19.ギルド 3
「す、すげえ、レアな魔物がたっくさんだ!」
「そうなのか?」
なら、大金になるといいな〜とルルフェルは口角を上げた。
途中で虎の存在を思い出し、今出した魔物の山とは別のところにホーンタイガーの死体を出す。
「あとこいつ……この魔物は恐らく毒がまわってて食べられないんだけど、もし売れるところがあるなら助かるなあと」
「こ、このホーンタイガーって……!」
ビビビ!と痺れるような動きをしながらブッチャートが飛び上がった。
そしてホーンタイガーへ駆け寄り、まじまじと遺体を調べ、叫ぶ。
「間違いねえ!こいつ、ギルドが手を焼かされてた個体だよ!」
「ああ〜」
そういえば冒険者襲ってたんだっけ、とルルフェルは思い出した。
討伐目標だったりしたんだろうか。
ルルフェルが脳内でチャリンチャリン音をさせながらのんびり構えていたら、ブッチャートがとんでもないスピードで、音もなくヌルッとルルフェルに近づいてきた。
「兄ちゃん、こいつ倒したのか!?何人で!?まさかこのガキと2人でじゃないだろ!?それにこの魔物の数にアイテムボックスの広さって……!」
怒涛の質問責めである。
ルルフェルは両手をあげて「待っ……近い近いて」と慌てたが、ブッチャートはそのままルルフェルの周りをぐるぐるまわりだした。
まじまじとルルフェルのことを観察し、「ほんとに人間か!?」と顎に手を置いた。
「!!!」
ルルフェルは内心冷や汗をかいたが、ブッチャートはバシン!と勢いよくルルフェルの肩に手を置くと、「なんてな!兄ちゃんすんごい強いんだな!!!」と豪快に笑った。
「ウッグ、ははは〜ね、当然人です。アリガトウゴザイマス」
ルルフェルは貼り付けた笑顔で笑い、紺くんは「ルルフェルさまはとってもとってもお強いです!」と首がもげそうなくらい頷いている。
「んじゃこいつらの金額計算するな!このホーンタイガーは指名料ついてるし、相当な額になると思うぜ!」
ブッチャートはパァンと自分の立派なちからこぶをはたいた。
「しっかり計算すっから任せなぁ!」
「よろしくお願いします」
ルルフェルたちが部屋の邪魔にならないところへ移動しようとしたら、「おっと忘れてた」とブッチャートに引き留められた。
「色々情報登録しとくから会員証を出しといてくれ」
「ん、これか?」
ルルフェルが先程タニアに作ってもらったカードを取り出して見せると、ブッチャートは首を横に振った。
「そうそう……ってブロンズじゃないか」
「ブロンズ?」
ルルフェルが首を捻ると、ブッチャートが顔を顰める。
「ランクだよ。こんなに魔物倒せるんなら最低でもシルバーかゴールドだと思ったが……」
「ランクがあるんですか?」
ルルフェルが恐る恐る聞くと、ブッチャートは自身の額をパァンと叩いた。
「なんてこった!冒険者ランクを知らない!?あんたらどこの田舎から来たんだ!?」
ルルフェルが慌てて紺くんの方を見ると、紺くんも知らなかったのか、あわあわしている。
ルルフェルは自分だけではなかったことに少し安心しつつ、再びブッチャートの方を向いた。
「無知ですみません……良かったら教えていただいても?」
「あたぼうよ!」
ブッチャートは自身の立派な大胸筋をパァンとはたいた。
「ランクはギルドが出している依頼をこなした数や、魔物の討伐実績によって上がっていく。」
ブッチャートがピッと4本の指をルルフェル達の前に出した。
「ランクは全部で4つ。下からブロンズ、シルバー、ゴールド、そしてプラチナだ。」
「実は俺たち、今登録したばかりなんですよね。だからブロンズ……じゃシルバーに行くには依頼をこなさなきゃいけないのか……」
ルルフェルはム、と口をへの字に曲げた。
「まあ兄ちゃんの実力じゃすぐにシルバーにはいくだろ」
ブッチャートは肩をすくめながらニッと笑ったが、すぐに怖い顔をして指を2本折り曲げた。
「そう、シルバーにいくのは簡単なんだ。問題はゴールドとプラチナ!」
「おお」
あまりの迫力にルルフェルと紺くんは思わず後ずさる。
「この2つのランクに関してはギルドの審査を経て、確かな実力者じゃないと認められない。試験とかが設けられたりもするんだ、何故なら実績を誤魔化そうとするやつも中にはいるからな!」
許せん!とブッチャートは腕を組みながらテカる筋肉を盛り上げさせた。
血管がはち切れちゃいそうだ。
この人筋肉の動きだけで感情表現できそうだな、と少し引きながらルルフェルが疑問をぶつける。
「ちなみにランクが上がると何かメリットがあるんですか?」
「いっぱいあるぜ」
ブッチャートはスッと指を1本上げた。
「まずギルドのホテルが宿泊無料になる」
「ほう!ギルドのホテルがあるんですか!」
ルルフェルは頭の中にメモをした。
(泊まる場所候補1位にしておこう。)
「もっとあるぞ。次に一般人は立ち入り禁止の区域に入れるようになる。あとは名誉だな、これが目的の奴が1番多い。単純に信頼度が違うし、周りから尊敬されるようになるし、指名の依頼もくるようになる」
ブッチャートは説明しながら上げていった自分の3本の指を見た。
「だが幾つか義務も発生する。例えば魔物が街を襲ってる〜なんていう緊急事態や、一般には処理できない高難易度の依頼をギルドからまわされることがある」
「あ〜……」
(ランクが上がるとギルドにいいように使われる可能性もあるってことか……)
今度はルルフェルが腕組みをした。
そんなルルフェルの様子を見てブッチャートがフッと笑った。
「まあそんな事態、滅多にないがな!それに連絡が取れなきゃ回されないんで、気配を感じたらすぐ逃げる面倒くさがりもいる」
「えぇ……それでいいんですか」
ルルフェルはじとっと半目になったが、ブッチャートは「下手に強えから、言うこときかそうとする方がコストかかんだよ」と肩をすくませた。
「きっとルルフェル様なら、なろうと思えばすぐプラチナとして認められます!」
紺くんが目を輝かせながら、胸の前でグッと拳を作った。
「ルルフェル様はとってもお強いので!」
「そりゃこんな数の魔物みせられちゃあなあ、そうだろうぜ!!!俺は応援するぜ!!!」
ブッチャートは頬を染めた顔でニヤリを笑うと、グッと両腕を曲げ、上腕二頭筋を隆起させた。
ついでにはち切れんばかりに膨らむ胸筋を、千切れそうなタンクトップが必死に頑張って押さえている。
「「お〜!」」
ルルフェルと紺くんはつい拍手を送ってしまった。
「だぁが!」
ブッチャートが腕を下ろし身体を前に傾け、上半身の筋肉を更に膨張させる。
パァンとタンクトップが弾けた。
エプロンはなんとか踏ん張っている。
「プラチナになったら王へ挨拶しに城へ行かなきゃならねえ……!」
「おお……!?」
ブッチャートのあまりの気迫に、ルルフェルと紺くんがごくりと唾を飲み込んだ。
「そして城内に閉じ込められるのだ……」
「えっ監禁されるんですか?」
急展開にルルフェルが目を剥いてブッチャートを見た。
「絶対プラチナにならない方がいいじゃないですか」
だがその時――
「まあ、そう言わないでよ」
室内に、ゆったりとした低音の美声が響いた。




