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神獣フェンリルはテイムされたくありませんっ!〜けど俺をテイムするはずの主人公に義務教育が足りてなさすぎるのでまずは教育しようと思います〜  作者: 咲田陽
第1章 魔の森

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5. 村人がターゲットになりました


「お、お風呂……ですか?」

辿々しく返事をする紺くんの様子を見ながら、きっとお風呂も入ったことないんだろうなあ、とフェンリルは簡単に風呂の説明をした。


すると案の定、紺くんは水浴びを数日おきにするだけのようで、お風呂に興味津々だ。


「お湯に身体を……ですか」

「ああ、気持ちいいぞ」


ごちそうさまでした、と手を合わせた後フェンリルは数秒逡巡し、狼の姿になると伏せの姿勢をとる。


「乗れるか?水場まで連れて行く」

一瞬、紺くんを背中に乗せてもいいか迷ったが、かといって他の移動方法も特に思いつかなかったので、気にしないことにした。


フェンリルに背中を差し出された紺くんは、ビクッと飛び上がるとブルブル震え出した。


「ぼ、僕は汚いですし、1人で頑張って追いつけるようにするので……」

「どうせこの後風呂に入る。気にするな」


食事のマナーとかはなんもないけど、敬語は使えるし、気は使えるんだよなあ、と紺くんのチグハグさにフェンリルは頭を捻る。


(まあ、至らないとこはその都度直せばいいだろう)

フェンリルは一度思考を止め、未だ両手のひらを見せながら遠慮している紺くんの股に鼻を突っ込むと、上に押し上げ、自分の背中に転がした。


もう服を噛もうとは思わなかったから、やり方が乱暴なのは許してもらいたい。


「うわぁ」


落ちまいと、紺くんが自分の背中の毛を掴んだのを確認すると「振り落とされるなよ」と言い、軽快に洞窟から駆け出す。


先程の男といい、紺くんといい、ある程度筋肉があればフェンリルの乗り心地にはすぐに慣れるようだ。

もちろんフェンリルがなるべく揺れないように気を使っているのもあるが、紺くんは川辺まで落ちる様子をみせることなく、無事に辿り着けた。


――――――


水があるところには魔物が集まりがちだ。

だから普通の冒険者は、特に夜の水辺は警戒して近寄らない。

しかしフェンリルの場合、近づくと魔物の方が逃げていってくれるので、もうすっかり暗くなった今も比較的安全であった。


今も、水場には巨大なワニが陣取っていたが、フェンリルたちが近づくと慌てて水の中に逃げていく。

段々と小さくなるワニの後ろ姿を見送りながら、フェンリルは紺くんを降ろした。


森の中には優しく照らす月明かりと、月光を受けてキラキラと光る水面以外に明かりはない。

その為フェンリルは魔術で黄色の明かりを川のたまり……ワンドというのだったか、の周りを囲うように空中にぐるりと出現させた。

イメージ的には温泉街の提灯だったが、なんだか人魂のようになってしまったのはご愛嬌だろう。


そして囲ったワンドの底に、じんわりと火魔法を放った。

何度か温度調整を繰り返したのち、丁度良い湯加減になると、紺くんに入るよう勧める。


「先に入れ。湯加減はどうだ?」

「では、失礼します」

紺くんが靴を脱ぐと、そっと足を水面にのばした。が。


「待て服を脱げ、代えがないだろう」

そんな着の身着のまま湯に浸かろうとする紺くんを、フェンリルが慌てて止めた。


「え!しかし、見苦しいので……」

そう言って拒否する紺くんに向かい、「別に貧相な身体くらい気にしない、冷えて風邪を引く方がまずいだろう」とフェンリルがフンと鼻を鳴らすと、紺くんはおずおずと服を脱ぎ始める。


一方、そうは言ったものの、(身体が気になるお年頃なのだろうか?無理矢理入浴させたことはセクハラになるだろうか?)と時間差で気になってきたフェンリルは、紺くんからしっかり首ごと目線を逸らし、見てませんよアピールをしておく。

