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神獣フェンリルはテイムされたくありませんっ!〜けど俺をテイムするはずの主人公に義務教育が足りてなさすぎるのでまずは教育しようと思います〜  作者: 咲田陽
第2章 城壁都市ココラス

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31. 子供から目を離すな 5


「紺くんに手を出したな?」

「ヒッ……!な、なに?たたた、たすけっ……」

御者は状況がうまく飲み込めず、這いずり少しでもルルフェルから遠ざかろうとした。

だがルルフェルは御者の腹を容赦なく踏みつけると、その手に収まっていた物を取り上げる。

それは、ぼろぼろの紺くんの鞄だった。


「……盗ろうとしたのか」

ルルフェルの周りの空気がどんどん冷えていく。

御者はあまりの重圧に耐えかね、うまく回らなくなってしまった舌でペラペラと喋りだした。


「だ、だだだって大事そうに抱えてやがるからよぉ……どうせ売っちまうんだ、そ、そんなガキの持ち物、もも、もらったって別にいいだろぉぐあっ」

バチリと御者にも電撃が放たれた。

倒れた御者を自分の視界におさめることにすら嫌気がさし、下に向けた首を振りながらルルフェルが小さくため息をつく。

つくづく反省しない奴らだ。


「……る、ルルフェルさま……」

馬車の中から泣きそうになりながら震える小さな声が聞こえた。


「……ん?」

ルルフェルは怒りを鎮め、なるべく優しい声を出すように努めながら紺くんの方を見た。

だがその姿を見ると、また眉間に深い皺を寄せる。


紺くんは両手両足を縛られており、買ったばかりの服は破れてこそいないものの、土で薄汚れ、何より本人の頬に痛々しい殴打の痕があった。


「治すよ。ヒール」

紺くんの手足を縛っていた縄を風魔法でサクッと切り落としながら、ルルフェルが額を紺くんに寄せ、癒しの魔法をかける。

そしてついでに馬車の中で身を寄せ合い震えていた他の子供達の傷も癒やしていく。


「ええと……災難だったね。女の子守ろうとしたんだって?偉かったね。うん、かっこいいよ」

怪我を治してもなお青い顔で俯き続ける紺くんに、なんて言葉をかけていいか分からず、ルルフェルは頭を下げながら、鼻をこつんと紺くんに当てた。


ルルフェルは励ましたつもりだったのだが、次の瞬間紺くんの両目から大粒の涙がぼろぼろと溢れ落ちてきたので、思わず尻尾をギュッと股の間に仕舞ってしまった。


「な、なんで?あ、怖かったよね?もう大丈夫」

立派な巨体にそぐわぬ慌てっぷりで、ルルフェルはオロオロしてしまったが、次の紺くんの言葉を聞いて呆気に取られてしまった。


「る、ルルフェル様に、ご迷惑をおかけしてしまってごめんなさい……!」

この子は、一体何を言っているのか。

ポカンとしていると、紺くんの言葉は続いていく。


「せっかくの大変美しい毛並みが、そ、そんな、薄汚れてしまったなんて、僕はどう責任を取ったらいいか……」


あ、と思い、ルルフェルは自身の姿を見た。自分で擦り付けたので当然なのだが、毛並みは乾いて固まってしまった泥で汚らしい茶色になっている。

この姿で、俺は神獣だと言ってもいまいち説得力がないだろう。


「別にこれくらいなんともないよ。そもそも俺が別々行動を取ってしまったのが悪い……本当にごめん。俺は君が無事ならそれでいいんだ」

ルルフェルはブルブルと身体を揺すり、土を飛ばそうとしたが、その飛ばした土が紺くんの頬にぺしょりとついた。


ルルフェルは内心(うわぁっ!これで恨まれてテイムされたらどうしよう!)と恐れ慄き固まったが、予想に反して紺くんは吹き出すように笑って土を拭った。

ルルフェルはホッと肩の力を抜くと、「とりあえずホテルに帰ろう。お互い綺麗にしなきゃ」と苦笑した。


とはいえ、他の子供達もいるし、どうしたもんかな、とルルフェルが考えていると、バサリという羽音と共に頭上を大きな影が過ぎった。


(情報が伝わったのか……丁度良い)

ルルフェルは空に顔を向けると、アオォーン!と1回遠吠えをする。

するとバサリバサリと頭上を旋回していた音が近づいてきて、ルルフェルたちの目の前に3,4メートルはあるだろう赤褐色の首の長い綺麗なドラゴンが降り立った。


「わ……!」

ドラゴンを視界に収めた紺くんが、小声で驚きと隠しきれない喜びの声をあげる。


「あれ、これ事件発生したけど、もう解決しちゃった感じ?」

そのドラゴンの背中からギルド長であるヴァンドラがひょいと降りてきた。


「とりあえず人身売買してた悪のアジトを壊滅させたから、事後処理を頼みたい。既に売り飛ばされてる子供達も多いはずだ」

ルルフェルがヴァンドラを見つめると、ヴァンドラは一度額に手を置いてふうと息を吐いた。

それから気を取り直し、今度は両手をグーにして顎に添え、困った顔をした。ぶりっ子をするな。


「うええ〜!大変だぞこれは。というかココラス支部長はこんな組織を放っておいて何やってたんだか!?」

ヴァンドラはプリプリ怒りながらも、鮮やかな手つきで気絶している御者とボスを縛りあげドラゴンに乗せると、そのままアジトの方へ歩き出した。


「今ギルドやこの街の警備員たちが向かってきてるから、安心して。子供達もこちらで保護する。……も〜街中に巨大な狼出現!って聞いて飛び出してきてみたら、悪の組織を1個壊滅させちゃってるんだもんなあ」

ヴァンドラはぷ、と頬を膨らませているが、ルルフェルには謝る気がないので、白けた目でそれを見ている。

数秒後、ヴァンドラの言葉通り、わらわらと同じ制服を着た警備兵たちがやってきて子供達を保護していく。


ヴァンドラはかわいこぶるのをやめ、ふっと笑うと、「疲れただろうからホテルに戻って休んでて。あとで迎えに行くから、夕飯でもご馳走させてほしい」と言い残し、今度は小走りでドラゴンと共に走り去って行った。

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