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ランチタイム。


 あまり待たせるのも不安なのでファストフードの代名詞Mのマークのハンバーガーをテイクアウトして、とっととさくらのの元へ戻る。


 …………いやしねぇ。

 どこだとぐるりと周りを見渡しその背中を見つけるなり、ダッシュで駆けつけると耳元で囁く。


「おい、さくら、出てる! 尻尾出てるから!」

 穿いてるジーパンをもっこりと押し上げて、尻尾の先が腰元からフサフサ見えていた。


「はっ、ご主人!」

 こちらを振り返り、さくらが慌てて尻尾をひっこめる。

「あそこで待ってろって言っただろ」

「立ったまま『待て』をするのにはまだ慣れなくて」

「で、何見てんだ?」

「いえ、このテレビさっきからずっと同じことばかり言ってて変なんですよ」


 さくらが指差した方には、上映中の映画を告知する電子看板があった。

「それは映画の告知だから、どんだけ見たって一緒だぞ」

 エイガ? と容疑者のアリバイを不審に思う刑事のように険しい表情でさくらがオウム返しに訊いてくる。


「ああ……大きいテレビみたいなもんかな」

「大きいテレビ……ですか……」

 いまいちイメージがつかめないといった様子で宙に視線をやるさくらは、ますますドラマの刑事みたいだった。


「んー……見るか? 映画」

「……見ます!」

 刑事の顔がパッと輝く。

「大人しくできる?」

「はい!」

「本当に?」

「はい!」

「じゃあ、『お手』」

「はい!」

 そう言ってしゅたっと右手を出す。

 指の先を内側に丸めるのは犬の名残なんだろう。


「よし、じゃあ、その前にまずは腹ごしらえをしよう」

 近くに置かれたベンチを選ぶと、さくらと並んで腰かける。

 相変わらずジーパンの隙間から尻尾の先がふさふさ揺れているが、ベンチの背もたれとの間で周りからは見えないので、まぁよしとする。


 これって傍から見たら完全にデートだよなぁ……。

 しかしそんな気持ちも、ハンバーガーの匂いが漏れる紙袋をらんらんとした目で見つめている相方を前にしては一気に萎える。

 やはり店には連れていかなくて正解だった。


「さくら。『待て』」

「わん!」

「わんじゃない」

「わひっ!」

 変な噛み方したな。

「さくら、今から僕と一緒にこの中にあるハンバーガーを食べ――」

 ハッハッハッ……ハフハフハフ。

 おあずけ状態の犬が擬人化するとこうまでみっともないさまになるものなのか……。


「さくら、舌出さない。よだれ垂らさない」

 じゅるりとよだれを啜るさくらを見て、外出時にはハンカチを持つようにしようと頭でメモする。


「いいか、さくら。人間らしく、お行儀良く食べるんだ。僕と同じようにマネして食べてくれ」

 こくこくこくこくと、壊れたおもちゃみたいに激しく頷くさくら。


 僕は紙袋の中からハンバーガーを取り出し、包み紙を剥くと、ビーフパティの香りが一気に広がる。

 ハッハッハッハッ……ハブッバッベバッ!

 吐く息に大量の唾液が混じり、これ以上焦らしてはどうにかなってしまいそうなさくらにそれを手渡す。


「……よしっ」

 待ての指示を解いた次の瞬間、ハンバーガーが目の前から消え、

 その分だけさくらの頬が膨らんだ。

 わかってたけどね。

 しかし、ついばむ為にあるようなあんな小さくかわいらしい口でどうやったらこんなイリュージョンが起こせるのか……。


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