これで気にせずに温まることができるだろう。


「で、どうだ?湯加減は」

「……とても気持ちいいです」

紺くんがふう、と息を吐きだす音が聞こえ、安心する。


「なら俺も失礼するぞ」

フェンリルはトプンと自身もワンドに浸かった。


それがまずかった。

フェンリルは自身の身体の大きさを見誤っていたのだ。

フェンリルの巨体を一気に迎え入れた小さなワンドのお湯は勢いよく溢れ出し、ザプンと軽い紺くんをワンドの外へ流し出してしまった。


「わああ!」

「うわ!?すまん!」


慌ててフェンリルが人型になるも、後の祭りで、紺くんは頭まで全部ビショビショになった状態でワンドの外に尻餅をついていた。


ザバリとフェンリルがお湯から上がり、紺くんを助けおこしに駆け寄る。


「大丈夫…………」

そして紺くんの背中を見てビシリと固まった。


とたん抑えきれない怒りがブワリと吹き出すのを感じて、フェンリルの綺麗な顔にギュッと深く皺が寄る。


紺くんの背中には、無数の鞭打ちされた跡、暴力を振るわれた跡があった。


「この傷……誰にやられたの?」

なるべく感情を抑えて聞いたつもりだったが、それでも紺くんはフェンリルの怒りを感じとったようだった。

ビクリと身体を震わせると、「いや、これは僕が悪いんです……」と蚊がなくような声で呟いた。


「ふうん、何したらこんな罰受けんの?」

無数についてる傷のうちの1つをトンと示しながらフェンリルが聞くと、紺くんはちらりとその箇所を見て、おずおずと話し始めた。


「そ、れは……目が、合ってしまい、不快な思いを……「はあ?」ッ」

フェンリルが思わず犬歯を剥き出しにして聞き返してしまうと、今度こそ紺くんは縮み上がって押し黙ってしまった。


「……まあいいや」


(様々な難癖をつけられては痛ぶられてきたのだろうことはわかったし、聞くだけでもイラついてしまいそうだ。それによって紺くんを怖がらせるのは本意ではない)


ふう、と自身を落ち着かせるために大きく息を吐き出すと、フェンリルは紺くんの背中に手を置いた。


「ハイヒール」


紺くんの傷口がほのかに光り、みるみる塞がっていく。

一瞬村に行くまでは証拠として残しておいた方がいいかと思ったが、痛々しくて可哀想だという気持ちが勝った。


フェンリルに言わせれば、服で隠れるところを集中的に狙って傷つけるやつに碌なやつはいない。


(村に着いたら絶対犯人を炙り出してやる)

そう決意すると仄暗い笑みを浮かべた。


「あの、ありがとうございます。」

目を丸くして自身の傷が消えて行くのを見守っていた紺くんが恐る恐る口を開いた。


「……別に。……あー!違うんだ、紺くんに当たりたいわけじゃないんだ、ただ無性にやるせないってだけだ。ごめん」

どうしてもまだ見ぬ村人への怒りが消し切れていないようで、喋ったときに威圧感が出てしまったらしい。


紺くんがビクリと肩を震わせたのを見て、フェンリルは頭をガシガシ掻きながら立ち上がった。

そして豪快に服を脱ぎ捨てると、アイテムボックスに収納する。

うっかり水の中で人型になってしまったため、びしょ濡れで不快さを増していた。


「うわっ!?」

そして紺くんをひょいと小脇に抱えると、再び湯の中にザブリと戻る。

湯は少し冷えていたので、また魔術でそっと温めた。


湯が先程より熱くなると、フェンリルは両脚を伸ばし、両腕をワンドの縁にどっかりと置くと、頭上に広がる満天の星空を見上げた。


「はあ〜あ」



そんなフェンリルの一連の行動を身体を縮めながら無言で見守っていた紺くんは、そっと耳の下までゆっくり浸かると「ありがとうございます。……こんなに優しくしてもらったのは初めてです」と泣きそうな表情で、顔を赤くしながら呟いた。


「……ん、しっかり身体温めるんだぞ」

フェンリルはそう言うと、目をゆっくり閉じた。


しばらく二人の間に沈黙が落ちる。


しかしすん、と隣から啜り泣く音が聞こえてきて、気まずくなったフェンリルは、ゆっくりと紺くんとは反対の方向へ顔を向けた。


(石鹸とかシャンプーはこの世界にあるんだろうか?よくある異世界ものでは自作して流布したりするけど、俺は作り方なんて知らないしな……)


気を紛らわせるためにも、ぼんやりととりとめの無いことを考えていく。


(これからどうしようかなあ……とりあえずは紺くんの村に行くとして、そのあと……帰ったらゆっくり考えたいな)


身体が温まると、フェンリルは身体を起こし、顔を洗った。

濡れた頭も、紺くんに一言断ってから、お湯の中でもみ洗いする。

そしてついでに恐縮して更に縮み上がる紺くんの髪もワシワシと洗ってやる。

フェンリルが混乱して頭痛がしていたときにマッサージしてくれたから、そのお礼だ。

きっとさっぱりしてくれたと信じたい。


お湯から出て紺くんは服を着、フェンリルは狼の姿に戻ると、1匹と1人は洞窟に戻った。


「俺の寝床使っていいから、寝なさい」

(臭かったらごめん!けど毛皮とかあるし、床で寝るより全然柔らかくていいよ!)

