10. そんな理由があるかーい
村人達は、動くどころか、まばたき1つすら、しないように気を張っているようだった。
トトルもフェンリルの問いに答えることなく、じっと押し黙っている。
すると沈黙に耐えかねた1人の大柄で間抜けそうな顔をした男が、声を張り上げた。
「……そんなの……こいつがよそ者だからですよ!」
ざわつきながら、周りの村人たちも、同調するようにうんうんと頷き出した。
トトル自身は無言のまま、頷くこともなく、じとりと睨めつけるような視線を紺くんに送った。
視線を受け、紺くんが悲しそうに下を向くのを、フェンリルは視界におさめる。
「よそ者?……ただそれだけの理由でこの子は傷つけられたのか?」
フェンリルが村人たちに向かって問うと、とうとうトトルが低く静かな声で呟いた。
「……伴侶もなく、同種も存在しない。個で確立しているフェンリル様にはわからないかもしれませんね」
「何?」
フェンリルが眉根を寄せてトトルの方を見る。
「この村は代々高潔な血の繋がりを保つことにより絆を強固で確固たるものにしてきたのです」
そう言うと、トトルが彼の隣にいた女性の肩に手を置き、抱き寄せた。
その顔は……。
「まさか、同じ血族で夫婦なのか?」
トトルを女性にしたらきっとこんな顔、というほどよく似た女性とトトルが、肩を寄せ合っている。
ギョッとしたフェンリルが、よくよく村人たちの顔を1人1人観察するように見ると、確かに似た特徴を持つ者がちらほらと見受けられた。
驚きに見開かれていたフェンリルの目が、キュウとトトルに向けて細められる。
(この村は血族婚をし続けてきたのか?)
「そんな……一体いつから……」
大分前にはなるが、フェンリルが以前この村を遠くから見た時は、閉鎖的だったとはいえ、違う家系が集まっていたはずだ。
固まるフェンリルを見て、フン、とトトルが鼻を鳴らし不気味に笑った。
その目の瞳孔は大きく開ききっており、流れ落ちる汗が入っても閉じられることはない。
「俺のお祖父様が他の血を排除したのだ」
もうそこにフェンリルへの畏怖はなく、ただただ自分たちの村が、フェンリルを恐れさせたという事実が、トトルに謎の自信をもたらしていた。
一方フェンリルは戸惑っていた。
トトルは誇らしげに胸を張っているが……。
「身内同士で子を成していくと、障害を持って産まれたり、早死する確率が高まるぞ。一族のことを思うなら、考えを早急に改めた方がいい」
フェンリルが警告する。
すると俄かに村がざわついた。
一般的に……少なくとも、フェンリルが前世生きていたところでは、似ている遺伝子を持つ者同士が配合すると、弱く障害を持つ子が産まれやすくなるということは、一般常識の範囲内だった。
だが、この世界……少なくともこの村では知られていないのだということをフェンリルは悟る。
トトルの証言が事実だとすると、この謎の血族崇拝は始まってからそう永くは経っていない。
これから新しい血を迎え入れることができれば、まだ取り返しがつく範囲内なのではないだろうか。
「む?そんなの聞いたことがないぞ。お祖父様は……」
「いくら神獣様とはいえ、そのような世迷言は広めないで頂きたい」
トトルの言葉を遮るように、決して大きくはないが、よく通る声が村に響き渡った。
「村長……」
何人かの村人が呟く。
「お祖父様!」
トトルが大きな声をあげた。
そんなトトルを庇うように、フェンリルの前に1人の小さな老人が、杖をつきながらよろよろと歩み出てきた。
白く長い目元を覆い隠すような眉毛に、腹までの髭をもさりと蓄えた、背中の曲がったご老体だ。
「我らが血を持つことは、この村の絶対の掟ですじゃ。」
老人は杖先を地面にドンと叩きつけた。
「それを揺るがすことは、例え神獣様でも赦されぬ」
フェンリルはふうと大きく息を吐いた。
紺くんを虐めていた奴を、ちゃちゃっととっちめようと思っていただけなのに、思った数倍でかい爆弾を抱えた村だった。
登場人物も勝手にわらわらと増えていくし……。
なんてこったい。おらこんな村いやだ。




