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神獣フェンリルはテイムされたくありませんっ!〜けど俺をテイムするはずの主人公に義務教育が足りてなさすぎるのでまずは教育しようと思います〜  作者: 咲田陽
第3章 港町パディス

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53. だってこんないい子なんだぞ

紺くんの勉強はつつがなく終わった。

前世の感覚で考えると、やっていることは幼稚園〜小学校1年生くらいの内容だし、紺くんはやる気に満ち溢れた10歳児なので、当然っちゃ当然なのだが。


「僕は!まだ!できます!」

「いや、やりすぎもよくないんだよ。特に今日疲れてるし」

と、むしろ終わらせるのに手間取ってしまった。

教本を取り上げられた紺くんは、少しでも覚えた文字を脳に刻みこもうとぶつくさ呟き指を動かしながら復習している。

本当に真面目な子だ。


この調子だと、文字や計算は大丈夫そうだな、と思いながらルルフェルは教本をアイテムボックスへ閉まった。


「終わったかい?」

そこへ、リダスがやってきた。

後頭部を掻きながら、ルルフェルのことを見上げる。


「いやあ神獣様は先生でもあったんだな、流石だぜ」


そして紺くんの方に向き直ると、優しい声で「幸運で頑張り屋な子だ、将来が楽しみだな」と言った。

紺くんは分かりやすく顔をピンク色にして、こくりと頷いた。


「で、どうしたの?」

「ああ、ここから少し歩いたところに水が溜まっているところを発見した。危険性のある魔物もいなさそうだし、良かったら水浴びでも、と思ってな」

ルルフェルが話しかけると、リダスがククルトゥスたちが開けた穴の先を指差した。

どうやらルルフェルたちが行った通路の先を探索してみたらしい。


「お、いいね、どこ?」

汗をかいたし、丁度いい、とルルフェルが起きあがろうとしたら、リダスが慌てて止めた。


「申し訳ない!今はうちのパーティーの女共が入ってるんだよ……水見たら抑えられなかったみたいで」

「ああ、じゃ終わったら」

ルルフェルは腰を下ろした。


「水場のサイズ的に男全員では無理だから、女性陣が終わったら、男は順番で入ってこうと思う。まずは神獣様と少年で行ってくれ」

「いいのか?」

「むしろ最初にできなくて悪いな……水を見つけてすぐに女性陣が脱ぎ始めちまってよ、そそくさ退散するしかできなかったんだ」

リダスが情けなさそうに頭を掻いた。


「自分たちの臭いが気になってたらしい」

ルルフェルはブルーファントムのメンバーの臭いを考えかけ、やめた。失礼だろう。


「なら、終わるまで待たせてもらおうかな」

ルルフェルはごろりと横になるとググ、と手足を伸ばした。

なんだかんだで今日はよく走ったし、疲れている。


「待ってる間、僕がマッサージしますよ」

「!」

紺くんがルルフェルの背中側にまわった。


「まっ、ッフ……ッ!〜〜〜!」

覚悟が決まる前に、グッと背中を押されルルフェルは悶えた。

身体が勝手にビクビクはね、手足から力が抜けていく。

ルルフェルは目を瞑り、眉間に皺を寄せると、歯を食い縛りながら剥き出しにして頭を地面に擦り付けた。


「ウウ〜ッ」

「おお……大丈夫なのか?」

低く唸るルルフェルに圧倒され、リダスが数本後ろに下がった。

その目はルルフェルの白い歯に釘付けである。


「大丈夫です、最初は少し痛いかもしれませんが、すぐに気持ち良くなるはずなので」

グッグッと紺くんは全身を使ってルルフェルをマッサージし続けている。

この言葉通り、ルルフェルはすぐに唸るのをやめ、口の周りを舌でペロリと舐めると牙を仕舞い、最後に低く短く唸ると、首の力を抜いて、くったりとリラックスした姿勢になった。


ルルフェルはフーッと鼻から息を吐き出す。


(いやあ極楽極楽〜!疲れた身体に効く〜ッ!マッサージ本当に上手いよね……さっすが将来の化け物級テイマー様よ。最初身構えちゃったけど、これはテイム関係なくお礼のマッサージって分かってるからめちゃくちゃ気楽に受けれて良いわあ……!)

力が抜けているので、フリフリと数度ゆるく尻尾を振る。

それを見た紺くんがにこりと微笑んだ。


しばらくマッサージをしてもらったあと。


「いいな〜それ!」

聞こえた声に反応し、ルルフェルが目を開けた。


いつのまにか、リダスの隣にククルトゥスが立っていた。

くったり伸びているルルフェルの方を、仁王立ちで見ている。


「お〜いいぞ〜紺くんはマッサージがとてもうまい」

むにゃむにゃと、適当にこたえながら、ルルフェルは目を瞑る。

しかし、ククルトゥスの次の一言で再び目を開けた。


「俺にもマッサージしてくれ!」

ルルフェルの眉間に僅かに皺が寄る。

紺くんは、汗だくになりながらも、困ったように、にこりと笑った。


「いいですy「ダメだ」」

了承しかけた紺くんの言葉をルルフェルが遮る。

ルルフェルはい先程の自分のところにできたヒール待ちの列を思い出していた。

今回の紺くんも、ククルトゥスに許可で出してしまえば、なんだかんだで自分も、と沢山の人が並びそうな気がする。

ルルフェルの時は、ヒールなんて魔力消費も少ないし、気軽にかけられるから、特に何も言わずに全員にやってあげた。

しかし、紺くんのマッサージは時間も労力もかかる。

やってと要求されたら無償ですぐにやってあげるもの、安売りできるものではない気がしたのだ。


「チェッ自分はやってもらってるくせに」

ククルトゥスが唇をとんがらせる。


「俺はいいの、俺は」

「なんでだよ〜」

「なんでって言われてもな……」


ククルトゥスは頭を捻った。


「そういえばルルフェルと紺少年は、どういう関係なんだ?」


この質問に、シンと墓地内が静まりかえった。

心なしか、全員の目がルルフェルを見つめており、聞き耳をたてている気がする。

そして隠そうとしても隠せていないまま、ルルフェルを1番熱心に見つめているのは、最も近くに立つ紺くんだった。


様々な視線を受け、ルルフェルは目を大きく見開いたまま、固まった。


「俺と……紺くんは……」

ゴクリと、隣の紺くんが唾を飲み込んだのが分かった。


この質問をされたのは、2回目である。

前回、ヴァンドラに問われたときは、自分たちの関係性に明確な名称はつけなかった。


今は?


ルルフェルの彷徨っていた目が紺くんの顔で止まった。

眉を僅かに寄せ、心配と期待のないまぜになった熱い眼差し。

ルルフェルは、この眼差しを前にも見たことがある。


(ああ、そうだ、最初に。魔の森の洞窟で、同じ目をしていたんだ。そしてそのあと、弟子にしてください!って盛大に頭をぶつけてたんだっけ……)


まだ数日前の出来事のはずなのに、その後起こったことが多すぎて、なんだか大分前のことのように感じられる。

ルルフェルはその時の光景を思い出し、ふっと笑う。

紺くんの目が、キラリと光を反射して、光った。


「……紺くんは俺の弟子だよ」


気がつけば、言葉はルルフェルの口から滑り落ちていた。

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