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彼女がスカートに着替えたら。


 さくらと見ようと思った映画はすでに開演してから三十分が過ぎていたので、

 次の回が始まるまでの間に尻尾対策としてスカートを探して歩く。


 店の前にスカートをはかされたマネキンはいくつもあるが、いったいどこに入ったらいいのかがわからない。

 自分の服だってそんなにこだわって買ったことないのだから、女子の服なんてなおさらだ。


 いつまでもぶらぶらしていても仕方ないので、適当な店に入ると手近にあった白のロングスカートのかかったハンガーを掴む。

「さくら、ちょっとこっち来い」


 入口でマネキンを眺め倒していたさくらが、僕に呼ばれてものすごい勢いで近くにすり寄ってくる。

「近いよ……。とりあえずこれはいてみろ」

「わかりました」

「そこで脱ぐなよ」

 その場でジーパンのホックを両手ではずそうとしているさくらに注意する。


 さくらをスカートと一緒にフィッティングルームへ突っ込み、待つこと五分。

 スカート一枚穿くだけなのにまだ出てこない。

「おい、さくら。まだか?」

 呼びかけると、シャッと更衣室のカーテンが開く。

「すみません、ご主人これなんですけ――」

 すかさず、僕はシャッとカーテンを閉める。

 またすぐに、シャッと開く。

「あの、これ――」

 再び閉めると、今度は開かないようにカーテンの端を押さえる。

「あれ? ご主人開かなくなりました」

「開けるな! 何で下着だけなんだよ! 上を脱ぐ必要ないだろが!」

 買いたてのブラとパンツを、このタイミングで見ることになるとは思いもしなかった。

「いや、何かこれ難しくって、一回全部脱いでしまった方が早いかなと思いまして」

「早くねぇよ!」


 カーテンの向こうのさくらにツッコんでいると、ここでも店員のお姉さんが「どうかしましたか」と声をかけてくれる。

 普段、こういう声かけは苦手なのだが、今回ばかりは非常に有り難い。

 僕はさくらにスカートの穿き方を教えてやって欲しい旨をしどろもどろになりながらお願いをする。

「あ、えと、スカートを……ですか?」

「ス、スカートです」


 もう何かスカートって単語を口にするだけで、変な風に思われてはいないかと、

 目が泳ぎそうになるのを必死で堪えるが、余計に不審になる。


 しかしお姉さんは少し不思議そうな顔を見せたものの、すぐにまたニッコリ笑顔を作って、一声かけてフィッティングルームの中へと入っていった。 中からはすぐに「おお」とか「なるほど」といったさくらの声が聞こえてくる。


 しばらくして、「お待たせしましたー」というさくらの声でカーテンが開く。

「やっ……と」


 白状しよう。

 息を呑んだ。

 僕がいい加減に手に取ったはずの白いスカートは、上のポロシャツはともかく、麦わら帽子と相まって、黙っていれば清楚な顔立ちであるさくらは、避暑地に赴くどこぞのお嬢様のように可憐で美しい。

「ご主人、おしっこ」

 あくまで黙っていれば。


 スカートからジーパンに着替えさせるのも手間なので、その場でタグを切ってもらい、そのままさくらをトイレに向かわせる。

 その間に精算を済ませ、店内をぐるぐる。


 店に入った時には全く何のイメージも湧かなかったが、さっきのさくらを見たら、あれも似合うかも、これもかわいいかもと色々想像が広がる。


 そして、しばらく後に戻ってきたさくら。

「ご主人、お待たせしました!」

「お」……ぅ?

 

 トイレから戻ってきたさくらに返す返事を途中で飲み込む。

 何だろう。

 何だか店の入口の方からたくさんの視線を感じる。しかも男ばっかり。

 嫌な予感にさくらの肩をガッと掴むと、強制的に回れ右をさせる。

 遊んでもらってると勘違いしたさくらが、嬉しそうな声をあげる。

「おっ、何ですかご主人! これ何ですか!!」


 ……こいつ、パンツの中に思いっきりスカート巻き込んでやがる。

 そんだけ巻きこんでたら普通気付くだろ?

 そのパンツどんだけお披露目するんだよ!


 僕は慌ててさくらのパンツからスカートの裾を引っ張り出す。もうこんな行為には何の感慨もない。

 早速さくらに、トイレにいったらパンツの中にスカートを巻き込まないように確認してから出てきなさいと教える。

 僕はいったい女の子相手に何を言っているのだろう。


 そんなことがありながらも、引き続きさくらの服を選んで回る。

 店員のお姉さんに服を見繕ってもらっているさくらを眺めながら、

 もしこれで見た目相応の中身が伴っていればどんな感じだろうといった妄想をしてみると思わず口元が緩む。

「あ、この色かわいい! ちょっと着てみてもいい?(小首を斜め45度に傾げて)」とか。

 何それ幸せすぎる。

「あ、この色、さくらが朝したうんこと同――」


 緩んだ口元を噛みこんで、僕は思いっきりそいつの後ろ頭をぶったたいた。


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