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神獣フェンリルはテイムされたくありませんっ!〜けど俺をテイムするはずの主人公に義務教育が足りてなさすぎるのでまずは教育しようと思います〜  作者: 咲田陽
第2章 城壁都市ココラス

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27. 子供から目を離すな 1

「買った買った!」

食った食った、と同じノリで、ルルフェルが自身の腹を叩く。

何かを食べた訳ではないが、爆買いをしたので気持ちはいっぱいいっぱいだ。


ルルフェルは紺くんと別れてから、とりあえず様々な店に入って、様子を見ては必要な物を一通り揃えていった。

雑貨屋では筆記用具に紙。鍋や食器、カトラリーにタオル類。食品を取り扱う店では気になった食べ物色々と、塩胡椒などの調味料にコーヒー。

目に留まった、入り口に大きな歯車の模様があしらってある立派な店は時計屋で、そこでは持ち運びに良さそうな時計を。

薬局(でいいのだろうか?)で念の為の回復薬や包帯など。

武器屋で目についた武器を一通り。

大きいものだとベッドや布団などの寝具にテーブルやバスタブなどの家具も購入した。


懐に余裕があったのが幸いした。

普段なら少しでもお高いと、あーでもないこーでもないと散々悩んで買うものを決めるのだが、今回は(またお金がなくなったら魔物を狩ればいいや)、という精神的な気楽さから、欲しいものは大体全部即決できた。

(お金があるって最高!)

ルルフェルは今にもスキップしそうな軽やかな足取りで大通りを進む。


(お)

その足が一つの店の前で止まり、そこに吸い込まれるように入っていった。

「本屋なんてあるのか!」

カランコロンと心地よいベルの音で店内に迎えられたルルフェルは、こっそりスゥと深く息を吸った。

鼻腔が紙独特の匂いで満たされる。

(う〜ん本屋って良い!)


狭い店内を覆い尽くすように本が並んでいる。

そしてこれまた狭い間隔で並べられた幾つかの棚の中身も、全部ぎっちり本だ。

前世の日本にあったような色とりどりの工夫が凝らされた本たちとは違い、こちらの本は、印刷技術的な問題なのだろう、単色の背表紙に文字と著者だけが書かれたもののみだったので、視覚的には古めいたインテリアの雑誌の一面や映画のワンシーンを見ているような印象を受けた。

どこからか差し込むあたたかく優しいオレンジ色の光が空気中の埃を反射しているのが、その印象を助長しているのかもしれない。


「いらっしゃい」

声がした方に顔を向けると、背の低い初老の気難しそうな男性と目が合った。

「初めてのお客さんだね。何か探し物かい?」

「ええと、魔獣とか薬草の図鑑。それに地図と……この世界の情勢が分かるものがあれば」

男性が移動し、棚から数冊の本を取り出す。

「あとは?」

「あと……あ」

脳裏に紺くんの顔がチラついた。

「あればでいいんだけど、文字や簡単な計算などの教本があればもらいたい」

男性はぶっきらぼうに棚の一角を指すと、「そういうのはあまりない。そこいらを見て、無ければ無い」と口をへの字に曲げた。


「分かった、ありがとう」

ルルフェルが指された棚の前に立つと、隅の方に教本らしきものが何冊か鎮座している。

内容は、古代史に語学にマナー、刺繍に楽器。

後半2冊は、恐らく女の子向けだろう。

ルルフェルはとりあえず語学とマナーの本を手に取った。

(前世にあった足し算のドリルとかひらがな練習帳みたいな本は流石にないか。)

両方の中身をペラペラめくり、購入を決める。

どちらも、ルルフェルの勉強用にも良さそうだ。


ブラブラとひと通り店内の棚を物色してから、店主の待つカウンターへ戻り、お会計を済ませる。

「あんた、家庭教師なのかい?」

購入品を見ながら店主が話しかけてきた。

「いや……」

ルルフェルは否定しかけたが、まあこれから紺くんに1対1で教えるわけだから、あながち間違っていないことに気づき、苦笑いした。


ついこの前まで洞窟でごろ寝していた獣が先生の真似事とは、世の中何があるかわからないものだ。

「ま、そんな感じなのかな」

「そうかい、頑張りなよ、本が読めるやつが1人でも増えるのはいいことさ」


再びカランコロンと音をさせながら退店する。

店内の静かな雰囲気から一転、またガヤガヤと騒がしい外に足を踏み出したとき、ゴーン、と時計台の鐘の音が聞こえた。


この街では、中央付近に設置された時計台から1時間おきに鐘が鳴らされる。

今は3回鳴らされたので、今午後3時になったということだ。


くう、とルルフェルの腹が鳴った。

(そういえば昼抜きでお買い物に夢中になってたからな……何か食べたいな)

