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神獣フェンリルはテイムされたくありませんっ!〜けど俺をテイムするはずの主人公に義務教育が足りてなさすぎるのでまずは教育しようと思います〜  作者: 咲田陽
第1章 魔の森

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4. 主人公がそんなことある!?


紺くんが、隠しきれていない目の輝きを放ちながらこちらを見てくるので、フェンリルはアイテムボックスからとりあえず狩った魔物を一通り全部出してみた。


ドサドサドサ!と音をたてながら、何十匹もの魔獣の死体が山積みになる。

いくら広い洞窟内とはいえ、その山はあと少しで天井に届きそうになるまでだった。


「え!?こんなに……!」

紺くんが口をあんぐり開けながら眺めているのを見て、フェンリルは密かに口角を上げた。


魔獣の山の中にはランクの高い魔獣、コカトリスやホーングリズリー、大人の男の身長より巨大な角を持つギガンテウスオオツノジカ(薄毛)などもいる。

そう、フェンリルはこんなに沢山の魔獣を狩れる、この魔の森一の実力者なのである。

遠慮なく圧倒されるがいい。


なおホーンタイガーは食べれないし、既に紺くんは圧倒されているみたいなので、出すのはやめておいた。

変な薬みたいなのもついていたし、洞窟が汚れても面倒くさい。


「どれを食べたい?好きなの選んでいいぞ」

フェンリルは尻尾をゆるゆると左右に振りながら、魔獣の山を紺くんが見やすいように小分けにしていく。


「うーん、どれも食べたことないやつですね……!」

数秒逡巡したのち、「ではこれで!」と紺くんが指差したのは……オークだった。


「オークゥ?」

フェンリルは不満気に片眉をあげた。

オークはどこの森にも出現する、レア度の低い豚型のモンスターだ。

この魔獣の山にいる理由だって、たまたまフェンリルと会ってしまい、たまたま八つ当たりされて死んでしまったから、ついでに回収されただけにすぎない。


「オークも味は悪くはないが、もっとここでしか食べれないものを選んだらどうだ?コカトリスとかうまいぞ」

ちなみにコカトリスは鶏の旨味をグッと増した感じの味がする。蛇の顔をしている尻尾の方は、しっとりうまい。

ホーングリズリーの肉は美味しいのだが、脂身が多い。ギガンテウスオオツノジカも悪くはないが、肉がパサパサしてかたい。

選ぶならコカトリスが無難だしオススメだ。


「い、いいんですか?」

もじもじしながら紺くんが上目遣いに聞いた。

いいもなにも、最初から好きなものを選べとフェンリルは言っている。


「……ああ」

(そうか、村人に虐げられてきた弊害か?)

嫌な理由に思い当たり、フェンリルはゆるゆると首を振りながら紺くんを見た。


「俺がいいと言った。育ち盛りが遠慮するな」


ぽ、と紺くんの顔に喜色が浮かぶ。


「では、コカトリスで……」

「ん」

フェンリルはコカトリスを魔獣の山から引き抜くと、それ以外をアイテムボックスに再び仕舞った。


そしてコカトリスの羽根を慣れた手つき……フェンリルの口でだが、むしり取ると、そのまま風魔法で肉をブロック状に切り分ける。

そしてブロックの一つに火魔法を使い、火を通した。

フェンリル1匹のときは、このような面倒なことはせずに、狩ったらそのまま齧り付くのだが、今日はそうもいくまい。


肉に火が通ったら、紺くんの前にどさりと置いてやる。

食器などあるはずもなく、薄く大きな葉っぱを下に1枚ひいただけの状態で、洞窟の地面にそのまま置いているのだが、それでも紺くんは顔を輝かせた。


「わあ!美味しそうです!」

「先にいいぞ、好きなだけ食べるといい。」


今のフェンリルの状態は、前世の記憶により人間に近い。

その為、自分のしたことに対し、素直に喜んでもらえると単純に嬉しかった。

それに、流石主人公というべきなのか、紺くんの見た目は整っていて、将来はイケメンになるのだろうが、今は子供らしく可愛らしいという表現の方が似合う。

子供がもらったご飯に喜んでいるという微笑ましい光景に、思わず笑みが溢れる。

子供は沢山食べてすくすく育つべきだ、遠慮なんてしてほしくない。


(ま!俺をテイムするのは遠慮してほしいがな!)

