のようなワインを注ぎいれ、口をつけた。

まずい。そう思った私はグラスを地面に叩きつけた。


さっき飲んだ樽から左に3つ目の樽の蛇口をひねった。

グラスは気付いたら手の中にあった。

心臓をしぼったような色だ。私は躊躇せず飲んだ。

さっきのよりも格段に美味しい。私は上機嫌になって地下室を左へ左へ走り、ワインを飲み漁った。ワインは左へ行くほどどんどんどんどん美味しくなっていく。私は酔ったのか狂ったのか、時に笑いながら、時に吐きながら地下室を、左へ左へ走って行った。


5杯くらい飲んだ時にはもう、私に意識は無かった。その後は樽も気にせず走り続けていた。

どのくらい走ったのだろう。全く分からない。少し冷静になりかけた時、私は壁にぶつかった。この地下室の最深部。そこにはやはり、ワイン樽があった。

私は蛇口をひねった。黒い液体が出てきた。本当にワインなのか?私は首をひねった。だが匂いを嗅いでみると、それは確かにワインで、しかも今まで飲んできたものとは比べ物にならないほどの芳香だった。

私は一気に飲み干した。体中に電流が走り、鳥肌が立つ。涙がしぼれるまで目をつぶり、ごくりと飲み込んだ。

身体を温かい液体に包まれたような感覚が私を襲った。目には平坦な赤色が映る。遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。私は声が聞こえる方へ行こうともがいた。するとその先に一筋の光が見えた。出られる。そう思って最後の一掻き。手を、のばした。


そこで、目が覚めた。


地下室の床に私はあおむけになって倒れていた。

頭を掻くとひどく湿っていた。髪の毛が頭皮にへばりついている。手を見るとねばねばした液体がべっとりと手の平を覆っていた。


私は身体を翻し、来た道を逆へ走り出した。もう1度、1番最初に飲んだワインの味が飲みたい。不味かったあのワインが飲みたい。

ワイン樽が私の後ろへ消えていく。愛しい私の樽。私の樽。


最初の樽の前に着いた。私の髪はすっかり乾いてしまっていた。

蛇口をひねる。今度はグラス一杯に。そして一気に飲み干して、私は言った。


熟成が足りない、と。


拝読ありがとうございました。

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