午後3時といえば、おやつの時間である。

こういうときに、前世のスマホがあれば紺くんに連絡して、一緒になんか食べない?って誘えるのにな、とルルフェルは口をとんがらせた。

まあ仕方がない。


ルルフェルは、どこか美味しそうな喫茶店はないかな、と辺りを見渡しながら歩き始めた。

くん、と鼻を無意識のうちにひくつかせてしまい、あ、と慌てて手で顔を押さえる。

フェンリルのときは狩りをする時など、様々なところで自分の嗅覚に頼ってきているため、まず臭いを嗅ぐのが癖になってしまっているらしい。


やや顔を赤らめながら、今度は控えめに周りの匂いを嗅いでみる。

(思った通りだ)

ルルフェルは人の姿をしていても、嗅覚はほぼフェンリルのときのままであることに、今更ながら気がついた。

前世では普通の人間だったとはいえ、今の鼻がきく状態がフェンリルにとっての普通だったので、気づくのが遅れたみたいだ。


(なら匂いで紺くんを追えたりしないだろうか?)

人混みの中、自分の鼻がどれくらい通用するか試すのもいいかもしれない。

今は空腹だが、きっと紺くんも同じように空腹である。

せっかくなら誘って恩を売るのがいいに違いない。

ルルフェルはそう思うと、紺くんの匂い探してみることにした。


紺くんと別れた地点まで戻り、くんくんと匂いを嗅ぐ。

立ったまま、地面に鼻をつけなくても大丈夫だろうか?というルルフェルの心配とは裏腹に、すぐに紺くんの匂いを発見した。

(俺の鼻って優秀〜!)

自画自賛しながら匂いを辿る。

しかしその先でルルフェルはピタリと足を止めた。

幾つかの店を経て、紺くんの匂いが向かった先は、人気のない狭く薄暗い路地裏だった。




ルルフェルは思わず眉根を寄せる。

なんだか嫌な予感がし、ゾゾ、と背中が震えた。

もしかしたらただ単に路地裏に隠れた名店でもあるのかもしれない。だが、それを初めてこの街に来た紺くんが知っているとも思えないし、ルルフェルが路地裏ときいて真っ先に思い浮かべるイメージは、その治安の悪さだった。


「なんで路地裏なんかに……まさか変なことに巻き込まれたりしてないよね……?」

恐る恐る路地裏を覗くと、やや離れたところにゴミの山の中に隠れるように座っている、小さな人影が見えた。


ハッとして、その人影に駆け寄る。

それは小さく震えながら座り込んで泣いている、5、6歳くらいの少女だった。

先程までの気後れなど、全く感じさせない俊敏な動きで少女に駆け寄ると、ルルフェルはそっとしゃがみ、目線を合わせ、なるべく優しい声で話しかける。

「君、大丈夫?どこか怪我してるの?」


突然目の前に人が現れて話しかけられた少女は、驚きに息を飲み、泣いていたことも忘れ目を見張った。

最初は怯えた表情でルルフェルの方に目を向けたが、その美しい姿に気がつくと、やや態度が軟化し、吃りながらも口を開く。

「あっ、あ、あし、あしが、痛いの」

言いながら痛い部分に意識を向けてしまったのだろう、再び少女の目から大粒の涙が溢れ始めた。


ルルフェルは少女の足を見たが、洋服で隠れていて見えない。

「ごめんね、ちょっと触るよ」

そっと彼女の服を少したくし上げると、棒のように細い脚が見えた。明らかに、折れていれる。

出血こそ無いが、ふくらはぎの部分が痛々しく青黒く変色してしまっていた。

「これは酷い……」

ルルフェルは言いながら少女の脚に手を置く。

「ヒール」

回復魔法をかけると、みるみるうちに怪我が治り、青ざめていた少女の顔も、ほんのり血色が良くなった。


「え……!?」

少女は何が起きたのか分からず、困惑した表情で脚とルルフェルを交互に見比べたので、ルルフェルは彼女を安心させるために微笑む。

「君の怪我を治したんだ。これで大丈夫、もう痛くないはずだよ」

ルルフェルが言うと、少女は震えながらも、しっかりと両脚で立ち上がる。

「ほんとだ……!お兄ちゃん、ありがとう」

「どういたしまして。ところで、どうしてそんな怪我しちゃったの?」

ルルフェルが問うと、せっかく健康的な色に戻っていた少女の顔色が再びサァッと青ざめた。


「お、男の子!私を助けてくれた男の子を助けに行かなくちゃ!」

「えぇ……それ誰だか分かっちゃった気がするな……」

ルルフェルは自分の嫌な予感が当たってしまったことを察した。


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