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神獣フェンリルはテイムされたくありませんっ!〜けど俺をテイムするはずの主人公に義務教育が足りてなさすぎるのでまずは教育しようと思います〜  作者: 咲田陽
第2章 城壁都市ココラス

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40. ギルド ココラス支部長 1

ドアを見つめ始めて数分後。


ヴァンドラが首を傾げ、「あれ?来ないな」と言った直後のことだった。

バーン!とドアが凄まじい音を立てながら勢いよく開けられた。


中から飛び出してきたのは、先程のギルド・ココラス支部長とブッチャートだった。

5階にいた全員が驚いて見つめる中、重そうな鎧を着込んでいる支部長がヴァンドラを見つけ、彼めがけてどしどし早足で向かう。

他の人や、隣に立っているルルフェルでさえ眼中にはなさそうだ。


「ギルド長!今見てきたぞ」


おかげで、大きな声で喋り始めた男を、ルルフェルはゆっくり観察することができた。

ココラス支部長は40代くらいの、髪の毛が灰色の中に僅かに黒色の残っている、顔の四角い男だった。

身長こそ低めではあるが、身体は太く、体幹はしっかりしており、鎧の下にはガッツリ筋肉がついているだろうことが伺える。


ふむ、とルルフェルは口をへの字に曲げた。

ヴァンドラとこの男が戦ったら……ヴァンドラが圧勝しそうだ。


ルルフェルは1度瞬きをすると、今度は2人の会話に意識を向けた。

今支部長は、短い手を大袈裟に振り回しながらヴァンドラに疑問をぶつけているところのようだ。


「……で、ブッチャートに見せてもらったんだが、本当に魔の森のホーンタイガーが倒されたんだな。信じられん。それに倒したのはブロンズの奴だって?」

ブルルルル!と支部長が顔を小刻みに揺すった。


「ありえない!!!」


ルルフェルは無言で片眉をあげた。

少し離れたところでは、紺くんが息を呑みこちらの様子を伺っている。

支部長の後ろに立っていたブッチャートは、焦ったようにルルフェルと支部長を見比べた。

肝心のヴァンドラは笑顔のまま、黙っている。


「聞けば遺体にスライムがついていたとか……魔物同士が相打ちになったところを回収でもしたんじゃないか?姑息な奴め!」

周りの反応など一切気にする様子のない支部長は構わず喋り続けた。


「あの魔物は我がギルドの精鋭10人がかりでも倒せなかったやつだぞ?」

こんなことあってたまるか!と支部長はため息をつき肩を落としたが、すぐに再び姿勢を正した。


「ああ、それと配っていた号外も読んだ。フェンリルがこの街に?見間違いとかじゃなく本当に?」

エリックのこの言葉には、後ろに控えているブッチャートも無言でうんうんと頷き、興味深そうにヴァンドラを見た。


「ああ、そのことなんだけど」

ヴァンドラが口を開き、手のひらでルルフェルを示した。


「この彼がその神獣フェンリルだよ」


雷に撃たれたかのように支部長が硬直した。

ギギギ、と音が鳴りそうなくらい、ゆっくりとした動きでルルフェルの方に向き直る。

バチリと支部長とルルフェルの目が合った。


「初めまして」

「うわぁ!」

ルルフェルが挨拶すると、支部長が飛び上がって驚いた。


「なんだお前!綺麗だな!?」

ビクビクと、ひっくり返されたハリネズミのような反応、そして斬新な驚き方だなぁとルルフェルは思った。


「この男がか?」

「そしてかのホーンタイガーを狩ってきたのも彼」

ヴァンドラが支部長の肩に手を置き、背後から耳元で囁いた。

最大限見開かれてるように思えた支部長の目が、さらに大きく見開かれる。


「まあ、一応ね」

どう反応するのが正解か分からず、ルルフェルは肩をすくめた。


「フェンリル改め、ルルフェルだ。よろしく」

「……エリック。エリック・バーンズだ」


支部長……エリックは何も言わずとも、ビシバシ伝わる疑惑を孕んだ目でルルフェルの方を見てくるので、ルルフェルはかえって愉快な気持ちになってきた。

スッとエリックから数歩離れると、「証拠見せるよ」と言い、狼の姿に戻る。

屋上にいて邪魔にならないギリギリの大きさを狙って巨大化したので、3〜4mくらいの大きさだったが、エリックには効果てきめんだったようだ。


「アァッ!」

エリックは短い悲鳴をあげると数歩後ろにのけぞった。転ぶのは、かろうじて耐えたらしい。


「ええっ!?」

ところがエリックの他にもう1人驚いた人がいた。

ブッチャートだ。


「ちょっと待ってくれよ、マジか!聞いてないぞ?」

ブッチャートは頭を掻きながらルルフェルを見上げている。


「そういえば言ってなかったか、ごめん」

ルルフェルは申し訳なさそうに耳をぺたりと後ろに倒した。

ブッチャートは気を取り直したようにハハッと笑うと、筋肉を盛り上げさせて応える。


「いや、でもそれなら納得いったぜ〜!どうりで強いしすげえ美人なわけだ!」


流れ始めたほんわかした雰囲気を掻き消すようにエリックが両腕を大きく振った。


「待て!あの神獣フェンリル様だぞ!?」

「?」

皆がよくわかっていない雰囲気を出すと、エリックは「俺がおかしいのか?」と両腕で自分自身を抱きしめ、ぐるっと皆……少なくとも、人の姿をしている者たちを見渡した。


「何普通に会話してるんだ! 伝説の!存在だぞ!」


大きな声で喚き散らした後、エリックはハッとして固まる。どうやら先程の自分の失言を思い出したようだった。

壊れた機械のおもちゃのようにギギギ、とゆっくりルルフェルの方を見るエリックの顔は、冷や汗でビショビショだ。


わ、と少し驚いて頭を後ろに倒したルルフェルの動作を“怒っている”と捉えたのだろう。

エリックは即座に、飛び上がるように空中へ舞うと、そのままの勢いで地面に這いつくばった。


「大変!申し訳ございませんでした!!!」

いわゆるスライディング土下座である。


「え!?そこまで怒ってない、怒ってないから別にいいよ」

ルルフェルは慌て、ヴァンドラは大笑いし、ブッチャートはやれやれと頭をおさえた。


「いえっ、この度は大変な失礼を、靴くらい舐めてもおかしくない……ないな!?じゃ爪でも……」

「絶ッ対にやめてくれ」


ルルフェルは、土下座のまま必死の形相で近づいてきたエリックからにげるようにして人型へ戻ると、ブッチャートの後ろに隠れた。


「舐めたら本気で怒るからな」


エリックは心なし残念な顔をしていたが(これは見間違いだと信じたい)、ヴァンドラに地面から抱き起こされ、多少の理性を取り戻したようだった。

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