第7話「料理研究、爆誕」
「美味しいとはどういうことか、を研究します」
アリアが宣言した日から、キッチンが戦場になった。
まず三千件のレシピをデータ化し、材料の組み合わせを全パターン検討し、最短で最大効果を出せるレシピを選定する——という手順を踏んだ結果、最初の一週間は「計算上は正しいが何かが違う」料理が毎日テーブルに並んだ。栄養は完璧。見た目は悪くない。でも一口食べると、何かが足りない。
「なぜ美味しくないのか、分析中です」
「計算でどうにかなるものじゃないんだよ、料理って」
「では何が必要ですか」
陸は少し考えた。
「……気持ち、じゃないか」
「気持ちの単位はどう計量しますか」
「できないよそんなの」
「では再現不可能ですか」
「そうは言ってない。……一緒にやってみるか」
陸がキッチンに立ち、アリアが隣に並んだ。陸は適当に冷蔵庫の残り物でチャーハンを作り始めた。アリアは全ての工程をノートに記録しようとしたが、陸が「見てないで手伝え」と言うと、不思議そうにしながらも卵を割った。
はじめての卵。白身と黄身がうまく分かれず、アリアが「失敗ですか」と聞くので「気にするな」と混ぜた。
できあがったチャーハンをアリアが食べた。
長い沈黙の後、アリアが言った。
「……美味しいです」
「だろ」
「陸さんの手の温度が、します」
陸は箸を持ったまま、しばらく何も言えなかった。




