表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

祈りの空

作者: 椿零兎


このお話は星が好きな少年と、その隣にいる幼なじみとの、静かで少し臆病な恋のお話です。

大きな事件や派手な展開はありませんが、放課後の教室や夜空の星のように、日常の中でそっと瞬く感情を大切にして書いています。


ゆっくりと進む心の距離や、言葉にするまでの迷い、伝えたあとの余韻を感じていただけたら嬉しいです。

星を見上げるような気持ちで、気軽にお読みください。


小さな頃から星が大好きだった。

別に特別な意味なんてなかった。

ただ、夜空に静かに浮かぶその光が、いつも少しだけ心を落ち着けてくれる気がしたんだ。

特別な意味なんてない、そう思っていた筈だった。


だけど、最近になって、ひとつだけ意味ができた。

 

「願いごとを託すもの」


として、星を見上げるようになったんだ。


放課後、教室にはもう俺達以外誰もいない。

最後まで残っていたクラスメイトも、俺達に軽く手を振って教室を出ていってしまった。


隣の席では、陸が眠そうに

「ふぁ〜」

と欠伸をしていた。

いつも通りの仕草。何時もの日常。

だけど、最近彼の仕草一つ一つが、どこか眩しく見えてしまう。


……今日こそ、渡そうと思っていた。


ポケットの中に小さな箱がある。中には、星の形をしたキーホルダー。シルバーに近い淡い青で、光にかざすとすこしだけきらめく。

これはお揃いで、もう一つは、自分の家の鍵につけている。


……陸とお揃いを持っていたい。


その気持ちに突き動かされて、思わず買ってしまったものだ。けれどそれを渡す理由を、俺はまだちゃんと言葉にできていない。


「なあ、悠」


 陸が不意に俺を呼んだ。


「ん?」

「なんか、最近ぼーっとしてるよな。疲れてるんじゃないのか?」


陸に心配そうに覗き込まれて、思わず目をそらしてしまう。


「ううん、ちょっと考えごとしてただけだから、大丈夫」

「ふーん……それなら良いけどな?あ、そうだ。来週の天文部の観測会、来ないか? 星、好きだったよな」


陸のその一言に、心臓がドクン跳ねた。このタイミングで星の話題。思わずバレたのかと思った。

陸は天文部部長だし、俺が星をよく眺めているから誘ってくれただけだろうけど、タイミングが悪い。

そう思いながらも、陸が誘ってくれた事が嬉しくて、笑顔で了承の返事をする。


「いいの?それなら行きたいかも」

「じゃ、決まりな。楽しみにしとけよ。結構いい場所なんだって」


陸はそう言ってニカッと笑う。その眩しい笑顔を見たとき、ようやく俺の恋心の覚悟が決まった。


「……あのさ」


ポケットに手を入れて、ずっと持っていた小さな箱を取り出す。


「これ、受け取ってほしい」


静かに告げて、ズイッと箱を差し出すと、陸は少し驚いたように目を丸くして、それから静かに受け取ってくれた。


「なに、今日って何かの記念日だっけ?俺誕生日じゃないけどな」


そう言いながらもクスッと微笑んでくれた。

大事そうに蓋を開けて中を見た瞬間、目を細めて中身を確認し、俺を見つめてくる。


「星か。綺麗だな。……これ、もしかしてお揃いか?」

「……うん。あのね、星ってさ、願いを託すものだって、聞いたことがあるんだ」


陸に気持ちが伝わるように、言葉を選びながらゆっくり話す。


「このキーホルダーにも、ちょっとだけ、願いを込めたんだ」


その言葉に、陸は俺をじっと見た。


「なぁ、その願いって、俺に関係ある?」


まっすぐな瞳に、うまく頷けなかった。そのまっすぐな射抜くような瞳が怖い。拒絶されるんじゃないかって。

けれど、俺はこの気持ちから逃げないって決めたから。


「あるよ。……陸のこと、ずっと友達だと思ってた。でも最近、ちょっとだけ違ってきてて。気づいたら、陸のこと、特別に思ってた」


喉がカラカラに乾く。懺悔でもしているみたいだ。でも、俺の気持ちの言葉は続いてくれている。


「この気持ちを、無理にわかってほしいとか、受け入れて欲しいとかじゃなくて……ただ、陸にちゃんと好きな気持ち届けたかったんだ」

沈黙が落ちる。

陸はしばらく黙ったまま星のキーホルダーを見つめてから、ふっと息を吐いた。


「なんかさ、悠らしいな。ちゃんと考えて、ちゃんと伝えてくれるとこ。そういう所、かなり好感持てるよ」


陸はゆるやかに笑って、言葉を続ける。その顔には拒絶の感情は一切無い。


「……俺も、ちょっとだけ考えさせてほしい。いきなり“はい”って言えないけどさ、受け取るよ、それ」


その言葉で胸の奥で、張りつめていた何かが、少しだけ緩んだ気がした。じんわりと涙が浮かんでくる。


「ありがと」


それだけ言って、俺は席を立った。


滲んだ視界の先で、陸の指先に、星がキラキラと揺れていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