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神獣フェンリルはテイムされたくありませんっ!〜けど俺をテイムするはずの主人公に義務教育が足りてなさすぎるのでまずは教育しようと思います〜  作者: 咲田陽
第3章 港町パディス

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44. それゆけ!ブルーファントム!

その時、シルバーランク冒険者パーティー『ブルーファントム』は絶望していた。


数ヶ月前から起こっている港町パディスでの異変のせいで、冒険者が一気にメイリンの森になだれこんでいる。

それは知っていたが、まさか広範囲に渡って様々な魔物が狩り尽くされたあとだとは思わなかった。

いくら歩けど獲物に出会えないのだ。


業を煮やしたブルーファントムは、普段なら行かないような奥地に足を踏み込むことにした。

自分たちより先に同じような判断をしたパーティもいるだろうし、多少の無理をしてでも、何かしら成果が欲しかった。


そこまでは良かったのだ。

奥地に進んだ結果、まだ残っていた魔獣を何体か狩ることができた。

普段なら群れていて手が出しづらい魔獣が1体はぐれていたりと、むしろ運が良かった。

更にその魔獣が隠れていたところをよく見ると、立派な墓へと繋がる隠し通路になっていたのだ。

その墓はひとつの山をくり抜いて作られた物のようで、天井に空いた穴から青空が見えた。


問題はここからだった。

長い間満足に狩りもできず、ブルーファントムの貯蓄は底をつきかけていた。

だから、豪華絢爛な棺を、普段なら絶対に何か潜んでいるから、と無視するような巨大な棺を、考えなしに開けてしまった。


棺の蓋を少しずらした瞬間、その時を待っていたかのように、ズロリと、乾いて骨と皮のみになった黒い手が中から伸びてきて、重さ数百キロはくだらないだろう蓋を、バガンといとも簡単に吹き飛ばす。

そうして中から全貌を現したのは、約10メートルほどもある、アンデッド系の上級魔物であるリッチだった。


リッチは、ふわりとその巨体を空中に浮かべ、ブルーファントムの面々を見下ろす。

天井から差し込む光はリッチの大きすぎる背中に阻まれ、届かなくなった。一気に室内が暗くなる。


ブルーファントムは震える身体を押さえつけ、必死で重圧に耐えながら顔を上に上げた。

そのリッチは様々な豪華絢爛な装飾品に、長くたなびく黒いローブを纏っており、その端は闇に溶け込むように曖昧な境界線をしていた。


「ッ、お前ら大丈夫だ……いつも通り、みんなで協力して倒すぞ!終わったらドロップ品でみんな大金持ちだ!」

ブルーファントムのリーダーが、メンバーたちをなんとか鼓舞しようと、彼らに向かって語りかける。


だが皆分かっていた。

このリッチは強すぎると。


この重圧の中、よく誰も逃げ出さなかったと思う。

きっと仲間意識の薄いパーティーならあっという間に瓦解してリッチに殺されていただろう。

リーダーはパーティーメンバーたちとの絆に感謝した。


(こいつらとなら、もしかして……!)

そう、思った瞬間だった。


ズロリズロリとリッチから黒い影の塊が大量に出てくる。


「なんだ!?」

全員が目を凝らした。

その黒い影は、ファントムと呼ばれる中級魔物だった。

本来なら1体を冒険者数人がかりで倒すべき魔物。

それが今や死体にたかるハエのように、黒々とした群を成してリッチの周りを覆い尽くしていく。

更にファントムたちはリッチが分裂したわけではなく、ただリッチの服の中や後ろに隠れていただけのようだった。

大きなリッチはその圧倒的なサイズを変えることなく、無数のファントムたちの中心に浮かんで、ブルーファントム面々を見下ろしていた。


絶望。


「はは……ブルーファントムはファントムで終了ってか」

乾いた声で、リーダーが笑えない冗談を呟いた。


ここから先に繋がるビジョンが一切見えない絶望感。

冒険者パーティーブルーファントムは死を覚悟した。


「……俺が少しでも奴らの気を逸らす」

リーダーはメンバーに向かってきごちなく笑うと、震える両腕で自身の武器、斧だ、に魔力を込め始める。


「その間にお前らは逃げろ」

「何言ってんのよ」

そんなリーダーに、パーティーメンバーのうちの1人。聖女が反論した。


「対アンデットよ、私の出番でしょう」

そう言って、震える足で1歩前に進む。

彼女は胸の前で手を組み、祈りのポーズを取ると、手に自身の魔力を集め始めた。


そんな聖女を見て、他3名のパーティーメンバーも腹を括ったようだった。

それぞれに、震えながらも仲間のために必死に攻撃や守備の準備をし始める。


「……ッありがとう皆ッ!」

ブルーファントムのリーダーは、グッと涙がその頬を溢れ落ちて行かないように目に力を込めた。


「生き延びて笑い合おうぜっ!」

リーダーがファントム1体に目掛けて斧を振り下ろし――


次の瞬間、目の眩む数多の煌めきがブルーファントムのメンバーを襲った。


空中に浮かんでいたファントム達が、彼らの中心から切り裂くように現れる十字架の形をした眩い光の攻撃にのまれ、あっという間に消滅していく。


「な、一体何が……!?」

あまりの眩しさにブルーファントムの面々は目を覆い隠した。

一体何が起こっているのか、皆目見当もつかず、身動きも取れないまま、チカチカとそこらじゅうで輝いている眩い光に必死に耐える。


何が起こっているのかわからないのは、リッチも同じようだった。


「グォオオオオ!!!?」

大きな声を上げ、その身体の周りに黒いバリアを構築していく。


だが


「あああああやっっと魔物いたわああ!!!」

誰かの雄叫びと同時に、カッとリッチの上に太く眩い光線が降り注いだ。


「ギヤァアアァアアアアア!!!!!」

バサリ!とバリアごとリッチの身体は弾けて、空気に溶け込む細かい黒い粒子となり、フッと消えた。


そしてリッチに代わるように、天井の穴から巨大な美しい狼が降ってきた。



一瞬奇跡でも起こったのかと思ったのだ。

他の冒険者の誰かが、颯爽と助けに来てくれたのだと。

これで生きて帰れる、そう思ったのに。


(いやいやいや、これは流石に無理すぎる)

リーダーの目は、舌舐めずりしながら雄大に立つ、巨大な狼に釘付けになった。


(生きて帰ろうという意思すら湧き起こらねぇや……)

あまりに圧倒的な実力差に、ブルーファントムの面々は膝をついていく。

リーダーの頬を、一筋の涙が伝って、落ちた。


(でも、この美しい獣に終わらせてもらえるなら、俺は――……)


「あっ!!?わあ、あっ、もしかして戦闘中だった?戦闘中だったよね?うわ〜やらかしたごめんなさい!」

皆が静かに見上げる中、その美しい獣は早口で喋りながら、ガバー!と頭を勢いよく下げた。


「メイリンの森⭐︎初遭遇の魔物だ〜!ってテンション上がって、周りよく見ないまま攻撃しちゃったよ、大丈夫でした?」


「「「え?????」」」

ブルーファントムのメンバー全員の声が揃った瞬間だった。

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