16.その視線、刺さってますよ
何をするにも、まず金が要る。
そしてどの貨幣がどれくらいの価値を持つのかを知る必要がある。
そうしなければ、相手にいいように言い含められ、金を必要以上に毟り取られてしまう。
フェンリルは街に並ぶ出店の商品や値札を記憶しながら、ギルドがある場所へと足を進めた。
魔の森で狩った魔獣を換金してもらう為である。
街に入る際、門兵に魔獣の換金について尋ねたところ、ギルドの場所を教えてもらえた。
どうやらギルドで色々換金できるらしい。
紺くんがついてきているか時折確認しながらスタスタと大通りを歩いていく。
そんなフェンリルの眉間に、僅かに皺が寄せられた。
すれ違う人々が、フェンリルたちの方をちらっちら、鬱陶しいくらいに見てくるのだ。
気づいてからは、フェンリルはなるべく気配を抑えようと務めたのだが、一度目視されてしまうと気配をいくら消していても意味がない。
男女年齢問わず、どういうわけかこちらを見てくる。
(何で見る!?どこか変か!?)
フェンリルはソワソワと落ち着かない気分になった。
前世の自分が、今のように謎の視線を集めるのが苦手だったことを思い出す。
何か変わったことをして目立っていないか、フェンリルは自分を見てみた。
確かに周りと比べると、フェンリルの着ている服は紐状のあれこれを取ったとはいえ、豪華だ。
それにフェンリル自身も恐らく約190cm程あり、周りの人々から頭ひとつ分抜けている。
だがそれだけだ。
(なら問題は紺くんの方か?)
ちらりと紺くんの方を眺めると、人の視線など全く意に介せずに、相変わらず街をキョロキョロ楽しそうに眺めていた。
そしてフェンリルの視線に気づくと、フェンリルの方を見上げ、ニコッと笑う。
フェンリルはヘラッと曖昧な笑顔で返事した。
(うーん、紺くんのこれは何?鈍感なのか?それとも天然か〜?)
方々から突き刺さる視線には気づいているだろうに、結構豪胆なところもあるのかもしれない。
その顔は、色々吹っ切れたからだろう、出会った当初と比べると生き生きとしており、輝いて見える。
そして、(流石主人公)、とフェンリルは片眉をあげた。
どこからどう見ても男の子なのだが、改めて見ると、とてもかわいい。気がする。
確かに今はみすぼらしい服を着てはいるが、そのハンデを感じさせないどころか上回ってくる顔面だ。
小顔だし、意思の強い大きな目は、今はかわいさを感じさせるが、大人になったらきりりとした彫りの深いかっこいい目元になるんじゃないだろうか。
少なくとも村やここら辺に大勢いる、ちょっと失礼だが、恐らくいわゆるモブ……と呼ばれている人々とは比べ物にならないくらい整っている。
きっと女性にモテるだろう。
(ケッ、なるほど。主人公パワーってやつね、はいはい)
フェンリルはチベットスナギツネのような顔になった。
フェンリルは既に失恋……になるのだろうか、をしているので特に羨ましいとも思わないが、卑屈な気持ちにはなるってものだ。
(せめて小説のエンディングのようなハーレムは作らずに、1人に尽くすような漢に育ってほしいよな〜)
どうやら見られている原因は、自分の隣にいる人物だと気づいたフェンリルは、フゥと小さくため息をつくと、(もう周りを気にしないようにしよ)と思った。
思ったのだが……その直後。
「あの2人さあ……」
「ね!思った!それ。やばいよね」
「わかる?わかる?」
2人の少女とすれ違ったとき、くすくすと笑う声が聞こえてきた。
「?」
やばい?なにがだ?と思い、考えを巡らせ……――あることに気づき、フェンリルの顔から一気に血の気が引いた。
もしかして――もしかしてだが、2人の洋服の格差により、周りの人たちには、フェンリルが紺くんをいじめているように見えている可能性はないだろうか?
