38. 号外 2
ルルフェルはホテルのロビーの椅子に座り、ホテルマンに出されたコーヒーを啜りながら、ヴァンドラに手渡された号外に目を落とした。
まず目に飛び込んできたのは、狼の姿のルルフェルが街中に出現したところが描かれている大きなイラストだ。(まだ写真はないのだろう)
その下にはでかでかと「神獣フェンリル現る!」の文字。
ルルフェルは片眉をあげた。
『神獣フェンリル、ココラスの街に降臨す!
恐ろしい魔獣ひしめく魔の森に住んでいると云われていた伝説的存在、神獣フェンリル。そのフェンリルがここ、ココラスの街に来ていることが判明した。
ご存知無い方向けに説明すると、神獣とは遥か数百年前、まだ女神様がいる時代――……』
フェンリルは口をへの字に曲げながらサッと表面全体に目を通した。
要約すると、神獣とはどのような存在かをこれでもかと誇張して説明し、他の一般的な魔獣と違い、話ができる存在で、こちらから手を出さなければ害はなく、怖がらないように、といったことが長々と書かれているようだ。
また号外の裏側には、走る小さな狼のイラストが『神獣様お手柄!』の文字の周りに踊っており、神獣フェンリルがいかに鮮やかに人身売買の拠点を潰したかが物語調に書かれている。
ついでにギルドの活躍もさりげなく書いてある。やり手だ。
「げえ」
ルルフェルは苦虫を噛み潰したような顔で号外を自分の顔から遠ざけた。
「これ脚色のしすぎだよ。これじゃ俺がまるでヒーローか何かに見える」
実際は大慌てした保護者もどきだってのに。
ヴァンドラは「あはは」と明るく笑うとルルフェルの手から号外を取った。
「これくらいにしておいた方が、きっとみんな受け入れやすいよ」
「そうかぁ?」
ルルフェルの眉間に皺が寄せられた。
なんだか堂々と嘘をついているような気がして落ち着かない。
「そうだよ、それに身体のサイズを変えられることが書けないんじゃ、どうしても誇張表現になっちゃうんだよ」
それでもモヤモヤしていたルルフェルだが、「君の出した条件だよ?」と言われると納得するほかなかった。
「あの、これってもらっていいんですか?」
ルルフェルの隣に座っていた紺くんが、身を乗り出してヴァンドラを見る。
彼は先程まで、目をキラキラさせてヴァンドラから手渡された号外を隅から隅まで舐め回すように見ていた。
「ああ、もちろん。なんならたくさんあるから好きなだけ持ってっていいよ」
ヴァンドラがバサリと号外の束を渡すと、紺くんはワッと歓声を上げて、お礼を言いながらその全てをいそいそと自分の鞄に仕舞った。
紺くんの小さな鞄が号外でギチギチに膨れ上がるのを、なんとも言えない顔で眺めていたルルフェルが「どうするのさ、それ」というと、紺くんはキョトンとした顔でルルフェルを見つめ返した。
「ええと……だってルルフェル様がカッコよく描かれてますし、いつか何かの役に立つかも」
「なんの役にだよ」
ルルフェルはサッと紺くんの鞄から号外の束を取り出すと、自分のアイテムボックスへぽいと投げ入れた。
「ああっ!?」
「重いでしょ、持つよ」
「優しいねえ」
生暖かい目で見守るヴァンドラを無視してルルフェルはもうひと口コーヒーを飲んだ。
なんだかいつもより苦く感じるのは、気持ちの問題だろう。
(不本意だけど、あの号外は紺くんの文字の練習に使えるかもしれないし)
「それができた号外か」
頭上から声が聞こえ、ルルフェルたちが顔を上げると、ククルトゥスたち3人が立っていた。
「俺にもくれ」
ククルトゥスがヴァンドラに催促し、3人分の号外を貰う。
しばらくの沈黙ののち、「いいんじゃねえの?」とククルトゥスが顔を上げた。
「いいなあかっこよく描かれてて。俺の存在なんて消されてるぜ」
ククルトゥスの両脇に座っているヴァンドラとセブンが、じとりとした目をククルトゥスに向けた。
「「キミ(あなた)ほとんど何もしてないじゃない(ですか)」」
ククルトゥスの肩幅が少し小さくなった。
「いたらいたで活躍できたと思うけどな……」
どうかな、と思ったけどルルフェルは口に出さなかった。
強くはあるのだろうが、ククルトゥスは最初の敵と向き合ったが最後、大声で自己主張し始めそうだ。その間にボスはドロンである。