心の中で一生懸命補足しながらフェンリルが自らの寝床を勧めた。

しかし紺くんはすぐには頷かなかった。

ちらりとフェンリルの方を見、再び寝床を見やる。


「フェンリルさまも一緒に寝てくださるのですよね?」

「ん?」

「この寝床には二人で寝るのに充分なスペースがあると思います。まずはフェンリルさまに寝ていただいて、空いてるスペースを使わせて頂けたら、僕はそれで大丈夫です!」

ありがとうございます!と、にこりと紺くんが笑った。


(うーん、つくづくいい子だ)

フェンリルは感心しながら寝床に横になって、丸まった。


「なら、俺の首にでも寄っかかって寝るといい。それなら冷えもしない」

「……!ありがとうございます」

フェンリルがうなじを伸ばすと、紺くんがそこにそっと寄りかかった。

こっそり抱きついてさりげなく……モフモフ……いやスリスリだろうか?をしている。

この感じ、恐らく無意識のうちにやってしまっているのだろう。


(魔物への執着がすごいな)

フェンリルは苦笑いした。


会話が途切れ、洞窟内は静寂に包まれる。


フェンリルは目を瞑り、今日のことを振り返ってみた。

紺くんの過酷な現状を知ってからは、必要以上に干渉してしまっている気がする。このままだとテイムされるきっかけを与えたくないフェンリルとしては、まずい動きなのだろう。


(でも結構いい印象は与えられてる気がするし……)


そのまま紺くんのことをぼんやりと考える。

というか、俺ではなくいい子すぎる紺くんがいけないのだ。

そして今度はまだ見ぬ村人達へと思考が流れていく。


(なんでこんないい子を虐めてんだか……)

イライラが再発し、不快な波となって押し寄せてきた。

感情を抑えられなくなり、ゆっくりと目をあける。



「……ねえ紺くん」

「はい?」

フェンリルは、紺くんに見えていないのをいいことに、ニヤリと口だけ歪めた。


「明日、俺を君の村に連れてってね」

紺くんはハッと息を呑み目を見開いた。

「……分かりました」


紺くんは、期待と後ろめたさがごちゃ混ぜになった感情を落ち着かせようと、自身の膝抱えて、ぎゅうと目を閉じた。


「ん。じゃ、おやすみ」

フェンリルも大きく息を吐き出すと、目を閉じた。


「おやすみなさい」

挨拶してからしばらくすると、紺くんの穏やかな寝息が聞こえてくる。

フェンリルもだが、紺くんにとっても今日は色々あって疲れたはずだ。いっぱい休んでほしい。


(……さて)

一方フェンリルはすぐに寝るわけにはいかなかった。

この先のことや、自身のこと。考えておかなければいけないことが山積みだった。


(明日はひとまず紺くんの村へ行くとして……そのあとどうするかだな)

フェンリルとしては村に行き、紺くんと村人の間をとりなし、少し滞在させてもらう間に紺くんの面倒をみる――当初はそれくらいの認識だったのだ。


(正直甘すぎる認識だった)

紺くんの傷を見る限り、村人の中には軽い悪戯程度ではなく、明確な敵意を持って主人公を虐め……虐待と言った方がいいのかもしれない、をしている奴がいる。


そんな奴がいる場所になんて、本音を言えば帰らせたくもないが、紺くんの家もあるし、その悪人をのうのうと生活させたままにはしたく無い。


フェンリルは明日犯人を探し出し、もう悪さをできないようにきつく焼きを入れるつもりではある。

しかし物語の強制力がどれくらいあるかもわからないし、自分の目の届かないところに紺くんを放置したくない。


(…………連れてって、一緒に、のんびり旅をするのもいいのかもしれない)


ここにいる紺くんは、まだ性格が歪む前のいい子だ。

フェンリルはこんな子が虐められているのを目の前でただで見逃せるほど臆病で穏やかな性格ではない。


それにこの世界の運命力とやらがどこまで働くのか、フェンリルは知らない。


この先村の件が片付いても、別の所で、また虐めが始まるかもしれない。

さらにその結果、フェンリルの仲間達がテイムされ、魔王にやられ、世界が滅んでしまうかもしれないのだ。


(それは阻止したいよな〜)


ならそのためにできることは。

フェンリルは4つのことを決意した。


1. 主人公の性格が歪まないように側で見張る!


2.主人公を将来騙されない男にするためにちゃんと育てる!


3.各地に散らばる神獣に会って、魔王討伐を手伝ってもらえるよう言い含める!


4.魔王倒す!


(主人公の闇堕ち阻止して、魔王も倒しちゃえば、きっと世界は平和だよね?)


小説のストーリーを考えれば、長くても5〜10年くらいの旅だ。

フェンリルの寿命の長さから考えれば、むしろ短くすら感じるに違いない。


(味見しちゃってるハプニングはあったけど、紺くんが本格的に闇堕ちしちゃう前に記憶が取り戻せたのは、ラッキーだったのかもな)

フェンリルは目線だけで洞窟の外を見た。


見渡す限り一面の森。

その向こうに聳え立つ城塞都市がある。

夜だというのに、まだ明るく光っており、煙が幾つかの建物から登っている。


ふと黒い影が、その城塞都市の上を綺麗な円を描いて旋回した。


(あれは……ドラゴン?比較的小型のワイバーン種かな?)


フェンリルの大きく開かれた瞳がきらりと光った。


前世の記憶が戻った今、フェンリルはこの洞窟から出て外の世界を見てみるのもいい気がした。

今思えば、洞窟と森の行き来だけで数百年なんて、よく退屈で死ななかったと思う。


……もちろん、フェンリルにだって洞窟に引き篭もる理由はあったのだが。


その理由は、女神エルサだ。

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