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神獣フェンリルはテイムされたくありませんっ!〜けど俺をテイムするはずの主人公に義務教育が足りてなさすぎるのでまずは教育しようと思います〜  作者: 咲田陽
第1章 魔の森

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★ 番外編 ???視点 前

こちらは本編とは関係ない番外編です。


神獣フェンリル様。

その美しい巨体が空から降ってきた日を、私は生涯忘れないだろう――


――――――


私の名前はニコラス。


今は自分の身分を隠し、ただの冒険者として魔の森に来ている。


全ての始まりは、父が継承権を得るために幾つかの条件を、私と私の弟に宣言したことだった。


「その条件をクリアしないと、儂の後は継がせられない」

父は、はっきり宣言して私たちを送り出した。


私と弟に与えられた条件はそれぞれ違い、私に与えられた条件は、自力で宝石鳥の羽根を手に入れ、献上することだった。


宝石鳥。


全身がキラキラと煌めいている、長い尾を持つ非常に珍しい鳥で、その見た目から家紋や様々な繁栄の象徴として使われている。

そして何より、その全ての風切羽根の真ん中に、実際に大きな宝石がついているのが最大の特徴だ。

この宝石を所持することは、家が繁栄している証拠になると言われており、年々その市場価値は高まっている。


その希少性から市場に流通することは殆どないし、したとしても、すぐに買い手がついて消え失せる幻の鳥。


この鳥を仕留めた冒険者は、その後一生遊んでも使いきれない富を得られると言われている。


(こんな無茶な条件、父さんは何を考えているんだか……)

私は魔の森の、頭上より遥か遠くまで伸びている木々の葉を見つめた。


弟に出されていた条件も、内容こそ違えど、同じくらい無謀なものに思えた。

案外、父は私たちには家督の座を継いでほしくないのかもしれない。


(隠し子がいるとか?……なんてな)


引き連れている4人の部下と共に森の中を進む。


本来、宝石鳥の討伐目安は腕の立つ冒険者、7〜10名ときく。


宝石鳥は警戒すると、その身体を発光させ、敵の目を潰す。そして迷わず眼球を狙って嘴を伸ばしてくる、その実大変攻撃性の高い魔物である。


だが今回人数が少ないのは、私達が宝石鳥の討伐ではなく、その居場所を突き止めることを目的としているからだ。


父が出した条件は、宝石鳥の羽根を取ってくること。

つまり宝石鳥の討伐の有無は関係ない。

宝石鳥の巣がどこにあるかを探し、そこに落ちている羽根を丁度できれば、条件達成となる。


ちなみに討伐ではなく巣の捜査を選んだ理由は、こちらに空を飛ぶ術がないからだ。

私がドラゴンにでも乗れたら討伐を狙ったかもしれないが、残念ながら1人ではドラゴンには乗ったことがない。


ザクザクと森の中を進む。

その景色は歩けど歩けど変わることがなく、俺の前を歩いている部下たちがいなければ、気でも狂ってしまいそうな不気味さを内包していた。


(1人で来なくて良かったな)

そう思うと同時に、私に4本の剣先が突きつけられた。


「……お前たち」

冷静に4人の部下を見渡す。


「申し訳ないね、皇子様」

部下からうちの1人がヒヒッと下品に笑った。

他の者達も、それぞれニヤニヤニタニタと笑いながらこちらとの距離をじわりと縮めてくる。


私はそっとため息をついて武器に手をかけた。


この部下たちは、弟からの推薦だった。

「兄さんを、守ってあげたいんです」とは、弟の言葉である。


――結局嘘だったんだな。


もう私を生かして帰す気はないのだろう。

目の前の4人の男たちが、聞いてもいないのに、武勇伝のようにぺちゃくちゃと、いかにして私を裏切ったかを語るのを見つめる。


私も薄情なものだ。


ふっと自重気味に笑った。

私は弟の言葉に疑問を持っていた。だからこの男たちだって、護衛に採用はしたが、その際に自分1人で彼らに勝てるかどうかを幾度となく念入りにシミュレーションしている。


スッと剣を鞘から抜き、構えた。


勝てる。


「おうおう、4対1なのに強気なこった」

「ふん、自分実力をわかってねえんだろ」

男たちがニヤつきながらハイエナのようににじり寄ってくる。


あと5歩で攻撃圏内だ。


あと4……3……2……


トスン!!!!!


目の前に黒い影がサッとよぎったと思ったら、天から美しい毛並みをたなびかせた狼が降ってきた。


――――――


フェンリル。伝説の神獣、フェンリル様だ。


俺は目を見開いた。

目の前が薄い金色のサラサラとした、太陽の光を反射し、煌めいてすら見える毛で覆われる。


同時に、ズッと凄まじい圧が自分にかかるのを感じた。


美しさと恐ろしさ。


その2つを、目の前の神獣は体現していた。


私も、恐らく他の4人も、ついさっきまで一触即発だったのをすっかり忘れ、身体すら動かせない圧に耐える。


と。


「ちょっと失礼」


フェンリル様が口を開いた。


「うわぁああああ!?ふぇ、フェンリル!フェンリルだあっ!」

場が乱され、弾かれたように動き出した4人が、無様な姿を晒しながら逃げるのを視界の端におさめる。


(もうあの4人はダメだな……)

