58. ギルド パディス支部
「おお……!え?まさかあの建物が……建物?いや、メインは崖か?」
衛兵の指した先を見て、ルルフェルは感嘆の声を上げた。
パディスのギルドは、ルルフェルが前世で見たことないような形をしていたからだ。
端的に言えば、ぱっと見それは高い崖だった。
ルルフェルたちは、川に沿ってほぼ真っ直ぐ歩き続け、海まで来ていたのだが、半円を描いた形をしているパディスの海岸の両端には、人工的に作られたのだろう、非常に高く切り立った立派で巨大な崖が、船着場を囲うように斜めに聳え立っている。
さらに特徴的なのは、その崖の中に部屋や建物が沢山あるらしく、崖のゴツゴツした岩肌にそのまま窓がついていたり、建物が崖から突き出した状態で建てられている所だった。
「まあ、崖ですな、地元では右崖と呼ばれています。あちらの3階にギルドの入り口があるんで、右崖の裏を上って行きます」
衛兵は口髭をひと撫でしながら頷いた。
衛兵に案内されるまま、ルルフェルたち一向は右崖に向かって進んでいたが、ふとセブンが「スティングホースたちはどうします?」と衛兵に問いかける。
「ギルドの側に置くところがありますよ、あとは少し戻りますが、馬を預かってくれる場所もあります」
衛兵が指で後ろを指差した。
「戻るの面倒だし連れてこうぜ」
ククルトゥスがスティングホースの手綱を引っ張る。
ルルフェルは、「アイテムボックスに生き物も入れることができたら良かったんだけどなあ」と呟いた。
「いれられないんですか?」
紺くんが聞いてきたので、ルルフェルは肩をすくめた。
「入れられるかもしれないけど、試したことがないな。入れて、出したら死んでた、とかだったら悲惨すぎるだろ」
――――――
崖の側面に作られた、頑丈でそれなりに幅のある、横に10人くらい並べそうな広さの階段を登り、ルルフェルたちは街の反対側、海に面している方の崖の3階に到達した。
街からの眺めではわからなかったが、崖の中腹には、海の方に突き出すように、立派で大きな建物の入り口が造られていた。
まさにここが、ギルド・パディス支部の入り口のようだ。
ククルトゥスたちが、入り口の側の空いているスペースにスティングホースたちを繋ぐ。
少し足を伸ばせば、崖の下にザザンと絶え間なくあたる波の様子を見ることができるような場所だ。
スティングホースたちは賢いので落ちることはないだろうが、もう連れてこない方がいいな、とルルフェルは思った。
ククルトゥスはともかく、セブンや紺くんも同じ考えだったようだ。
セブンは離れる前にスティングホースたちに「すぐ迎えにくるからね」等の安心させる言葉をかけていたし、紺くんはルルフェルにこっそりお願いして出してもらったルミナスモスを、なるべく端から遠い所に置いて差し入れしてきていた。
ギルドの大きな入り口と、その前にちょこんと立つ衛兵を、ルルフェルは交互に見比べた。
(入り口がデカすぎて、人の力じゃ開けらんなくないか?)
そう思いながら興味深く衛兵の一挙一動を見守る。
するとルルフェルの驚くことに、衛兵がコンコンと軽くノックすると、なんと重々しいドアが、自動でゆっくり開き始めた。
誰かの魔法か!?とギルド内に足を踏み入れてキョロキョロしたルルフェルは、入り口のドア付近に2匹の、口を鎖で繋がれた大きなタツノオトシゴのような魔物がいることに気がつき、目を見開いた。
軽く3mはある、その両端のタツノオトシゴが首を動かしてドアを毎回開けているようだ。
皮膚が分厚い鎧のような見た目で、重苦しい雰囲気を醸し出しているタツノオトシゴたちの顔の周りには、中に気泡の沢山浮かんでいる水の塊が、剥き出しでボワボワ浮かんでいる。
恐らくその水越しに呼吸しているのだろう。
口をうっすら開けたまま、首を精一杯曲げてタツノオトシゴたちを見上げていた紺くんが、そっとルルフェルの洋服を掴んだ。
その頭を、ルルフェルはポンと優しく叩く。
「ここには優秀な水の魔法使いがいるみたいだね」
紺くんは怖さを感じているみたいだが、パディスのギルドが、今まで以上に異世界みが溢れる建物だったので、ルルフェルの前世の人格は大喜びしていた。
ついキョロキョロと辺りを見渡してしまう。
パディスのギルドの正面玄関は重々しい装飾で飾り付けられており、室内もなんだか暗く、重厚な雰囲気だった。
奥には様々な受付窓口が設置されており、その手間には低めのソファが設けられている。
ギルド内には、広い割にルルフェルたち以外に殆ど人がおらず、パディスの街の厳しい現状を物語っているようだった。
衛兵に続き、正面から逸れ、壁際の沿って進んで行く。するとルルフェルは、途中の壁際に、依頼一覧やお知らせなどの紙が貼り付けられているボードを見つけた。
(やっぱり海での依頼が多いのかな)と思って覗き込んだら、なんとボードの真ん中辺りに、自分のココラスで出してもらった号外が貼り出されている。
ゲ、と思い目を逸そうとしたら、あることに気がついた。その号外の挿絵の狼の顔の部分に……ピンが突き刺してある。
いくら誇張表現の多い記事とはいえ、自分の顔に針が突き刺さっているのはあまり良い気はしない。
(やっぱり神獣であることが関係してるんだろうな)
ルルフェルは眉を顰めると、スタスタとギルド内を進んで行く衛兵の後を追った。




