56. 今度こそ出発だよ
「俺らはパディスには行けない」
リダスは、やや恥じるようにそう言った。
ルルフェル達がパディスに向かうことをブルーファントムのメンバーに伝えたら、リダスは何か眩しいものでも見るかのような目でこちらを見つめた。
そして、先程の言葉である。
ルルフェル達が黙っていると、リダスはわざと明るくガハハと笑いながら手で後頭部を掻いた。
「いや、別についてきて欲しい訳じゃ無いことはわかってるんだけどな!」
「大丈夫、分かってるよ。ありがとう」
ルルフェルが言うと、リダスはじっとルルフェルを見つめた。
「パディスで何が起こってるか分からねえけど……解決してくれよな」
「……なるべくそうできるようにするつもりだよ」
嘘は言っていない。1番大きな目的は神獣探しだが、その経過で自分ができることは積極的にするつもりである。
ルルフェルがこくりと頷くと、リダスが小さく笑う。
「神獣様にも解決できないんじゃ、もうこの世の誰にも解決できないんじゃないか?」
「さあね」
ルルフェルは肩をすくめた。
もしかしたら敵陣営にもその神獣がいるかもしれないんだよね、とは言わなかった。
「……最初に会ったとき。パディスにはすごく強いゴールドランクの冒険者がいたって話、しただろ?」
「ああ……ええと、確かポセ……?」
「ポセフィスだ」
リダスは頷いた。
「……ポセフィスの兄貴は本当に強くて頼れるお方でな、俺ら冒険者をまとめて面倒みてくれたりしていたんだ」
リダスの言葉に、ブルーファントムの面々が、頷き、悲しそうに俯いた。
一方リダスの拳にはグッと力が込められる。
「だから本当は兄貴が行方不明って聞いた時、俺たちは海に乗り出して探しに行きたかった……!けど……!」
リダスの、いまや身体全体に込められている力が、フッと弱まった。
「あんなに強くて、冒険者みんなの憧れだった兄貴が敵わなかった相手に、俺らが立ち向かえる気がしなかった……」
俯き、目頭を押さえたリダスの背中を、ブルーファントムの聖女が優しくさすった。
「俺らはここへ、むざむざ逃げてきたんだ……ッ」
「もし敵がゴールドランクの冒険者をも屠れるような相手なら正解だな」
側で聞いていたククルトゥスが頷いた。
「行っても犬死するだけだ」
「作戦、命大事に!だね。リダスはパーティーメンバーを守ったんだ、正しい選択をしたと思うよ」
ククルトゥスの言葉を押しやるように、慌ててルルフェルが必要以上に大きな声で言うと、リダスは小さな声で「ありがとう」と呟いた。
そして真っ直ぐルルフェルを見た。
「でも、兄貴は行方不明だ。まだやられちまったって決まった訳じゃない。だからもし大丈夫だったら、ポセフィスの兄貴たちの行方も探してやってくれ」
リダスは深々と頭下げた。
他のブルーファントムのメンバーたちも、同じように頭を下げる。
「言われなくても、そうするつもりだよ」
ルルフェルは笑った。
――――――
またどこかでなー!と手を振っているブルーファントムの面々が、どんどん小さくなって遠ざかっていく。
ルルフェルたちは墓地を出て、パディスへ真っ直ぐ向かっていた。
ルルフェルは自分のペースでパディスへ行くつもりだったのだが、少しペースをあげたら、ククルトゥスたちの跨っているスティングホースたちから抗議の「ブルルルァ!」という声が聞こえてきたので、一緒に走っている。
更には、ククルトゥスとその馬が、「俺もバリアの上走ってみたい」「ブルル」と主張してからは、全員で一緒に森の上をバリアを敷いて走っている。
ルルフェルは、いつもは自分の足元だけに出現させているバリアを広範囲に渡って出し続けなければならなくなったが、まあ修行にもなるんじゃない?と軽い気持ちでオッケーを出した。
(自分だけ、ちょっと墓地でぬくぬく過ごしすぎてしまった気がしなくもないし)
ちなみに途中ですれ違う冒険者や商人ぽい人たちからは、ポカンと口を開け放った間抜けな表情のまま見送られたり、お互いにどつき合いながら指をさされ、何かを話された。ちょっと恥ずかしかった。
そうこうして走り続け、途中で狩りに野宿にの生活を続け、早3日。
森を抜け、平野を横切り、幾つかの小さな村を横目に進んだ。
そしてルルフェルたちは。ここ数時間の間は、大きな川に沿って走り続けていた。
地図によれば、この川を下っていけば、目的地のパディスである。
思った通り、進み続けると、舗装された道に出た。
そして遠くには大きな白い塔が2つ、川の両隣に建っているのが見えてくる。
ルルフェルたちは乗っていたバリアから降りて、道に足を下ろした。
「街の人を警戒させたくないし、そろそろ人型になるよ」
ルルフェルはそういうと、紺くんを乗せたまま人型になった。
丁度……というか、大分街に近づいてきているのに、人の姿がここしばらく見えないので、変身するにはいいタイミングだろう。
「えっ」
途端、ルルフェルの上に乗っていた紺くんが何も無い空中に投げ出されたが、落ちたところを人型のルルフェルに抱きとめられた。
「!!!」
流石にこの歳でお姫様抱っこのような格好は恥ずかしかったのだろう、紺くんは途端に茹でられたタコのように真っ赤になる。
しかしルルフェルは特に気にするでもなく、ひょいと紺くんを抱っこするようなポーズに持ち替えた。
「る、ルルフェルさま!?」
「このまま走るから、しっかり捕まってて」
そう言って、吹っ飛ばされないように紺くんをギュッと抱きしめると、ルルフェルは人型のまま走りだした。
「うわわわわわ!」
紺くんが慌ててぎゅうとルルフェルの首元に抱きついた。
狼の時より遅いし、揺れるしで乗りづらいだろうが、これはもう慣れてもらうしかない。
(おお〜すごいぞ神獣!人間のときでも脚に魔力込めればビュンビュン走れるぜ〜!たのし〜い!)
走りながら、ポカンと驚いて足をとめたままのククルトゥスたち3人を振り返る。
「おーい、早く来ないと置いてくぞ〜!」