私は、私の焦りとは裏腹に、頭のどこか冷静な部分で、そう判断した。


それはフェンリル様も同じだったようだ。

森の中へと消えていく4人の後ろ姿を一瞥すると、もう興味を失ったようだった。


そして私の方へ、向き直る。


カチャリ、と。私の剣が音を立てた。


私はこの剣を落とさないようにするので精一杯だった。

ギュッと柄を握りしめ続けることで、なんとか転倒せずに済んでいる。


……ここまでか。


覚悟を決めた次の瞬間。


「敵意はない。少し交渉がしたい」

フェンリル様が口を開いた。


「やはりしゃべっ……!交渉……!?」

正直私はフェンリル様の先程の「ちょっと失礼」という言葉は私の空耳かと思っていた。


魔獣が喋ったという前列はないし、幾ら神獣様といえど、人の言葉を発するとは思わなかったのだ。


それに相手は伝説級の存在。出会ったが最後、あっさり殺されて終わりだろうと……。


だが、私を更に驚かせる言葉が続いて発せられた。


「もしよかったら、服を一式譲ってほしい」


服!!?

一瞬神獣様の言うことが分からず、固まってしまった。


服……。私の、服でいいのだろうか?

何故私の服をお求めなのだろうか?

戸惑いを隠せないままでいると、フェンリル様の視線を感じた。

私の格好を上から下まで舐め回すように見ている。


その耳が、ふと後ろに倒された。

私はフェンリル様の眉間に皺が寄っていくのを見て、弾かれたようにアイテムボックスを出現させ、中から新品の、替えの服を取り出す。


「この服でどうでしょうか?」

汗が頬を伝って落ちた。


――――――


信じられないかもしれないが、恐らく私の背後でフェンリル様が私の服を着ていらっしゃる。


ポンという軽快な音がしたあと、服を着ている時に出るような、微かな布ズレやベルトの金属音が聞こえてくるのだ。


……フェンリル様は人間にも、なれるのだろうか。

だとすれば、要求された物が私の服なのも頷ける。


……フェンリル様は、私と似ている体格なのだろうか?

一体どのようなお姿なのだろうか?


先程の神々しい狼の姿を思い浮かべる。

私は後ろを見たい欲求に一生懸命耐えながら、目の前の木の割れ目の数を一生懸命数えていた。

ここで振り返ってしまったら、今度こそ殺されてしまうだろうから。


それでも一目だけでもお姿を拝見できないだろうかと考えていると、背後から「くっ……どうなってる!?」という声が、先程よりも低い位置から聞こえた。


カチャカチャ金属音も聞こえてくることから察するに、服に沢山ついているベルトで奮闘されているのだろう。


私も自分では到底着る気が起きず、メイドにやってもらっているため、少し親近感が湧く。


だからだろうか。

気がついたら、「もしよろしければ、お手伝いさせて頂いてもいいでしょうか?」という言葉が自分の口から溢れ出ていた。


フェンリル様の許可を得て、そっと振り向く。

心臓が早鐘を打っており、胸が苦しい。


私は伏せていた目を、ぱちりと上げた。


そこに立っていたのは、息をのむほど美しい青年だった。


さらりとしたゆるいカーブを帯びた長い髪がのび、芸術作品のようにフェンリル様のまわりを華やかに縁取っている。

またまつげは長く、鼻は真ん中にスッと形良く通っており、彫刻のように整っている顔は、よほどベルトで苦労したのだろうか、少し赤く、官能的で…………


バチリと目が合った。


フェンリル様の翠色の宝石のように輝く目に真っ直ぐ射抜かれ、心臓が1度大きく、ドクリと脈打つ。

完全に動きを止めてしまった私を不審に思われたのだろう、形の美しい眉毛が僅かに片方上げられた。


私の考えていることが見透かされてしまったかのような気がして、耐えられなくなり、パッと下を向き、身体が動くままにフェンリル様の足元に散乱しているベルトを1本掴んだ。

勢いに任せて、そのままフェンリル様に近づく。


「失礼します」

間違えてはいけないと、頭で必死に考えながらベルトを装着していく。

フェンリル様にベルトを装着する為に手をまわすときに触れる、優しい髪の感触が心地良い。


夢見心地の私は、ふわふわした感覚のまま、会話を何度か交わしながらも、なんとか無事にフェンリル様にお洋服を着せることに成功した。

満足気に短く息を吐き出す。


私と同じ服であるはずなのに、着る人が違うだけでこうも違って見えるのか、と感心する。


私とフェンリル様で並んで立ったときに、どちらが皇族かと問われたら、全員がフェンリル様を指すだろうな……そう思って少し恥ずかしくなった。


生きて帰れたら、もう少し自分の見た目に気を使おう。


そう考えていると、フェンリル様が口を開いた。


「礼に、もし街に行くなら送るがどうする?」

「えっ?」


思ってもみない提案に、フェンリル様を凝視してしまった。

私のことを気にかけてくださったのか?

……なんと慈悲深いお方だろうか。


と、感動していたら突然空高く投げ飛ばされた。


あ、同じことを幼児の頃にされたことあるな――


空中に投げ出された恐怖と思わぬ懐かしさを同時に感じ……衝撃。


「だッ」

私は舌を思い切っり噛んだ。

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