そう、このいたいけな美少年を――……!
(違うぞ!!!?)
とんでもない誤解をされている可能性に気づき、フェンリルは見てくる人全員に弁明して周りたい衝動に襲われたが、涙目でグッと耐えた。
それを実行してしまったら、それこそ不審者扱いされてしまう。
フェンリルは肩身の狭い思いをしながら、人々からの舐めまわされるような視線をなるべく無視し、少し歩く速度を上げた。
……ちなみにだが、フェンリルの予想は全て外れている。
人々がフェンリルたちを見ていたのは、単純にフェンリルと紺くんが見目麗しかったからである。
2人に自覚は全くないが、フェンリルは一応女神から力授かりし神々しさ溢れる神獣のため、人間になっても外見は人形のように整っているし、キラキラと艶めき光り輝く金髪は風で少し揺れるだけで人々の息をのませた。
また紺くんはよくある少年漫画の主人公のように、ぱっちりと意志の強い大きな目に、まだ幼い少年特有のあどけない可愛らしさを持っており、すれ違う人の目線を釘付けにした。
兎にも角にも、2人とも人の目をひく外見をしているのだ。
しかし、そんな2人を……特にフェンリルの方を、他とは違う目線で見ている3人組がいた。
「おうおう、本当にいたぜ、我らが皇子サマの服着てる奴」
「あれが本当に……人間にしか見えない……」
「…………」
とある大通りに面した肉料理専門のレストランのテラス席。
そこにその3人は座って食事をしている。
1人は黒いワカメのような髪を、目が隠れてしまうくらいまで無造作に伸ばしている、顎に少し髭を生やした男。
1人は茶色い髪をきっちり七三に分けた真面目そうな男。
そして最後の1人は、濃い紫色の長い真っ直ぐした髪を持ち、目に布を巻いて隠している男だ。
その3人が3人とも、フェンリルが今着ている服と似ているが、よりシンプルで短いものを着ている。
「おいセブン、向けるのは好奇心だけにしておけよ」
テーブルに肘をついて、ぐんにゃりと身体を曲げている黒髪ワカメが、ニッと笑った。
「猜疑心や敵意なんざを視線に混ぜたら即気づかれんぞ」
セブンと呼ばれた茶髪の男が、焦った様子でワカメの方へ向く。
「向けてません!一応お……上司救った恩人ですし、上司の話も、嘘だなんてこれっぽっちも疑っていませんし大体……「はいはい」」
茶髪の男……セブンの言葉をワカメが面倒くさそうに遮った。
「〜ッ!ククルトゥス隊長こそ!」
遮られたセブンは、飄々としているワカメをキッと睨みつけ、小声で応戦する。
「フェンリ……あの人にに喧嘩を売りたくてうずうずしてるくせに!」
ククルトゥスはクイと肩をすくめるとセブンに言った。
「喧嘩じゃねえ、戦りたいとは思っちゃいるがよ。俺の実力が神獣サマにどれくらい通用するのか気になってるだけだ」
「結局は戦りたいんじゃないですか!」
違いがわかりません、とセブンは首を横に振った。
しかしククルトゥスはフンと鼻で笑うだけだ。
「全然違う。俺は楽しみたいだけだ。遊び相手見つけたガキみたいなもんだよ」
ククルトゥスはピッと、既に遠くに歩き去ってほぼ見えなくなっているフェンリルたちを指差す。
「現にあいつら、俺に気づかなかっただろ?」
セブンはぶすくれて、負けを示すために両手をあげるも、まだ「戦いに楽しみを見出す人が理解できません……」とか何だかんだぶつくさぼやいている。
一方、これまで2人のことを無視して優雅にコーヒーを楽しんでいた全身に包帯が巻かれている目隠れの男が、ククルトゥスの方へ何か言いたげに顔を向けた。
「……」
「分かってる。大丈夫だ。あの2人と出会う機会は作る。」
ククルトゥスはニッと笑った。
「絶対にな」




