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プロローグ「さくらさくら」

散歩のコースは決まっていて、家からさくらを拾った神社までの往復コース。

 行って帰るだけなら十分で済む距離だが、さくらはこの神社がお気に入りらしく、朝のまだ誰もいない早い時間、リードをはずしてやると雨の日も風の日も毎日嬉しそうに社の前を行ったり来たりと駆けまわる。

 出会ったころは弱り気味だったさくらが元気に走り回る姿を見るのは僕も嬉しくて、さくらを連れて毎朝ここに出かけるのが日課となった。


 自分ひとりだったら僕は未だに暗い底に沈んだままだったろう。

 さくらがいるとそういうわけにもいかない。

 エサも用意しなければならないし、たまには体も洗ってやらなければいけない、犬用の健康保健も色々あるみたいなのでもしもの時に備えておかなければいけないしと、今まで動物を飼ったことがない僕の生活はさくらを中心にして回る。


 それでも家を出るのは早朝のさくらの散歩のみで、できるだけ人と顔を合わさないで済むように買い物もその際にコンビニでまとめて済ませる。

 四人掛けのテーブルでするひとりの食事は耐え難く、買ってきた弁当などは自分の部屋に持ち込んで食べるようになった。

 広い家の中はいつまでも静かで、広い玄関には自分以外の靴はない。

 「ただいま」も「おかえり」もない。内側に気持ちがめりこむ。


 そんな家でも埃は積り、それなりに汚れていく。

 掃除をしなければと思うも、自分ひとりだとそうする理由さえも見つからない。

 やはり叔父さんに相談して、この家を手放した方がいいのかも知れない。

 ひとりで住むには、広いし、重い。


      ※


 ご主人は毎朝散歩に連れていってくれます。

 行き先はいつも一緒で、初めてご主人と出会った神社に行きます。

 食べる物、寝る所も与えてもらって、散歩もしてもらえる。

 幸せだなぁ幸せだなぁ幸せだなぁ。ご主人大好きです。

 幸せすぎて、このままでは天罰がくだるのはないかと思うような毎日です。


 そんな中考えるのは、何とかしてご主人にこの気持ちを伝えて御恩を返したい。

 どうして自分は犬なんだろう。

 どうして人間じゃないんだろう。

 んーむ。


      ※



 さくらがうちに来て三ケ月を過ぎた。

 目が覚めると、カーテンの隙間から伸びる細い光で、部屋の中に舞う細かいほこりがきらきらと輝いていた。

 いつもなら散歩を催促するさくらの声で目を覚ますが、今日は寝坊でもしたのか鳴き声が聞こえてこない。 


 薄らかいた寝汗でTシャツが肌に貼りつく。もう夏も目の前だ。

 どうせ散歩したら汗をかくだろうしとTシャツはそのままに、下だけハーフパンツにはきかえる。

 玄関でさくらのリードを手に、靴に爪先だけ突っ込みドアをあける。

 いつもの庭の、いつもの犬小屋に、いつものさくら。

 ――の姿はなかった。

 代わりに――。

 

      ※


 いつもと同じように朝日と共に目が醒めました。

 もう夏も目の前だというのに今朝はやけに寒く、ブルブル震えます。

 何だか身体の調子もいつもと違うみたいです。

 病気かも知れません。

 ふと自分の手を見ます。

 そこに私の手はありませんでした。

 代わりに――。


      ※


 『全裸の女の子が立っていた』


 『人間の手がありました』

 

      ※


「「なんじゃこりゃぁーーーー!!」」


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