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神獣フェンリルはテイムされたくありませんっ!〜けど俺をテイムするはずの主人公に義務教育が足りてなさすぎるのでまずは教育しようと思います〜  作者: 咲田陽
第2章 城壁都市ココラス

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25. ホテルにて

約1時間後、ルルフェルと紺くんはホテルの一室の前にいた。


ガチャリと部屋の鍵を回し、ルルフェルが倒れ込むように室内に入る。


「あ〜つっかれた〜!」

そのままフラフラと歩き、部屋の中央に設置されているキングサイズのベッドにどかりと大の字で倒れ込む。

その様子を微笑みで見守りながら、紺くんがあとからゆっくりと入室してきた。

そのままキョロキョロと物珍しそうに室内を見渡し、あ、と僅かに眉を顰めた。

同じことに気がついたルルフェルがム、と起き上がり室内を見渡す。


「ベッドが1個しかないじゃないか、ヴァンドラの野郎!」

「僕はこのソファとか……地面で大丈夫ですので」

紺くんが1人用の、どう見ても横にはなれないソファを指した。


「いいわけないだろう」

ルルフェルは立ち上がると、半ば強引に紺くんをベッドに座らせる。


「ホテルの人に話そう」


このホテルはヴァンドラが手配してくれたものだ。

なんでもギルドが経営している幾つかのホテルの中で1番高級なものらしい。

ある程度儲かっている冒険者にとって、このホテルに泊まることはある種のステータスであり、目指す目標のうちの1つになりやすいらしく、連日混み合っており、ギルド長権限で部屋を用意させたそう。

ルルフェル達はありがたくそこに宿泊させてもらうことにした。


ちなみに部屋は2泊分おさえてもらってある。

メレディスの噂も気にかかるが、ルルフェルはココラスという街をもう少し楽しみたかったので、少しわがままをきいてもらった。


「大人1人子供1人って伝えといたよ」と笑顔で言っていたヴァンドラの顔がチラつく。

子供の年齢を、一体何歳と伝えたのか。いや、そもそも年齢を伝えたのだろうか?


フロントに電話しなきゃ……と思いベッドサイドテーブルに視線を向けたところで、ここが異世界だということを思い出す。


(電話はまだないか)

やれやれと重い腰をあげようとしたら、それを紺くんが静止した。


「僕が言ってきますので、ルルフェルさまはここでお待ちください」

「いや、どうせ別の用事もあるしいいy……」

ルルフェルが言い終わる前に、紺くんは視界から消えていた。

いや、の時点でドアを開けて消えていた気がする。


「はや……」

1人部屋に残されたルルフェルは唖然としてドアを見つめることしかできなかった。


気を取り直し、自分のアイテムボックスを開く。

その中には、幾つか換金に出さずに食料として手元に残しておいた肉と、ヴァンドラと会話したあとにもらった金が入っている。

ブッチャートに計算してもらっていた分の金だ。

金貨8600枚。


受け取る際、ブッチャートが「一気にこんな額が出たのは初めてだぜ!」と肉切り包丁片手に全身の筋肉を盛り上げていた。

ヴァンドラも「ワッ……」と口を覆っていた。

紺くんは8600枚の煌びやかさに当てられ気絶しかけたので、ルルフェルが支えてあげた。


ちなみに、ヴァンドラに金貨の価値を聞いた印象的に、日本でいう1万円が大体金貨1枚分だろうとルルフェルは判断した。

そして銀貨は1000円、銅貨は100円だろうか?