フェンリルはそう考え、フッと遠い目で自嘲気味に笑った。


ひとまず食事を提供できたことに満足したフェンリルは、自分の分の肉を焼こうと再びコカトリスの方を向く。

しかし、紺くんに大きな肉を細かく切り分けないまま渡してしまったことに気づき、慌てて声を掛けようと振り返り……そのままビシリと固まった。


目の前では悍ましい行為が行われていた。

なんと紺くんが小さな口を最大限開け、舌を出し、身体ごと倒し、肉塊にむしゃぶりついている。

首を左右に振り、ブチブチブチィと肉を歯茎丸出しで噛みちぎり、咀嚼する。

満足そうに目を細め微笑む、うっすら赤く染まった頬には、グロテスクな肉汁がべったりとくっついている。

紺くんはその肉汁を腕でぐいっと拭ったあと、再び肉塊の中に顔をうずめた。


クラクラする光景に、フェンリルは気を失いそうになった。

ほんのちょっ前まではほんわか微笑ましい光景だったのに、台無しだ。

かわいい顔して食べ方がえぐい、えぐすぎる。

というか最低限のマナーすらないって何?

今時こんな野蛮な食べ方、クロマニョン人もドン引きだよ!


フェンリルは思わず洞窟の天井を仰ぎ見てしまった。

そのままフッと遠のきかけた意識を瞬間的に取り戻そうとして、フェンリルは思わず大きく短く吠えてしまった。


「アオン!!!」

「うわっ!どうしたんですか?」


美味しそ……うまそうに肉を貪っていたかわいい顔が、フェンリルの方を向く。

驚いた為に大きく開かれているかわいい目と、頬についた肉汁のギャップがとんでもなさすぎて、フェンリルはズキズキ痛み出した頭をおさえた。

眉間にグググとシワが寄っていくのを抑えられない。

思わず少し声を荒げてしまった。


「なんだその汚い食べ方は!?今すぐやめろ!俺が教える!だから次からは俺が教えた方法で食べなさい!」

「は、はい!」

紺くんはピャッと飛び上がり、背筋をピッと伸ばした。


フェンリルの前世は、ごく普通の一般家庭だった。

晩御飯にはよく2日目のカレーが出てきたり、たまにはハンバーガーでもいっか!と食卓で家族と笑い合ったりもした。

そんな家でも、最低限食べ方は綺麗にしときなさいと、ある程度のテーブルマナーは母が教えくれたし、フェンリル本人も作法が身に染み付いてた。


だから今の紺くんのように、とんでもねえ犬食いLv100みたいな食べ方を前世の家族の前で披露しようものなら、即勘当される自信があるし、やってとお願いされてもフェンリルがやりたくない。

それに、そのような食べ方をしてる人を目の当たりにしておきながら、できるのに注意もせずに放っておく気もなかった。


フェンリルはポンと人型になると、紺くんの手から肉を奪い取る。


「えっちょ……ってフェンリル様、お洋服着られたんですね!とっても素敵です!」

戸惑いながらも、フェンリルの服を見た紺くんが褒めてくれたが、当のフェンリルはそれどころではない。


「うん、ひとまず俺の服はいいから。これね」

そう言って手に取った肉を風魔法でサクッと一口大に切り分け、皿代わりにしている葉の上に乗せた。

さらに大きめの枝からフォークを切り出し、それを使って実演しながら懇切丁寧に食べ方を紺くんに説明する。


紺くんは本当に今までちゃんとした食事をとったことがなかったのだろう。

理解してもらえるまで数分かかったが、最終的にはカトラリーを使って食事をしてくれるようになった。

とはいえ、まだグーの状態……いわゆる赤ちゃん握りでフォークを握りしめているし、がっつくから頬はハムスターのように膨れ上がってはいるのだが。


(最初よりかはうんとマシさ!)


フェンリルはそう自分を納得させると、ふうと一息ついた。

気持ち的に中級〜上級の魔物を100匹くらい狩った後以上の疲労感だ。


(何かいい方向に考えよう……)

そうだ、もしかしたら紺くんは数日何も食べていなかったのかもしれない。

だからこそ、あのようながっつき方をしたのかも。

なら、ああなってしまうのも仕方ないのかも……だが。


(だがもし、そうじゃなかったら?)


もし今日だけが特別だったのなら、もっと早く食べ方を改善できただろうし、フォークもグーで握りしめないだろう。


フェンリルの脳内を、肉に豪快に齧り付く紺くんの顔が幾つも幾つも駆け巡っていく。

追い払おうとしても、どこからか残像のようにゆらゆらと出現し、フェンリルを辟易とさせた。


(一体どんな育ち方をしたらこんな食べ方になるんだ?猿にでも育てられたか?)

