55. 修行パートって飛ばされがちだよね
パディスへ行くまでの2週間の大半を、ルルフェルたちは墓地を中心の拠点として過ごすことにした。
墓地内は閉ざされた空間だが、周りに魔物の気配はなく、水場もあるし、雨風も凌げる。
ブルーファントムのメンバーも、リダスがもっとククルトゥスと戦いたいとかで、同じ場所に留まった。後述するが、食料問題が解決されたので、反対する者は誰もいなかった。
“ルルフェル様の弟子”、という自認を得てからの紺くんの成長とやる気は、それはもう凄まじかった。
そして毎日の忙しさも、見ているルルフェルの方が疲れてしまうほどであった。
朝は早朝から起床し、ルルフェルから預かった食材で皆の朝食を作った後、ククルトゥスたちと合流し朝の訓練。昼は休憩も兼ねてルルフェルと座学を学び、午後からは共に狩りに出かけた。
帰ったら色んな人と訓練し、経験を積み、夜は料理の研究をしつつ、ルルフェルと座学をしたり、本を読んだりして過ごす。
更に寝る前には、毎回ルルフェルの毛をブラシでといてくれる。これは紺くんのとかすときの表情からルルフェルが思うに、紺くん自身にもご褒美になってはいるようだが……。
(毎回櫛についた毛を律儀に回収するから、とかし終わった時点でどれくらいの毛が取れたか、俺が確認するようになっちゃったんだよね)
ちなみに何故集めているのか、というルルフェルの質問にはもごもごと口篭るだけで、答えてはくれなかった。
その為、ルルフェルが、(売るときは気兼ねなく売っていいんだぞ。許す)、の気持ちを込めて紺くんをじっと見つめたら、真っ赤になって倒れ込んでしまった。
ルルフェルはこれを、恐らく自分に紺くんの魂胆がお見通しになっていて、恥ずかしかったのだろうと結論づけた。
(本当にこの子が将来闇堕ちする予定だったのか、ちょっと不思議に思うくらいの純粋さだよなあ)
一方ルルフェルはといえば、紺くんの食事に舌鼓を打つことから始まり、一応先生だしなと思った時だけ、訓練中にあーすればいい、こーすればいいと好き勝手に口を出すのみで、あとはよく他の一般的な犬がするように、ごろりと横になり観戦を決め込んでいた。
当然狩りは真面目にするが、あとの時間は紺くんに時折勉強を教える傍らで、図鑑や気になった本を読むくらいである。
ルルフェルは戦闘自体は嫌いではないので、誘われたら戦うが、自分からはあまり行かなかった。
一度リザリオの人形1体を、手加減を間違えて木っ端微塵にしてしまったのも原因かもしれない。
たまたまククルトゥスとセブンとリザリオ、3人を一気に相手にしているときに、急に背後にリザリオの人形がきたので、つい風魔法を放ってしまったのだ。
結果、リザリオの人形は無数の破片と化した。
人形には名前が付いていたらしく、「ヴィンセント……」と悲しそうに破片を拾い上げるリザリオに、ルルフェルは申し訳なさそうに「ごめんヴィンセント……」と謝り、そっとリッチのドロップ品の一部を渡すことしかできなかった。
ちなみに渡したのは、台座に踊っているポーズの小さな顔のない人が、沢山彫られている、ライムグリーンのペンダントだ。
なんだかリザリオの人形に通ずるものがあるし、造形が断トツに細かくて、売ったらそれなりの金になるんじゃないかと思う。
(でも、人間じゃなくて良かったよ、ほんと)
ルルフェルは耳を後ろに垂らしながらも、心の中ではそっと胸を撫で下ろしていた。
即死なら、ルルフェルですら、助ける術は無い。
それ以降、ルルフェルは紺くんたちの訓練の間は、じっと観察し、動体視力の向上……とまではいかないが、退化させるようなヘマだけはしないようにしている。
狩りについてなのだが、ルルフェルたちが出発した日は、たまたまメイリンの森に魔物が最もいなかった日だったようだ。
森に滞在している冒険者数の減少に伴い、僅かではあるが、鹿系の魔物たちに加え、オークやゴブリンの群れが移動してきたのが確認された。
ブルーファントムパーティーが墓地に留まれたのも、こうして食料調達の目処がついたからでもある。
この調子でいけば、少しずつメイリンの森は魔物の数を増やしていくだろう。
ちなみに、魔物が狩れなかった場合のことを話し合った際、「いざって時は……」とククルトゥスが自分のスティングホースを見つめたことが、見つめられた当馬は大変気に食わなかったらしく、それ以降ククルトゥスが跨ろうとすると、不機嫌そうに鼻を鳴らすようになった。
「いざってときはココラスにもどる!俺はそう言いかけたんだよ!」
一度後ろ脚で蹴られかけたククルトゥスはそう叫んでいたが、あれは馬刺しを見る目をしていたとルルフェルは思っている。
何はともあれ、だ。
あれよあれよと、1週間経ち、更に数日が経ち……気がつけばそろそろ港町パディスへ向かわないといけない頃になっていた。
「いだあっ」
パカン!という音と共に、セブンの声が墓地内にこだまする。
「おお〜!」
ルルフェルは目を丸くして尻尾を振った。
紺くんとセブンが木の棒で戦っていたのだが、とうとう紺くんがセブンから1本取ったのだ!
「すっごく成長したね、紺くん」
「はい!全てルルフェル様のご指導があったからです!」
(うーんそうか〜?)
可愛らしくも、ちょっと男の子みが上がった紺くんのキラキラとした笑顔で見つめられてしまい、ルルフェルは右上に視線を泳がせた。
なんだか最近の紺くんは、更にルルフェルに対して盲信的になってきているようで困ってしまう。
とはいえ、敬われること自体は、テイムされる危機から遠ざかっているという意味だ。
その為ルルフェルは特に否定はせず、にこりと微笑むだけにして、なあなあにして受け流す。
「セブンはうちの隊の中で2番目の剣術使いなのに、すごいな」
ルルフェルの隣に胡座をかいて座り、同じく試合を観戦していたククルトゥスが話しかけてきた。
「ちなみに1番は俺だ」
「でしょうね」
ククルトゥスは声の大きさを上げ、紺くんに向かって声をかける。
「小柄な体格を生かして後ろに回り込むのが、どんどん上手になってきてる。この場所出る前に1本取れて良かったな」
「いっててて……いやあ、来るの分かってたはずなのに、反応できない速さでしたよ。上達しましたね」
紺くんにやられた腰を摩りながら、セブンもコメントした。
(いや2人とも俺より全然師匠ぽいこと言ってる〜!)
ルルフェルは目を閉じ、フッと微笑み、しばらく現実逃避してたが、頑張って逃避から戻ってくると、言った。
「じゃ、そろそろパディスに向かおうか!」




