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神獣フェンリルはテイムされたくありませんっ!〜けど俺をテイムするはずの主人公に義務教育が足りてなさすぎるのでまずは教育しようと思います〜  作者: 咲田陽
第1章 魔の森

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8. 俺、形から入るタイプなんだよね

「よっし、ごちそうさまでした!」

食事を済ませたフェンリルは、スッと立ち上がると紺くんの方を見た。


「紺くん、何か刃物、持ってる?」

「え?ええと、ナイフならあります」

紺くんが腰から刃渡り15cm程度の短刀を取り出し、フェンリルの方に差し出したが、フェンリルはそれを手のひらを見せて止めた。


「ああ、借りたいわけじゃなくてね。……一つお願いをしたくって」

フェンリルは自らの長く伸びた髪を、サラリと首元から掬い上げると紺くんの方に見せる。

「俺の髪。太ももの真ん中くらいまでに整えてもらいたいんだ」


ピャッと紺くんが縮み上がった。


「あのですね、僕は自分以外の髪を整えたことがなく……!フェンリル様の美しい髪に万が一があると思うと怖くてできません……!」

目を白黒させながらプルプル震える少年の髪をちらりと見る。

確かにおかっぱとまでは行かないが、前髪以外は比較的まっすぐに切られている。

それが似合っているからすごいのだが……。


「見えない自分の髪を切るのと、他人の髪を切るのとでは難易度が違うだろう。それに、多少失敗しても俺は気にしない。それこそ横に真っ直ぐ切ったとしても、ボサボサに伸び切っている今よりもマシになるだろうからな」


そう言うと、フェンリルは問答無用で後ろを向くと、ストンと座った。

「で、では……」

逃げられないと悟ったのだろう、放射線上に広がっているフェンリルのカラシ色の髪に、紺くんが恐る恐る触る。


数秒ののち、優しくナイフで髪を切る音が聞こえてきた。

「……綺麗な髪なのに、本当に切ってしまっていいんですか?」

シャッシャッ……シャッ……

優しい音を心地良く感じながら、フェンリルは閉じていた目を開いた。

「どうせ今の状態だと長すぎて邪魔になるだけだからな。いいんだ。あと……」

ニヤリとフェンリルが悪い笑みを浮かべる。


「こんなボサボサのままじゃ、村の奴らを威嚇するには迫力不足だからな!」

「えっ!?」


そう、フェンリルは村へ乗り込む準備として、髪を切ってもらっていた。

彼は形から入るタイプであった。


「髪を整えたら君の村へ行こう。」

衝撃で髪を切る手を止めたまま、眉をハの字にしてフェンリルの方を見ている紺くんの方へ振り返り、しっかりと目を合わせる。


「昨日言っただろう。明日、俺を君の村に連れてってねって。」

「ぼ、くの為……ですか?なら、申し訳ないので……」

フェンリルは、しょぼ、と自信なさげに目を逸らした紺くんの頭をくしゃりと撫でた。

「もちろんそれもある。が、別の理由もあって、どうせ行くから紺くんは気にしなくていいよ」


「別の理由ですか?」

紺くんがパッと顔を上げたのを見て、フェンリルは困ったように笑う。

この理由は、最初は紺くんに気を使わせないように用意したものだが、考えれば考えるほどフェンリルをイラつかせていた。


「ハハ、そう。もう一つの問題は、村人が俺を使って冗談を言ったことだ。」


スッと洞窟内の空気が冷える。


この感情は……怒りだ。

村人たちは、フェンリルが村人を弟子に取っているという嘘をついた。

要はフェンリルをダシに使ったのだ。

フェンリルのことをまるで考えていない、極めて悪質な嘘だと、彼は判断した。


前世の知識ではない。フェンリルとして、1匹の魔獣として生きてきた長年の経験により身に染みて分かっていることがある。


この世界では舐められたら終わりだ。


「……だから、分からせてやろうと思って。」

フェンリルは綺麗な顔で、ゾッとするほど美しく笑った。


少年を痛めつけただけじゃない。


貴様らは神獣に喧嘩を売ったのだと。


――――――


「終わりました」

「ん、ありがとう」

フェンリルは立ち上がって、クッと伸びをする。

そして再び髪を首元から両手で持ち上げ、サラリと一度波うたせた。


流石、だらけた生活をしていたとはいえ、腐っても神獣。

長い毛先に癖のあるからし色の髪は、力強くしなやかに、美しくきらめいた。


ほう、と紺くんが感嘆のため息吐く。

その手には切ったフェンリルの髪の毛の束がしっかりと握られている。


「うんうん、いい感じ」

フェンリルは自らの髪に満足すると、紺くんの方に振り向いた。

「最終意思確認だけど、紺くんは村の人から受けている扱いに対してどう思っているの?君はどうしたい?」


まさかとは思うが、実は村が大好きで、フェンリルが喧嘩を売りに行くことをよく思っていない可能性も考えて、念の為に聞いてみる。

紺くんは少しの間、足元を見ていたが、しっかりとフェンリルと目を合わせてきた。


「僕は、嫌でした。理由のない暴力を受ける謂れはないと思います。だから、やめてもらいたい……です。僕の気持ちも、わかってもらいたい。」


(わかってもらいたい、ね……)

フェンリルは内心肩をすくめる。

恐らく同じような扱いをフェンリルが受けたら、腹に強烈な一撃を叩き込むくらいはしてしまうのだが……。

恐らく紺くんの言う“わかってもらいたい”に同じ経験をして欲しい、という意味は含まれていないんだろうなと思う。


(とことん優しい子なのね)


「分かった。じゃ行こうか。」

フェンリルは狼の姿になると、紺くんを背中に乗せて洞窟から飛び降りた。


最後にちらりと今まで慣れ住んだ洞窟を見納める。

一瞬、洞窟の奥の黒い影の中に、記憶が戻る前のフェンリルがひっそりと佇んでこちらを見送っているような気がした。


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