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神獣フェンリルはテイムされたくありませんっ!〜けど俺をテイムするはずの主人公に義務教育が足りてなさすぎるのでまずは教育しようと思います〜  作者: 咲田陽
第2章 城壁都市ココラス

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23. ヴァンドラ4

「いただきます」

ルルフェルはコーヒーに手を伸ばしかけたが、隣の手のつけられていない水を見つけると、まずはそれを紺くんの両手に突っ込んだ。

「それ君の分だから、飲みな」

そして紺くんが水を一口飲んだのを確認すると、自分もコーヒーに口をつける。

(うーん、カフェイン染み入るな〜!味が違ってなくて良かった)


「気に入ってもらえたのなら良かった」

コクコクと飲むルルフェルを見て、ヴァンドラは自身もコーヒーを少し飲むと、「さて、途中ちょっと話の腰が折れちゃったけど……」とやや前のめりに座り直した。


「君がフェンリルだということは十分分かった。見せてくれてありがとう。不可能だとは思うけど、君がフェンリルから服を取った悪者の可能性。それに助けられた彼の誤解だった、っていう可能性などもあったからね。」

わかっている、とルルフェルが頷いたので、ヴァンドラはそのまま話続けた。

「それで、ここに呼んだのは、その男性を助けてくれたお礼がしたかったからなんだ」

「お礼……」


ルルフェルの脳裏に4人の男性に囲まれていた男の顔が蘇る。

高価そうな服を身につけ、父に課された難題に挑んでいたあの男。

結果その男は助かったものの、残る4人は放置していることになるのだが……

「人命救助の、お礼?それとも……あの人、結構偉い人だった?」

ヴァンドラがニコリと笑った。

「あのお方は第1皇子のニコラス様だ」


「おーじさま……」

ルルフェルは頭を抱えてしまった。

貴族だろうとは思っていたが、そこまで偉い人だとは。

世の中こんなにも人で溢れているのに、何故自分はドンピシャで面倒くさそうな人に関わってしまったのか……。


「その様子じゃ、やっぱり知らないで助けたんだ?」

ヴァンドラが面白そうにルルフェルを見ている。

「第1皇子派とかではなく?」

「一切ないっ!」

ルルフェルは腹から絞り出すように唸った。


「ああ、いや……その、第1皇子が嫌とかではないんだ。俺はただ、服とかもらったし、このままだと困るかなと思って街まで送っただけで……。とりあえず普通にいい奴ではあったけど、政権争いとか、継承権問題とか、色々あるだろうそれらに関わるつもりは全く無い」

「このままだと困るかな……」

ヴァンドラは眉を上げ、驚いたようにルルフェルの言葉を復唱したが、すぐに元の微笑に戻る。


「それは第1皇子様も分かってらっしゃったから大丈夫。感謝こそすれ、君を利用する気はないとおっしゃっていた。」

「良かった〜」

ルルフェルはソファの背もたれに寄りかかった。

ちらりと隣を見ると、紺くんは、(そんなことがあったのか!っていうか自分はここにいていいのか!?)と考えていそうな表情でソワソワしている。


ルルフェルはフ、と笑った。

自分より焦っている人を見ると落ち着けるのは、何故なのだろうか。

「それで、そのニコラス様はルルフェルにお礼がしたいとおっしゃっていてな……もしルルフェルに褒賞の希望があれば聞きたいそうだ」

「それはありがたい……けど別に……うーん」

ルルフェルは頭を捻った。

欲がないことはないのだが、まだ何があるかよくわかっていないこの世界で急に何が欲しいか問われても困る。


悩み始めたルルフェルを横目に、ヴァンドラが自分のコーヒーを一気に飲み干した。

「きいたら宝石鳥を渡したんだって?あれ城2個くらい買えるよ、褒賞も高価なものでいいんじゃないかな」

「城2個!?」

(価値を知らないって怖い……!)

ヌワン、とルルフェルは再び頭を抱えてしまった。

結構なお金にはなると思っていた。が、それでもちょっといい家が買えるくらいだと思っていたのだ。

まさか城2個分とは……自分はそのように高価なものをポンと渡してしまったのか。相手が驚きに泣くのも納得である。


「あ〜……それ保留にさせてもらえないか?何か欲しいものができたら伝える」

「ん、大丈夫。ならそう伝えておくね」

しばらく考えたのち、ルルフェルは取っておくことにした。

なんとなく使ってしまうより、いざという時に使えるツテとして残しておいた方が有用だろう。


ふうと一息つくと、紺くんが小さく震えながらヒソヒソと話しかけてきた。

「あの、僕、ここにいても大丈夫ですか……?」

「ん?今更だし、別に大丈夫。むしろ思いつく欲しいもの、何かあったら教えて」

プルプル震えているのを見ながら、まるでうさぎみたいだな、などと考えていたらヴァンドラが口を開いた。


「ちなみにルルフェルと少年の関係は?きいていいの?」

「あっ、ご挨拶が遅れました。紺と申します」

「紺くんだ」

紺くんがぺこりと頭を下げる。

「紺くんは……成り行きで……なんとなく?」

「僕はルルフェルさまに助けて頂きました。そしてそのままご一緒させて頂いています」

「まあそんな感じだ!うん」

言葉では肯定しながら、ルルフェルが首を捻った。

(この子を怒らせたら将来的にテイムされちゃうから、頑張って仲良くしようとしてます!なんて説明できないしなあ)

「ふうん」

ヴァンドラは面白そうにルルフェルと紺くんを見比べた。


「もしよかったら紺くん、うちで預かろうか?」

「「えっ」」

ルルフェルと紺くんの声が重なった。予想外の提案だった。

「ギルドって人不足だし、それなりに戦えそうではあるから。きっと鍛えたら伸びるよ。でも今は……正直にごめんね、でも現状はルルフェルについていけるほどでは無さそうだし」

ヴァンドラは紺くんを値踏みするように見る。

遠慮のない視線に、紺くんは顔を少し赤らめ、眉を寄せると、口をへの字に曲げて俯いた。

ルルフェルの脳裏に震えて悲しそうにしている子うさぎがドナドナされていくビジュアルが思い浮かんだ。


「いや、紺くんとは一緒にいようと思う」

ルルフェルはヴァンドラをしっかりと見つめた。

子うさぎの逆襲が起きても困る。し、自分はこの子の面倒をみると決めている、離れる気はない。

「ん、残念」

ヴァンドラは肩を軽くすくめた。

あっさり引き下がるところをみるに、ルルフェルたちの反応を見たかっただけで、本気ではなかったのだろう。

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