フェンリルは小説の内容を思い出してみた。

紺くんの生い立ちは、物語の始めの方にサラッと書かれていたはずだ。


(ええと確か……)


紺くんは、赤子の時に魔の森に捨てられているところを辺境の村に住む老婆に拾われ、育てられた。

しかし世話をしてくれたのは、その老婆のみで、排他的な他の村人からはきつく当たられ、厳しい幼少期を過ごす。

しかも老婆が息を引き取ってからは、村人の虐めは更にエスカレートするのだ。


(「ここの村人は全員フェンリルに鍛えられてる!」って嘘をつかれるくらいにね)


ハアとフェンリルはため息をついた。

フェンリルの巣穴に送られるとは、ほぼ死ねと言われているのと同義である。


(性格はいいはずなのに、随分と嫌われているんだよな〜)

また小説には紺くんは村八分にもあっていると書かれていたはず。

とすると、紺くんはきっと殆どまともに村の人と関わったことが無いのだろう。


唯一きちんと関わりのある、育ての親は確か死にかけの老婆だった。ただ、その老婆の人となりや、紺くんの育て方については描写がなかったので、フェンリルは知らない。


それに、確か小説には紺くんが街に出た時も、食事中他の冒険者から話しかけられることなく、遠巻きにされていたというような内容があった気がする。


読者として読んでいるときは、雰囲気が荒れていたのかな、可哀想な主人公、くらいにしか思わなかったが、もしこの食べ方を披露していたとしたら、そりゃ誰も近づかないのも頷けるってものだ。


(っていうか食べ方がこのレベルなら……他のことはどうなんだ?

もし、基本的なことを殆ど教えてもらっていないとしたら?)

フェンリルは嫌な事実に思い至ってしまい、背筋がゾッとした。

そして恐る恐る紺くんに尋ねてみる。


「紺くん、3+5ってなーんだ?」


頼む、スッと答えてくれ、という切実なフェンリルの祈りも虚しく、紺くんは肉の脂でテカテカと光っている両手を顔の前に持ってくると、指を折って数え始める。


「ええと……3と……5。…………6、7、8!8です!」

嬉しそうに綻ばせられた少年の顔を見ながら、フェンリルは血の気の失せた顔で「そうだね……」と辛うじて微笑むことしかできなかった。



(ダメだ!このままだと、とんっでもないバッ……なテイマーが爆誕してしまう!)

頭は決して悪くない筈なのに、育った環境のせいで、色々穴がある!

そりゃ色んな悪い大人に目をつけられる訳だ!


(こんなの格好のカモだもの!!!)

フェンリルはダラダラ吹き出してきては、ツツッと肌を伝い落ちる脂汗の不快感に、ぶるりと身震いした。

そしてギュッと固く拳を握り、奥歯を噛みしめ、目を閉じると、覚悟を決める。


(この子は、俺が育てる……!)


テイマーとして目覚める15歳の前までなら、まだ一緒に居られる。

それまでになんとかフェンリルが頑張らないと、この子はきっとこの知能のまま大きくなる。

フェンリルの将来のためにも、そして未来の世界の為にも、紺くんを教育することは重要に思えた。


というか、おそらくフェンリル以外、この子を育てようという人がいない。なんでこうなった!?

一応、金を貴族に握らせて育ててもらうとか、孤児院に入れるとか、フェンリルは色々考えてはみた。

しかしダメな方の主人公補正で、どこ行っても金だけ搾取されて虐められるビジョンしか見えない。


どういうことだってばよ!?

塾みたいに、フェンリルのところに定期的に通ってもらうしかないのだろうか?

フェンリルは背中に白羽の矢を300本くらい突き刺された気分であった。


「食べないんですか?」


フェンリルがじっと考え込んでいると、前からそっと話しかけられた。

目を開けると、少年は自分の食べ方のせいだろうかと、少し顔を赤らめ肩身の狭そうな顔をしていた。


「ごめんなさい……どう食べるかわかってなくて……直しますので」


申し訳なさそうに、両手を握りしめている少年を見て、フェンリルは両肩の力を抜いた。


「君のせいじゃない。むしろ、今知れて良かったじゃないか。これから直せばいい、きっと覚えは早いだろう」


半分自分に向けて言った言葉だが、紺くんの表情は明るくなったので、フェンリルが怒っていないことは伝わったようだ。

フェンリルは、沢山食べておかないとこの先身体が持たない気がしたので、今はごちゃごちゃ考えることをやめて、目の前の食事に集中することにした。



その後食事をなんとか終えると、フェンリルは急激に風呂に入りたくなった。


狼の時は毛繕いをすれば大丈夫だったし、むしろ風呂は嫌いだったのだが、ひとたび前世を思い出してしまったら、どうも温泉が恋しく感じる。

それに今は久しぶりの人の姿で、全身に嫌な汗をかいてしまったので、身を清めたい気持ちだった。


幸い、この森には川が流れており、その周りには人が浸かれるほど水が溜まっているところが点在している。

そのどれかを魔術で温めればいいだろう。


フェンリルはウェットティッシュやハンカチの代わりに渡した魔獣の皮で、口を一生懸命拭いている紺くんの方を向いた。


「食べ終わったら風呂に入ろう。お前さんも汗だくで気持ち悪いだろう」

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