街で売られていた果物が1個銅貨2枚程度だったことから、恐らくルルフェルの推理は間違っていないように思われた。

つまり、一気に8600万円分の金を手に入れてしまったことになる。

受け取る際、ルルフェルは自制して飛び上がって喜んだりはしなかったものの、心の中では尻尾をプロペラのようにブンブン振り回していた。


入手した金貨を少し眺め、考えてから、その中から金貨を5枚ほど取る。

ルルフェルはそれを毛皮で丁寧に包んだ。

これは明日必要な物を買いに行くときに、紺くんにお小遣いとして渡すつもりである。

10歳に金貨5枚……5万円分は多い気がするが、いかんせん今の紺くんは物を持っていなさすぎる。

これくらい渡しておかないと、色々足りないだろうと判断した。


紺くんの表情はコロコロとよく変わり、見ていて飽きない。

この金を渡したときの表情を想像し、ルルフェルはフッと微笑んだ。


金貨を再びアイテムボックスに閉まったところで、ドアがノックされ、見るからにげっそりした紺くんと同じく顔面蒼白のホテルマンが部屋に入ってきた。


「今日は非常に混んでいて、ベッドの空きも、部屋の空きもないそうです」

紺くんが言うと、ホテルマンがルルフェルに向かってぺこぺこと頭を下げた。


「大変申し訳ございません、お客様。どのベッドも使用中でして……」

汗がびっしょりでかわいそうなくらい焦っている。

ルルフェル達の部屋を取るときにヴァンドラが脅しでもしたのだろうかと勘繰ってしまいそうになる焦燥感だ。


なんだかいじめている気分になってしまい、ルルフェルは眉をハの字にして上を見た。


「ああ、そんな……別に大丈夫。こちらこそ突然部屋を用意してもらったのに悪いな。全てヴァンドラのせいだと思う」

ルルフェルはとりあえずヴァンドラ悪役にした。

丸く収めるためだが、あながち間違ってもいないだろう。


未だにぺこぺこしているホテルマンに、とりあえず頼もうと思っていたルームサービスの食事を2人分頼み、帰ってもらった。


「ふう」

ホテルマンを見送り、後ろを振り向くと紺くんがベッドを両手で示している。


「……なに」

「このベッドはルルフェルさまがお使いください!」

ルルフェルは紺くんの側に歩み寄ると、その額を軽くグーでこづいた。


「うっ」

「一緒に使おう、昨日だって一緒に寝たじゃん」

「それは、あの洞窟だったからで……それに僕はソファでも以前の生活から比べると十分すぎるくらい贅沢で……」

「しつこい」

「ごめんなさい!」

紺くんがベッドに正座でぴょんと飛び乗った。


「でも、本当に。僕そもそも小さいですし、ルルフェルさま、狼の姿でででんとくつろいでくださいね」

「だから小さくもなれるんだって」

ルルフェルが肩をすくめた。


「あ、ベッドが毛だらけになるかもではあるんだけど……」

「ベッドがよりふかふかになりますね!」

「なんだそれ」

あはは、と笑い合う。

とりあえずベッド問題は解決でいいだろう。

(こんなでかいサイズのベッド、使わなきゃ勿体無いしね。)


しばらくして再びドアがノックされ、頼んだ夕飯が運ばれてきた。

トレイにのせられたドーム型の銀色のカバーを取ると、大きくカットされた肉料理が、野菜で綺麗に飾られた状態で出てくる。

温かいスープにパンも付いている贅沢仕様だ。


「美味しそ〜!」

ルルフェルは紺くんを部屋の端にあった椅子に座らせると、その前のテーブルに配膳していく。

紺くんは何か手伝えることはないかとそわそわ腰を浮かせたが、ルルフェルはあえて止めた。


「今は見て覚えて」

「分かりました」

(まあ、俺も誰にも見られてなかったら多分マナーとかあまり気にせず食べちゃうんだけどね)

内心では舌を出しつつも、紺くんに一般的な食べ方を教えながら肉を口へ運ぶ。


健気な紺くんは、本心ではもっと早く食べたいだろうに、しっかりマナーを学びながら食事をしてくれた。

そして流石主人公、飲み込みが早い。

近いうちに1人でも綺麗に食べられるようになるだろう。

小さな口で美味しそうに肉を頬張る紺くんを見て、ルルフェルは微笑んだ。

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