33. ヴァンドラとの打ち合わせ 1
入浴し、艶めきを取り戻した身体をブルリと揺する。
そしてそのままベッドの上に飛び乗ると、ルルフェルは紺くんの膝に頭を乗せた。
買ったばかりの櫛で、丁寧に身体をといてもらう。
(うーん、良きかな良きかな)
ルルフェルの瞼が重くなる。
(この姿はまるでテイムされてしまったようにも見えるかもしれないけど、違うんだ!手入れさせてあげないと、紺くんが逆恨みしかねないから仕方なくだな……ああ〜そこそこ)
脳内で誰にともなく言い訳しながら、ルルフェルは目を瞑った。
単純に人に手入れしてもらうのは気持ちいい。
それが将来最高ランクのテイマーが確定している紺くんの施術となれば、なおさらだった。
時間をかけて丁寧にといてもらい、見事にふわふわになった身体を再びブルリと揺する。
今ならまさに神獣、という輝きを放っているだろう。まあサイズは大型犬なので、この状態で神獣と言い張っても信じてはもらえないかもしれないが。
ちらりと紺くんを見やると、紺くんは櫛に絡まったルルフェルの毛を集め、いそいそと鞄に仕舞っているところだった。
紺くんには勿体無い精神がありそうだし、いつかクッションにでも加工して売る気なのかもしれない。
ルルフェルには自分の抜け毛をどうこうされようと咎める気はなかったので、それとなしに眺め続ける。
(にしてもこんなに毛って抜けるもんなのな)
紺くんの手元に収められているこんもりとした自分の毛を見送りながらルルフェルは後ろ脚で腹を掻いた。
(よく禿げないもんだ)
「まだ痒いところ、ありましたか?」
バリバリと皮膚を掻くルルフェルを見て、紺くんが心配そうに聞いてきたので、「これはイヌ科の癖みたいなもんだから気にしなくていい」とこたえると、ルルフェルは玄関先に向かってのんびり歩き出す。
人の何倍もの聴覚が備わっているルルフェルの耳が、こちらへ向かってきている男達の足音を聞き取っていた。
程なくして予想通りコンコンと玄関のドアが叩かれる。
ルルフェルが人の姿になり、施錠を外してドアを開けると、そこにはヴァンドラがにっこり笑いながら立っていた。
――――――
「……というわけで、無事に人身売買してた奴らのココラス拠点は潰せたよ。今順次、既に取引済みの子供達の行方を追ってるところだ」
ひとまず部屋で話をしたいと言うヴァンドラから、ルルフェルと紺くんは今回のことの顛末を伝えられた。
組織が放置されていたことに関してはきちんと理由があり、どうやらココラスを治める貴族の率いる自警団は、組織の存在や場所などは把握していたものの、組織が実力者揃いだった為、手が出せないでおり、丁度ギルドに応援を要請中だったらしい。
つまり組織を倒す人員を集めている最中に、ルルフェルが単騎で乗り込み、討ち取ってしまったという訳だ。
「実力者揃い……?」
そんな奴誰かいたか……?とルルフェルは頭を捻ったが、大体の奴を電撃1発で倒してきてしまったので、特に思い当たる節はなかった。
不意打ちしたことも多かったので、もしかしたら正面からやりあえば骨のある奴もいたのかもしれない。
「まあ神獣サマと比べられてもね」とヴァンドラが肩をすくめた。
「ただ、問題はココラスの拠点は潰せたけど、組織の他の拠点は残っていることなんだ。」
ヴァンドラは紺くんと目を合わせた。
「貴族様方とギルドとで手を組んで、なるべく治安のいい街をつくっていきたいんだけど、残念ながら現状は細部にまで手が回っていない状態だ。君も、出歩く時には注意してね」
紺くんが深く頷いた。
紺くんを1人で歩かせてしまった自責の念があるルルフェルも、頷かなかったものの、次からは絶対に気をつけようと肝に銘じる。
「あ、あとルルフェル!」
パッとヴァンドラが先程までの重苦しい雰囲気を霧散させるくらいの軽い調子でルルフェルを呼んだ。
「ん?」
「君、狼の姿で町中を駆け回っただろう!あの魔物はなんだ〜って問い合わせがすごくて、タニアなんて倒れそうだったんだよ」
ルルフェルは手に顎を乗せ、そっぽを向いた。
そういえばそうだった。でも……
「そんな犬が飛び出してっちゃったみたいな言い方……緊急事態だったし……」ぶつくさ小声で言い訳をする。
一方、紺くんは顔を青白くさせながら、ヴァンドラに必死に頭を下げている。
「すみません、僕が攫われてしまったせいで皆さまにとんだご迷惑を……!」
「ああ、ごめんごめん。責めるつもりは毛頭なくてね」
ヴァンドラは紺くんの上下に高速移動している頭を力づくで止めながらルルフェルの方を見てニヤリと笑った。
「せっかくだからさ、君が神獣だってこと、どどーんと公表しちゃわない?」




