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神獣フェンリルはテイムされたくありませんっ!〜けど俺をテイムするはずの主人公に義務教育が足りてなさすぎるのでまずは教育しようと思います〜  作者: 咲田陽
第3章 港町パディス

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57. パディス

パディスは、ココラスとは全然雰囲気の違う街だった。


というか、気温からして明らかにココラス周辺とは違う。海の方へ近づけば近づくほど、夏らしい湿気を含んだ暑さが、むんわりとルルフェルたちを包み込んだ。


あるときククルトゥスが、バサリと羽織っていた上着を無造作に脱いだので、ルルフェルが「暑くなってきたな」と言うと、「パディスの周辺は魔力の関係で通年暑いからな、きっと近づいたらもっと暑くなるぞ」と返された。


この世界では、なんと四季は時間により巡るものではなく、場所によって変わるものである。

地面に染み込んでいる魔力の関係で、四季が存在する場所もあるが、大体の場所の気候はそこまで変動しない。


フェンリルとしては知っているが、前世の自分から言わせてもらったら「ファンタジーの世界だよねえ」という感じで、ルルフェルはそわりとした。


「そろそろ関門ですね」

セブンの言葉に、前を見る。

もう港町パディスへの入り口は、ルルフェルたちの目と鼻の先に迫ってきていた。


――――――


ルルフェルたちの辿った川は、パディスの入り口の手前で、人口的に3本に分けられており、漢字の十のような形になっていた。

1本はそのまま真っ直ぐパディスの中心を通り、他の2本は左右に分かれ、ぐるりとパディスを囲うような形で海へ流れ出ている。


つまり、パディスは川によって囲まれた地であり、パディス入るには、必ず川の上にある、どこかの橋を渡らなければならいようだ。


ルルフェルたちから1番近いパディスの入り口は、恐らく街で1番立派な正面玄関だと思われる、2本の高い塔の間にあった。


上から見たら、英語のXのような、あるいはバツ印のような形をした、大きく立派な橋が街の入り口にかかっている。

そのXの左右を流れる川の向こう側……つまり街側に、塔は橋に隣接するように聳え立っており、橋の上には衛兵たちが立っている。

また橋の頂上辺りにはイベントなどでよく見るような大型のテントが幾つか建てられているので、恐らくそこで身分証などを確認されるのだろう。


恐らく、といったのは、現在ルルフェルたちと衛兵たち以外には人がおらず、わからなかった為だ。


ルルフェルたちが橋をのぼってテントの側まで行くと、肘をついて、暑そうに手をうちわ代わりにしてあおいでいた衛兵のうちの1人が、ハッとして駆け寄ってきた。


「ええと、パディスに入るのか?なら通行料、大人1人につき銀貨1枚だ。子供と馬は銅貨8枚」

「銀貨1枚!?銅貨の間違いじゃないのか」

衛兵の言葉に、ククルトゥスが目をひん剥いて驚いた。

確かココラスの時は通行料銅貨3枚だったので、その3倍以上の値段である。


「別に俺が決めた訳じゃ無い!ほら、払いな。あんたらの見た目がいいからって値引きできないからな!」

衛兵は苦虫を噛み潰したような顔をしながら手を出してきた。

テントにいた他の衛兵たちも、様子を見に、わらわらと近づいてくる。

その内の数人が、ルルフェルと紺くんを見てヒソヒソ話し始めた。


その顔は、暑さからだろうか?少し赤らんではいたが、ルルフェルは全員、どことなく疲れていそうな印象を受け、顔を歪める。

そしてふと自分がまだ紺くんを抱えたままだったことを思い出し、慌てて紺くんをぽすんと下ろした。

どうりで、あんなに見られる訳である。


ルルフェルは、ここで争っても無駄ですよ、とセブンに諌められている、まだ文句を言いたげなククルトゥスを横目に、アイテムボックスを開いた。

そして結局衛兵たちに銀貨7枚と銅貨2枚を払っていると、他の衛兵よりも少し歳とった感じの、これまたくたびれている衛兵が1人、ルルフェルの元へ駆けてきた。


「ちょっとお待ちください!」

その衛兵……細くて小さく、ちょびっと口髭があった……はルルフェルたちの元へ辿り着くと、少し息を整えてから、1度咳払いした。


「ええと、お名前を伺ってもよろしいか?」

「ルルフェルです」

念の為、衛兵にギルドカードを見せながら答える。

すると衛兵は「やはり!」と指をパチンと鳴らした。


「パディスのギルド支部長がお呼びです。私が彼の元まで案内しましょう」


――――――


「少し遠いのですが」

そう言って、衛兵は歩き出した。

街の入り口から見て右側の方へ降りると、そのまま中央の川に沿って、海に向かって歩いていく。


橋の上や川沿いからはパディスの街並みがよく見えた。

広い川の上には、沢山の小さな船が所狭しと停めてある。

そして地上には、ココラスのような、基本茶色い建物とは全然違う、明るい黄色やピンクや青といったカラフルな家々が、これまた所狭しと並んでいる。

そして、どの建物もオレンジ色の屋根をしていた。


セブンがキョロキョロと辺りを見渡した。


「随分静かな街ですね」

「そうだね」

見た目の華やかさや、街全体を包む暑い気候からは、今にも人々の賑わう明るい声が聞こえてきそうな印象を受けるのに、実際は酷く静まりかえっている。

露天なども僅かに出ているには出ているのだが、どの店も品数が少なく、客が殆どいなかった。


列を外れ、露天の商品を覗き込みに行こうとしたククルトゥスが、少し顔を近づけただけで、すぐに顔を顰めて帰ってきた。


「腐った魚を売ってたぞ!?」

「数ヶ月前まではこんなんじゃなかったんですがね……」

衛兵は悲しそうに首を振った。


(確かに酷いな、ブルーファントムが出ていく選択をしたのも頷ける)

改めて街を見渡し、ルルフェルは大通りに面している店の閉まっている率の高さに、眉を上げた。

しょんぼりしながら、すぐ隣の、大きな蟹と魚の飾りが店の正面上にくっついている店を通り過ぎる。

あの店は絶対に飲食店である。


ルルフェルが引き続き辺りをキョロキョロ見渡していると、幾つかの家の窓から、こちらを覗いている興味深そうな目と目が合った。

中には子供の姿もあり、ルルフェルはふとココラスで見かけた連れ去られかけた子供たちの姿を思い出した。


「そういえば、ここでも子供の誘拐とかは多かったのか?」

街並みを見ながら、前を行く衛兵に話しかける。


「子供の誘拐ですか?いいえ。そりゃ経済的に物乞いをする子供は増えましたがね……逆にそういった子たちが増えすぎてしまって困っているくらいですよ」

「え?そう……」

ルルフェルは首を傾げた。


離れたココラスにまで子供を連れ去る為に手を伸ばしているくらいだ。海賊の拠点地のパディスともなると、もっと酷いものだと思っていたのだが……。


(パディスの子供たちは栄養状態があまり良くないから働かせづらいとか?)


ルルフェルはしばらく俯いて考えていたのだが、衛兵の「もうすぐ着きます」という声に、顔をあげた。





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